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#現代ファンタジー
裏五条
56,382
闘技巨王バルグラン・ミノス。
鹿島ダンジョンの主は、青い光になって消えた。
闘技場には、まだ戦いの跡が残っている。
砕けた床。
焦げた石。
斧が削った傷。
鉄球がめり込んだ穴。
それでも、さっきまで感じていた重圧はもうない。
「……終わったな」
俺は剣を下ろし、息を吐いた。
今回のダンジョン配信で手に入れたものを、改めて確認する。
メロンサイズの魔石。
小玉スイカサイズの魔石。
《力の加護のネックレス》。
《蓄魔晶》。
そして、黒い革表紙の魔導書。
……大当たりも大当たりだ。
一つだけでも十分すぎる戦利品。
それが、これだけ並んでいる。
こんなについていることは、めったにない。
いや、普通はない。
『改めて見るとやばい』
『戦利品豪華すぎ』
『メロン魔石だけでも大当たりだろ』
『魔導書が気になりすぎる』
『鹿島ダンジョン夢ありすぎ』
コメント欄も、まだ興奮が冷めていない。
俺はスマホのカメラへ向き直った。
「ノエル。じゃあ、いつもの締めを頼む」
「まかせて!」
ノエルが一歩前へ出る。
羽を軽く揺らし、胸を張り、妙に得意げな顔をした。
「今日は、このノエルの加護のおかげで、多くの戦利品が獲得できたわ!」
「そこはパーティ全員のおかげだろ」
「細かいことはいいのよ」
よくない。
でも、ノエルは止まらない。
そのままカメラへ笑顔を向ける。
「加護が欲しい方や、配信が面白かった方は、ぜひチャンネル登録、★評価、よろしくお願いしまーす!」
クロエが隣から手を振る。
「よろしくねっ♪」
フィーネも、少し恥ずかしそうに両手を前で揃えた。
「……よろしくおねがいします……」
セリナは背筋を伸ばし、深く一礼する。
「ご視聴ありがとうございました」
『ノエルの加護w』
『★入れました!』
『チャンネル登録済みです!』
『今日の配信神回だった』
『爆発矢→闇縛域→断頭は熱すぎた』
『鹿島編お疲れさま!』
最後まで、コメント欄は勢いよく流れていた。
俺もカメラへ軽く頭を下げる。
「みんな、お疲れさま! さあ帰ろうか」
「帰ったらごはんね!」
ノエルの反応が早い。
「ノエル様、先ほどまでボス戦をされていたとは思えない切り替えでございますね」
セリナが微笑むと、ノエルは当然のように胸を張った。
「戦ったあとは食べる。これは天使の常識よ」
クロエはくすくす笑いながら、ロッドを肩に担いだ。
「でも賛成♪ クロエもお腹すいた」
「俺もだ」
緊張が抜けた途端、急に腹が減ってきた。
鹿島ダンジョン攻略。
最深部ボス討伐。
大量の戦利品。
今日はもう十分すぎる。
俺たちは鹿島ダンジョンをあとにした。
◆
マンションへ戻る頃には、全員さすがに疲れていた。
危ない場面は何度もあった。
気を抜ける時間も、ほとんどなかった。
俺としては、今日はもうレトルトで簡単に済ませるつもりだった。
温めるだけのカレー。
冷凍食品。
それで十分だ。
そう思っていたのだが――。
「皆様、少々お待ちください」
セリナが静かにそう言って、キッチンへ向かった。
「いや、セリナ。今日は疲れてるだろ? 無理しなくていいぞ」
「問題ございません」
セリナはエプロンを手早く身につけながら、穏やかに答えた。
「出発前に、下ごしらえを済ませておりますので」
「下ごしらえ?」
「はい。お任せください」
その数分後。
テーブルの上には、湯気の立つシチュー。
ふっくら焼き上がったハンバーグ。
彩りのいいサラダ。
さらに、温かいパンまで並んでいた。
「……数分で出てくる料理じゃないだろ、これ」
思わず本音が出る。
ノエルが椅子に座るなり、目を輝かせた。
「シチュー! ハンバーグ! 最高じゃない!」
