_____________
眩しい日差しに起こされる。しかし、眩しすぎて目が半分も開かない。頭は覚醒しきっておらず、寝惚け眼でぼんやりと天井を見つめた。普段、目覚ましで起きる方が明らかに多いため、日差しで目が覚めるのも案外悪くないな、と思う。二度寝をする可能性は、だいぶ高いが。
うつ伏せになる為に身体を動かすと、膝になにかがぶつかった。
「んん………」
唸り声が聞こえて、それが雲雀の手だと気付く。だが、なんで雲雀がここに?と、少し疑問に思う。自分の部屋で寝ないで、ソファに突っ伏して寝るなんて。きっと、起きたら身体が悲鳴を上げるだろう。
雲雀とぶつかった衝撃で、完全に眠気がどこかへ行ってしまった。
「…….ったく、ほんとバカだなお前」
そう言いながらも、口元は自然と緩んでしまう。くしゃっ、と雲雀の頭を撫で、身体を起こす。ふと、視界に入った雲雀の耳が、少し赤くなっているのに気付いて、「あっ」と思わず声が漏れる。
「お前、起きてるやん!」
「…….バレたか」
そう言って、雲雀が顔を上げた。頬には、くっきりとソファの跡が付いている。
ソファに座ろうと手をついた拍子に、腕に痺れがきたらしく、宙に浮かせて痺れが治まるのを待つ姿。それを見て、痺れているであろう腕にツンツンと悪戯をすれば、「やぁめぇろ!」と、大きな声が返ってきた。
「こんなとこで寝るからだろー?」
「だぁって、………奏斗と一緒に居たくて。」
徐々に小さくなる声。それでもハッキリとこの耳に届き、その真っ直ぐさに顔が熱くなった。
「…..あ、そ」
「…..奏斗、…..昨日の事覚えとる?」
「………なんか、…..あったっけ」
「………….。」
「うっそー!!」
「っお前ぇ!!!!!」
「うわぁーっ!」
雲雀の身体がこちらに傾いてきて、体重を乗せてくる。そのままソファに倒れ込んで、さらに体重を乗せられた。
「忘れるわけ無いじゃん?!泥酔してた訳じゃないんだからさぁ〜、その程度じゃ記憶飛ばないんだよね」
「ふ〜ん?」
「ちょっ、ねぇ重いんだけど!」
「んー?」
「おーぉーいっ!」
体重を乗せるだけじゃ足りないのか、髪をわしゃわしゃされる。流石に抵抗すべく足をジタバタすれば、「いてっ、いてぇ!」と、ソファから落ちていった。
二人して顔を見合わせると、一気に笑いが込み上げる。
「はーっ、おっかし」
「お前、髪もさもさやね笑」
「雲雀がやったんじゃん!」
そう言って頬を膨らませれば、笑いながら俺の髪を撫で、整えてくれる。その手つきはとても優しくて、温かくて。少しだけ、ドキッとした。
「はい元通り」
そう言って、頭をポンポンする。こんな事、いつもしてきたっけ。雲雀って、こんな風に触ってきたっけ。いつでも誰にでも優しい雲雀だが、好きだと伝え合った後の雲雀は、なんだか少しだけいつもと違くて。
「奏斗?」
「………..。」
心配そうな声色と共に、俯く俺の顔を覗き込んでくる。俺は今、どんな顔をしているんだろうか。なんとか、いつも通りに出来ているはずだけれど。
「おまっ、………なんて顔してんだよ」
「………..どんな?」
「いや、…..なんて言うか…..。顔赤くて目がキュルンキュルンでさー、…..俺の事が好きって顔…..か?」
「っ………..うるさっ」
「ははっ、………かわええ」
頬に触れる雲雀の手。細くて長くて、いかにも器用そうな手。それが、頬に添えられる。その瞬間、口をギュッと硬く結び、同時に目も硬く閉じた。雲雀がゆっくりと近付いてくる気配を感じながら、凍ったように動かずに待っている。と、頬から手が離れ、ギュッ、と腰に手が回ってくる。身体が、温かい感覚に包まれた。
