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にこにこ
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にこにこ
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日曜日。
朝6:45。
ひでは約束の公園へ着いていた。
朝焼けが街をゆっくり照らし始めている。
ベンチに腰を下ろし、スマートフォンで時間を確認した。
6:58
『……来ないよな。』
そう呟きながらも、どこか期待している自分がいた。
7:00
誰も来ない。
7:10
ジョギングをする人が何人か通り過ぎる。
7:20
小さな子どもを連れた親子が公園へやって来る。
でも、愁斗の姿はない。
(やっぱり無理だったか。)
立ち上がろうとした、その時だった。
遠くから誰かが走ってくる。
制服ではない。
黒いパーカー。
帽子を深く被っている。
息を切らしながら、何度も何度もこちらを見ている。
愁斗だった。
『……来た。』
思わず笑みがこぼれる。
愁斗はひでの前まで来ると、深く頭を下げた。
「……ごめん。」
肩で息をしている。
『謝るなよ。』
「……。」
『来てくれたじゃん。』
愁斗は何も言わない。
ただ、俯いたままだった。
服はびしょ濡れだった。
前髪から水滴が落ちている。
『……雨、降ってた?』
空は快晴だった。
愁斗は小さく首を振る。
「……ううん。」
『じゃあ、その服……。』
「……。」
『何があったの?』
「……転んだ。」
少し間が空く。
嘘だ。
ひでにはすぐ分かった。
でも、それ以上聞かなかった。
『とりあえず座ろ。』
二人はベンチへ腰を下ろす。
沈黙。
鳥の鳴き声だけが響く。
『……自己紹介、まだだったね。』
ひでは少し笑った。
『俺、英寿。』
愁斗は少し驚いたように顔を上げる。
「……知ってる。」
『え?』
「交流会で……聞いた。」
『そっか。』
ひで は照れ笑いを浮かべる。
『じゃあ、君は?』
少しだけ沈黙が流れる。
そして。
「……愁斗。」
『愁斗。』
初めて、その名前を口にした。
不思議と胸が温かくなる。
『いい名前だね。』
愁斗は照れくさそうに目を逸らした。
「……ありがとう。」
その言葉は、かすかに震えていた。
少しずつ会話が始まる。
『学校終わったら何してるの?』
「バイト。」
『毎日?』
「……うん。」
『いくつ?』
「三つ。」
『えっ!?』
思わず声が大きくなる。
愁斗は苦笑いした。
「新聞配達。」
「ハンバーガー屋。」
「ティッシュ配り。」
『休みは?』
「ない。」
『……。』
『なんで、そんなに働くの?』
愁斗は少し空を見上げた。
「施設のお金になるから。」
『え?』
「 高校卒業したら。」
「施設を出なきゃいけない。」
「だから。」
「少しでも貯めないと。」
MORRIEは何も言えなかった。
自分と同じ高校生なのに。
考えていることが、あまりにも違いすぎた。
しばらく沈黙が続く。
すると。
愁斗がゆっくり立ち上がった。
「……帰る。」
『送るよ。』
「いい。」
『でも——』
「本当に大丈夫。」
歩き始める。
その背中はどこか頼りなかった。
ひでは少し迷う。
でも。
そのまま後ろを歩き始めた。
「……なんで来るの。」
『心配だから。』
「……。」
『倒れそうなんだもん。』
「倒れない。」
『顔色悪い。』
「いつも。」
『痩せすぎ。』
「昔から。」
『無理して笑ってる。』
愁斗の足が止まる。
振り返らない。
小さく息を吐く。
「……俺しか。」
『え?』
「俺しか。」
「下の子たち、守れないから。」
その声は、とても小さかった。
でも。
今までで一番、本音だった。
ひではゆっくり隣に並ぶ。
『じゃあさ。』
「……?」
『愁斗を守るのは、俺でもいい?』
風が吹く。
愁斗は何も答えなかった。
でも。
初めて逃げなかった。
二人は並んで歩く。
朝日がゆっくり二人の背中を照らしていた。
その日から。
週に二回。
そして三回。
二人は少しずつ会うようになっていく。
まだ友達とも言えない。
でも。
確かに二人の距離は、一歩ずつ近づいていた。
コメント
3件

続き楽しみしてます
にこにこさん、第5話読みました。 朝の公園、愁斗がびしょ濡れで現れるシーンがすごく気になりました。何があったのかな…。 でも、ひで(英寿)が「愁斗を守るのは、俺でもいい?」って自然に言えたのが印象的でした。重くなくて、それでいてすごく真剣な感じが伝わってきて、胸が熱くなりました。 少しずつ距離が縮まっている感じが繊細で、続きが気になります。