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遡ること数時間前、黄昏の中心地にある領主の館。その執務室にサリアが突然訪ねてきた。転移魔法を応用した転送ポートを密かに用意していたからこそ出来る芸当であり。
「おいおい、驚かせないでくれよ。心臓に悪いぜ?サリアの姉御」
目の前に突然サリアが現れたので驚いたベルモンドは肩を竦める。対するサリアは表情をほとんど変えず、気だるそうに口を開く。
「悪かったわね。貴方は留守番かしら?ベルモンド」
「お嬢の護衛の筈なんだが、最近は留守番ばかり任されてる。と言っても、難しい話はシスターとマーサの姉御が対処してる。俺は見回りをしてるだけだな」
「シャーリィからの信頼の証でしょう」
「まっ、不満はないさ。それで、ご用件は?アンタが動くんだ。厄介事じゃなけりゃいいが」
「話は聞いているでしょう?さっきシャーリィから連絡があったのよ」
サリアの言葉を聞いたベルモンドは、なにも言わずに窓を開けた。
「伝令!マクベスの旦那にお嬢から連絡が来たって伝えろ!」
「了解しました!」
正門付近に居た伝令が駆け出すのを見て、ベルモンドはサリアへ視線を移す。
「わざわざありがとな、姉御」
「事前に準備は出来ていたって事かしら?」
「ああ、お嬢からの連絡があり次第直ぐに行動できるよう準備してたからな」
用意周到なシャーリィらしい手際の良さに感心しつつ、サリアは口を開く。
「それなら話は早いわ。援軍を広場に集めてくれないかしら?送ってあげるわ」
「船でか?気持ちはありがたいが鉄道輸送の手配も済ませてるんだ。これ以上手を借りちゃ後が怖いしな」
ベルモンドの答えに対して、サリアは笑みを深める。
「そんな当たり前の手段じゃないわ。大丈夫、安全は保証してあげるから集めなさい。今回だけのサービスよ」
「お嬢は知ってるのか?」
「サプライズよ。少なくとも、シャーリィは喜ぶでしょうね」
「なら良い、すぐに集める」
あっさりと納得したベルモンドにサリアが首をかしげた。
「簡単ね?もう少し不審に思うかと」
「お嬢が喜ぶんだろう?それなら拒否する理由がないな。それに、今更お嬢の不利益になるようなことはしねぇだろ?」
「当たり前じゃない。あの娘は興味深い観察対象なんだから」
黄昏中央広場。町の中心にある領主の館の正面にある広場は、定期的に開催されるイベントなどで使われる他、交通の要所として機能していた。その広場に、暁の戦闘部隊が集結していた。
「三列横隊ーッッ!急げーッッ!」
総指揮官マクベスの号令に従い整列する兵士達。シャーリィの指示によって即応体制で待機していた二個中隊百名の精鋭達である。更に彼等の背後には武器弾薬、水食料、医薬品などの必要な物資を満載した馬車数台が待機していた。
この即応部隊はシャーリィからの指示が届き次第シェルドハーフェン六番街へ進出。そこで機関車を用いて帝都へ向かう手筈となっている。もちろん馬車に満載されている物資を積み替える必要があるので手間は掛かるが、本来ならば一ヶ月以上を有する行程を数日に短縮できる。
「やっぱり旦那が直接率いるのかよ?」
一緒にやってきたルイスがマクベスへ声を掛ける。即応部隊の指揮官を誰にするかシャーリィに一任されていたマクベスは、自ら率いることにしたのだ。
「いつまでも私が居ては後進が育ちませんからな。黄昏防衛および治安維持ならば若手達に任せても問題はありません。それよりも、なぜ広場に集合を?直ぐ様六番街へ向かうものと認識していましたが」
「それが分からねぇんだよ。俺もベルさんにみんなをここへ集めるように言われただけだからさ」
二人して考えていると、そこへカテリナとサリアが現れた。
「敬礼!」
一糸乱れぬ敬礼に対してカテリナは黙礼を返し、サリアへ視線を向ける。
「集めましたが、何をするつもりですか?激励などをするようには見えませんが」
「そんなことしないわよ、柄じゃないし。今回は大サービスって所かしら。シャーリィの驚く顔が見たいだけよ」
「益々分かりませんね。貴女がシャーリィと迅速に連絡を取り合えているのが不思議です」
「魔法に不可能は……いやまあ、色々あるけどこれくらい造作もないわよ。それで、これで全部?忘れ物は無いわよね?」
「はっ、ありませんが……海路で向かうのですかな?」
サリアの質問に答えながらも困惑した表情を浮かべるマクベス。サリアが何をしようとしているのか見当も付かないのだ。
「そんな面倒なものでもないわよ」
未だにサリアが何をするか分からないが、少なくともシャーリィに不利益は出さないだろうと判断したカテリナはマクベスへ視線を向ける。
「シャーリィ関連ですよ」
この一言でマクベスを含めた将兵の動揺は消えた。なにせこの百名は古参ばかりなのだから、シャーリィの突拍子の無さにも慣れているのだ。
「それならば仕方ありませんな。サリア女史、お願いします。何かすることはありますかな?」
「そうね、何が起きてもじっとしていて。おわるまでは、間違っても走り回ったりしないでちょうだい」
「承知致しました」
話が終わるとサリアは整列しているマクベス達へ手を向けて目を閉じる。すると彼等の足元に紫色の巨大な魔法陣が出現する。
「これは!?」
「慌てるな!各自その場を動くなよ!」
一瞬動揺が走るが、マクベスの一喝で鎮まる。
何となく察したルイスがマクベスへ言葉を投じた。
「旦那、シャーリィに伝えてくれ。無理すんなってさ」
「承った。必ずや無事に連れ戻そう」
魔法陣の光が更に強くなり。
「それじゃ、いってらっしゃい。シャーリィによろしく」
次の瞬間、百名の将兵と数台の馬車が魔法陣と一緒に消えた。
帝都近郊にある平原。主要な街道からも外れたその場所に巨大な魔法陣が現れて、同時にマクベス達が転移してきた。
「ここは……周囲偵察急げ!」
「第二小隊ーッッ!」
マクベスの号令で直ぐ様戦闘態勢が取られるが。
「指揮官殿!あれは!」
一人の士官が指差した先には、遠くに町並みが見えた。
「あれは……帝都?」
「間違いないか!」
「はっ!記憶違いでなければ間違いなく!」
帝都出身の兵が報告し、皆が唖然としている最中、駆け寄る一騎の騎馬があった。
「マクベスさん!?」
「レイミお嬢様!」
それは巨大な魔力を感じ取り馬を走らせて駆けつけたレイミであった。