クロエも嬉しそうに身を乗り出す。
「セリナちゃん、すごすぎ♪」
フィーネは湯気の立つシチューを見つめ、ほっとしたように微笑んだ。
「……いい匂いです……」
俺はセリナを見る。
「ありがとう。助かるよ」
「いえ。メイドの務めですから」
セリナはいつも通り落ち着いた声で言った。
でも、尻尾が揺れている。
ゆっくり。
嬉しそうに。
本人は平静を装っているつもりかもしれないが、尻尾はかなり正直だった。
◆
「それじゃあ、鹿島ダンジョン攻略を祝して」
俺がグラスを掲げる。
「かんぱーい!」
ノエルが元気よくビールジョッキを上げた。
俺もビール。
フィーネは麦茶。
クロエはワイン。
そして、セリナは小さなおちょこを掲げていた。
中身は日本酒だ。
少し前から、セリナは日本酒を飲むようになった。
きっかけはノエルだ。
ノエルがビールだの、ワインだの、テキーラなど、色々な酒をセリナに勧めた。
その中で、セリナが一番気に入ったのが日本酒だった。
「セリナ、本当に日本酒好きになったな」
「はい。とても奥ゆかしい味わいで、料理の邪魔をせず、それでいて余韻が残ります」
「コメントが本格的だな」
「ふふん。私が育てたわ」
ノエルがなぜか自慢げに言う。
「飲ませただけだろ」
「導いたのよ」
導きの天使の使い方が雑すぎる。
シチューを一口食べる。
柔らかい。
野菜は形を残しているのに、口の中でほろっと崩れる。
肉の旨味が溶けたスープに、クリームのまろやかさが重なっている。
疲れた身体に、じんわり染みる味だった。
「うまいな……」
自然に声が出た。
セリナの耳が、ぴくりと動く。
「お口に合いましたでしょうか」
「すごく合ってる。ダンジョン帰りにこれは反則だ」
「ありがとうございます」
セリナは丁寧に頭を下げる。
やっぱり尻尾は揺れていた。
ハンバーグもすごかった。
箸を入れると、肉汁がじゅわっと出る。
表面は香ばしく、中はふっくら。
ソースは濃すぎず、シチューとも喧嘩しない。
ノエルが一口食べて、目を閉じる。
「んんっ……これは勝利の味ね」
「シチューとハンバーグで勝利を表現するな」
「でも実際、勝利の味でしょ?」
「まあ……否定はしない」
クロエはワインを軽く揺らしながら、ハンバーグを嬉しそうに切っていた。
「セリナちゃん、お店出せるよこれ」
「恐れ入ります。ですが、わたくしは皆様にお出しできれば、それで十分でございます」
「重い。けど尊い」
ノエルが小声で言う。
フィーネはサラダを少しずつ食べながら、穏やかに笑っていた。
「……あの……こういうごはん……落ち着きます……」
その一言に、俺も頷く。
ダンジョンで魔物と戦った。
巨大なボスを倒した。
億単位かもしれない戦利品も手に入れた。
でも、こうして帰ってきて、温かい食事を囲んでいると、少しだけ現実に戻ってこられる。
いや。
これももう、俺たちの日常なのかもしれない。
「本当に、今日はお疲れさま」
俺がそう言うと、全員がそれぞれに頷いた。
ノエルはビールを飲み、
クロエはワインを掲げ、
フィーネは麦茶を両手で持ち、
セリナは日本酒のおちょこを静かに傾ける。
鹿島ダンジョン攻略の夜は、思っていたよりもずっと穏やかに更けていった。
◆
翌日。
俺たちは銀座に来ていた。
目的地はもちろん、山崎店長のいる特約店だ。
店の前に立つと、自然に背筋が伸びる。
何度か来ているはずなのに、この店の空気にはまだ慣れない。
派手な看板があるわけではない。
過剰な装飾があるわけでもない。
それなのに、入口からすでに「ここは普通の店ではない」と分かる。
磨き込まれた床。
静かに光を受けるガラス。
控えめなのに、隙のない調度品。
並んでいる品物も、ただ飾られているというより、そこにあるだけで価値を語っているように見えた。
「いらっしゃいませ、シンゴ様」
