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にこにこ
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高校交流プログラム。
近隣の高校同士で行われる交流会の打ち合わせ。
ひでは、生徒会役員として参加していた。
本当は立候補なんてするつもりはなかった。
先生に何度も頼まれ、断り切れず引き受けた役目だった。
「じゃあ今日はここまで!」
打ち合わせが終わると、同級生たちは楽しそうに校門へ向かって歩き始める。
「ひで! 帰ろー!」
『ごめん。忘れ物したから先帰ってて!』
「了解!」
友達の姿が見えなくなる。
用を済ませ、戻ろうとした時…
『あれ、どっちだっけ靴箱』
軽く迷子になってしまった
校舎を歩く。
教室。
廊下。
中庭。
どうしようと思ったその時。
チャプ……チャプ……
水の音が聞こえた。
体育館裏。
人気のない場所。
そっと覗く。
そこには、一人しゃがみ込む愁斗の姿があった。
靴は履いていない。
靴下のままコンクリートの上に立ち、蛇口から流れる水で必死に上履きを洗っている。
『……愁斗?』
名前を呼ぶと、愁斗の肩が大きく震えた。
振り返る。
「……っ!」
慌てて上履きを背中へ隠した。
『何してるの?』
「……。」
『外なのに靴下じゃん。風邪ひくよ。』
「……あんまり、人の学校うろうろしない方がいいんじゃないですか…??」
どこか冷たい声。
ひでは苦笑いする。
『ごめん。でも、その靴……。』
「なに?」
『どうしたの?』
「関係ない。」
『いや、でも——』
一歩近づく。
愁斗も一歩下がる。
「関係ないって言ってるじゃん。」
声は大きくない。
でも、いつもより少しだけ強かった。
ひではゆっくり手を伸ばす。
『見せて。』
「やめ……。」
そっと手首をつかむ。
隠していた上履きが視界に入った。
白い上履き。
そこには、黒いマジックで何度も何度も書かれていた。
『バカ』
『きもい』
『○ね』
『施設の子』
時間が止まる。
『……。』
言葉が出ない。
愁斗はその視線から逃げるように、小さく笑った。
乾いた笑いだった。
「すごいですよね。」
『……。』
「みんな、人を見る目あるんです。」
もう一度笑う。
「全部、本当だから。」
『は?』
「俺、バカだし。」
「きもいし。」
「施設の子だし。」
「生きてる意味なんて——」
『あるだろ。』
愁斗が言葉を止める。
『生きてる意味はある。』
「……。」
『それに、バカじゃない。』
『きもくもない。』
『むしろ、かっこいいだろ。』
愁斗は目を丸くする。
今まで誰にも言われたことのない言葉だった。
少しだけ視線が揺れる。
でも、すぐに逸らした。
「……何も知らないくせに。」
『知りたい。』
「え?」
『知らないから、知りたい。』
「……。」
『一人で抱えなくていい。』
その一言が、胸に刺さる。
だけど。
愁斗は小さく首を振った。
「無理。」
『なんで?』
「だって。」
少し笑う。
でも、その笑顔は泣いているように見えた。
「期待したら。」
「苦しくなるから。」
ひで何も言えなかった。
どんな言葉も、今は軽く聞こえてしまう気がした。
だから。
ポケットから一枚の紙を取り出す。
ボールペンで時間と場所を書く。
『今週の日曜日。』
『朝七時。』
『○○公園。』
愁斗は紙を見つめる。
「……。」
『来なくてもいい。』
『でも、待ってる。』
そう言って紙を愁斗の胸ポケットへ入れる。
踵を返す。
「……なんで。」
小さな声。
振り返る。
「なんで、俺なんかに。」
ひでは少しだけ笑った。
『分かんない。』
『でも。』
『放っておけない。』
そのまま歩き出す。
一度も振り返らなかった。
体育館裏には、水の流れる音だけが残る。
愁斗は胸ポケットの紙を取り出した。
そこに書かれた文字を、何度も何度も見つめる。
(……行くわけない。)
そう思いながら。
その紙を捨てることは、最後までできなかった。
コメント
1件
「ひで、かっこよすぎん…?」って思わず声出たわ。上履きに書かれた落書きを見て、それでも「知りたい」「放っておけない」って言えるの、めちゃくちゃ強い。愁斗の「期待したら苦しくなる」って台詞が刺さりすぎて、こっちまで息が詰まった。最後の公園の約束、行ってほしいなあ…。次話が待ちきれん🔥