ゆっくりと、先程まで硬く閉じていた瞼を上げる。
「………….へたれ」
「ちっ、違ぇよ?!…奏斗が緊張してたから…..うつった」
「し、てない…..し」
「…..こんなうるさいのに?」
俺の胸に顔を埋めて、抱きしめる力を先程より強めてくる。
心臓の音。こればっかりは制御出来なくて、聴かれてるこの状況が恥ずかしくて堪らない。離れたくても、この腕に強く抱かれ、離してもらえそうもなかった。
「っ………..ひば…..」
「んー?」
「………しないの?」
「なにを?」
「………….。」
疑問と共にこちらを向いた雲雀。その隙を狙って、キスを落とす。俺ばっかり意識して、余裕無くしてムカつくから、舌を入れて深く口付ける。
「んっ、…かあ、…..とっ…..」
驚いている。そのせいで目を見開いているから、キラキラとした瞳がよく見えた。今は俺が主導権を握っていて、雲雀はされるがまま。雲雀がノってくる前に、出来るだけこいつの余裕とやらを奪ってやる。そう意気込んで 舌を絡めれば、雲雀の手が腰から服の下へ移動する。服をめくって来たその手に背中をなぞられ、ゾワゾワとした感覚が脳まで走った。
「っんぅ、…..ふ、…んっ…….」
部屋に響くリップ音。雲雀の手が触れる度、…..俺の身体を撫でる度、漏れてしまう自分の声。手つきがいやらしく、自分から仕掛けたキスも、そこからは雲雀の思うがまま。
あっという間に主導権を奪われてしまった。
「んぁ、っ…..は…..」
「…..っは、…….かなと、…」
「はぁっ、…….っん、?」
熱い息に紛れて聞こえた、名前。それになんとか返事をする。自分の瞳に雲雀を映せば、ギラっとした目に、少し赤い頬。俺とキスしてこうなったんだな、と思ったら、なんだか凄く良い気分だ。
「かなと、」
俺の名前が再び聞こえて、身体がぐわんとソファに倒れる。気付けば、雲雀が俺の上にいて。見つめ合ったまま、時計の針の音だけが鮮明に聞こえてくる。そんな、時が止まったかのような時間が数分流れていく。
先程まで熱かった感覚が、そこでだんだんと消えていく。それがなんだか嫌で、雲雀の首に腕を回して引き寄せた。体温を、もっと感じたい。雲雀の、俺の事が好きだ、っていう体温。もっと、もっと。感じたかった。
「…..離れないで」
雲雀の肩に顔を埋め、篭った声でそう言った。一方的に捕まっていた時は、早く離れたい、だとか。思っていたくせに。自分でも、言った後に驚いてしまった。
「寂しくなっちゃった?」
その言葉に、ハッとする。しっくりと来てしまったんだ。この、自分でもよく分からないモヤモヤとしたものの名前は、寂しさだったのか、と。
首を縦にこくり、と動かし、その意志を静かに伝えた。
「俺は離れんよ?」
「…..さっき離れた」
「…あぁ、…..一旦、落ち着こかな、って」
「…..いいのにそんなの」
「止まれんくなるかもやったんやぞ?」
「いいって」
目の前にある白くて細い首筋に、ちゅっ、とキスをする。その時聞こえた「ぴゃっ」という高い声が面白くて、もう一度キスをした。
「っおい、奏斗ー?」
「ほら、来なって」
「あーっもう、知らんからな!」
視線が交わって、唇を重ねる。それは、初めから舌を絡める深いキスで、一気に気持ちが高ぶっていく。二人の吐息が、体温が混ざりあって、どっちの心音か分からなくなるくらいドキドキして。
そんな、この瞬間に。確かな幸せが一つ。
それが、この先もたくさん増えていけばいいと、そう思った。
_____________
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!