山崎店長が、いつもの柔らかな笑みで迎えてくれる。
落ち着いた声。
丁寧な所作。
こちらが持ち込むものを、いつも真剣に扱ってくれる安心感がある。
「今日は査定をお願いしたくて」
「承知いたしました」
俺はリュックから、今回の戦利品を順番に取り出した。
メロンサイズの魔石。
小玉スイカサイズの魔石。
《力の加護のネックレス》。
《蓄魔晶》。
魔導書。
カウンターへ並べていく。
その瞬間、山崎店長の目が、ほんのわずかに大きくなった。
「……これはまた、見事なお品をお持ち込みになられましたね」
山崎店長は静かに言った。
「一点一点、拝見するのが楽しみでございます」
この人が言うと、ただの営業トークには聞こえない。
俺は小さく頭を下げた。
「お願いします」
◆
別室へ案内される。
テーブルに戦利品を並べると、山崎店長が合図をした。
スタッフが静かに機材を運んでくる。
手袋。
測定器。
純度計。
重量計。
ゴト、カチ、ピッ――。
見慣れた音が、静かな部屋に響く。
まずは、魔石からだった。
山崎店長はメロンサイズの青い魔石を、慎重に機材へ乗せた。
「こちらは純度九十三・六パーセント。標準的な範囲でございます」
標準的。
このサイズでそう言われると、少し感覚がおかしくなる。
店長は重量計の表示を確認した。
「重量は……二千三百グラムですね」
二・三キロ。
魔石として考えると、かなり重い。
山崎店長は端末へ数字を入力し、少ししてから顔を上げた。
「一点、一億五千五百万円になります」
「……相変わらず、すごい額ですね」
声が少し乾いた。
一億五千五百万。
聞いただけで、普通なら手が震えるような金額だ。
続いて、小玉スイカサイズの魔石が測定器へ乗せられる。
山崎店長が、少しだけ目を細めた。
「こちらは……なかなか拝見する機会の少ない大きさですね」
声は落ち着いている。
だが、その言葉だけで、相当な品だと分かる。
「純度は同じく九十三・六パーセント。重量は……四千百グラム」
「四千百グラム……」
思わず喉が鳴った。
四・一キロの魔石。
数字だけでもすごいのに、目の前に実物があると迫力が違う。
山崎店長は端末を操作し、静かに告げた。
「一点、二億七千六百万円になります」
「……二億七千……」
途中で言葉が止まった。
金額として大きすぎて、口に出すのが追いつかない。
山崎店長は続ける。
「二点合わせまして、四億三千百万円となります」
何度聞いても慣れない。
億という単位に少し慣れた気がしていた自分を殴りたい。
まったく慣れていなかった。
「両方、買取でよろしいでしょうか」
山崎店長が確認する。
「は、はい。お願いします」
声が少し引きつったのが、自分でも分かった。
「承知いたしました」
それからは、いつもの流れだった。
書類の確認。
端末操作。
電子署名。
振込手続き。
少しして、山崎店長が静かに言う。
「入金のご確認をお願い致します」
俺はスマホの銀行アプリを開いた。
数字が増えている。
現実感がないくらい、大きく増えている。
「……確認しました。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
山崎店長が丁寧に頭を下げる。
俺も慌てて頭を下げ返した。
◆
続いて、《力の加護のネックレス》の鑑定に移る。
山崎店長がネックレスを専用の台へ置き、測定器を起動する。
ゴト、カチ、ピッ――。
少しして、鑑定結果が表示された。
【分類:装飾品】
【等級:希少級】
【銘:《力の加護のネックレス》】
効果:筋力増加20%
予想価格:50,000,000円
「簡易鑑定していた通りだな」
俺はセリナを見る。
「これは引き続き、セリナが持っていてくれ」
セリナは一瞬だけ目を丸くし、それから両手で丁寧にネックレスを受け取った。
「恐れ入ります」
声は落ち着いている。
