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今日は、初の重賞レース。前日の雨で、ダート1600メートルは重馬場となった。騎手も、いつになく真剣に準備を整えているらしい。
アメノマエは——
少し、体重が落ちていた。
怪我をしたわけではない。走りが悪いわけでもない。足は、確かに強くなっていた。
それでも。
——限界を感じていた。
ラップは更新されない。結果も派手ではない。
調教師の胸の内には、焦りがあった。
もっと成果を。
もっと派手な活躍を。
期待は、いつの間にか大きくなっていた。
その重さを、アメノマエは敏感に感じ取っていた。
空気が重い。それが、食を細くした。
もともと最低限しか食べない馬だ。この程度で体重が落ちるのも無理はない。
装鞍所。今日はいつもより鞍が重く感じられた。
パドックでは首を少し下げて歩く。いつも見ているファンが、わずかに不安を覚える。
本馬場入場。返し馬——軽く駆ける。
騎手は、やはり違和感を覚えた。
(……足取りが重い)
ゲートに入る。いつも通り——の、はずだった。
スタート。
ゲートが開く。
その瞬間、騎手は気づく。
それは馬群に飲まれまいとする恐怖の走りではなかった。
自分からレースを作ろうとする走りだった。
実のところ、アメノマエは気合いが乗っていた。
周囲の雰囲気に飲み込まれそうになりながら、必死に自分を保っていた。
それだけで、この馬が強いことは十分すぎるほどに伝わると思う。
コーナーに入る。
位置は、先団のすぐ後ろ。いつもとは違う。だが、それでいい。
内は遠心力で消耗が激しくなる。騎手は外へ。
落ち着いて、コーナーを回る。
最後の直線。
一斉に他馬が仕掛けてくる。
逃げ馬は、早めの展開に脚を使い切りかけていた。
先行していたアメノマエも——
いや、違う。
この時は知る由もなかったが、アメノマエは重馬場を得意中の得意としていた。
早めの展開。
重いダート。
ぬかるみでとられる脚。
他の馬がバテる中、鍛えた脚で、しっかりと地面を掴む。
前を捉える。抜け出す。
力強く、ぐっと、前へ。
差はいつも通り。
クビ差。
それでも——やりきった。
レースに飲み込まれず、自分の仕事をして勝ってみせた。