けれど、耳が少し動いていた。
大事に思ってくれているのが分かる。
「セリナが持っていた方が、パーティ全体の安定にもつながるからな」
「はい。必ず、皆様をお守りするために使わせていただきます」
その言葉が、セリナらしかった。
◆
次は《蓄魔晶》だ。
王冠型の宝飾品モンスターから手に入れた、魔力を蓄えられる魔鉱石。
山崎店長が慎重に手袋を替え、測定器にかける。
いつもより、少しだけ扱いが丁寧に見えた。
ゴト、カチ、ピッ――。
表示された鑑定結果を見て、山崎店長がわずかに目を細める。
【分類:鉱石】
【等級:伝承級】
【銘:蓄魔晶】
魔力を注ぐことで、内部に魔力を蓄積できる魔鉱石。
蓄えた魔力は必要に応じて引き出すことができ、魔法道具の動力源や、結界装置の補助、魔力切れの際の予備魔力として利用できる。
予想価格:200,000,000円 ※買取不可
内容は、前にフィーネが説明してくれたものとほとんど同じだった。
魔力を入れておける。
必要な時に引き出せる。
魔法道具や結界装置に使える。
ただ、一点だけ気になる表示があった。
「買取不可?」
俺が聞くと、山崎店長は静かに頷いた。
「はい。こちらの《蓄魔晶》は、極めて希少かつ価値の高い素材でございます」
「それでも、買取不可なんですか?」
「価値がない、という意味ではございません」
山崎店長は、言葉を選ぶように続けた。
「現代の設備と技術では、この石を適切に加工し、性能を引き出すことがほぼ不可能なのです。扱い方を誤れば、ただの希少な鉱石として保管することしかできません」
なるほど。
「つまり、欲しがる人がいないというより、使いこなせる人がいない」
「おっしゃる通りでございます。美術品としての価値はございますが、本来の用途を考えますと、買い取っても活かすことができない。結果として、当店では買取対象外とさせていただいております」
「現代と異世界では、加工技術が違うんですね……」
俺が呟いて横を見ると、フィーネが何かを言いたげに、もじもじしていた。
耳が少し動いている。
視線は《蓄魔晶》に釘付けだ。
「分かりました。こちらは持ち帰ります」
俺は山崎店長にそう言ってから、《蓄魔晶》を手に取った。
そして、フィーネへ差し出す。
「これはフィーネに預けるよ。好きに使ってもらっていい」
「……えっ」
フィーネの目が、ぱっと大きくなった。
「……いいんですか……?」
「もちろん。こういうのは、フィーネが一番うまく使えるだろ」
「……ありがとうございます!」
フィーネが両手で《蓄魔晶》を受け取る。
その顔が、ぱあっと明るくなった。
こんなに素直な笑顔は、めったに見られない。
目がきらきらしている。
というより、燃えている気がする。
創作意欲に火が付いた顔だ。
ノエルが小声で言う。
「フィーネ、完全に工房モードに入ったわね」
クロエも笑う。
「これは何か作る顔だね♪」
フィーネは《蓄魔晶》を胸元で大事そうに抱えながら、小さく何度も頷いていた。
◆
そして、いよいよ最後だ。
黒い革表紙の魔導書。
俺はそれをテーブルの上に置いた。
前に手に入れた魔導書は、《衣透視(クロス・スルー)》だった。
対象の衣服や外装を一枚だけ透過して見ることができる魔法。
最初に聞いた時は、正直、かなり反応に困った。
完全にイロモノ魔法だ。
だが、実際には暗器や隠し装備の確認に使える。
相手の外装の下にあるものを確認できるというのは、思った以上に実用的だった。
なんだかんだで、役に立つ場面もあった。
それでも。
俺の中には、少しだけ別の思いもある。
ノエルの結界、フィーネの精霊魔法、クロエの火炎魔法。
俺も、かっこいい魔法を使ってみたい。
「これも鑑定をお願いします」
俺は、少し緊張しながら魔導書を山崎店長へ渡した。
山崎店長は表紙の紋様を見て、慎重に受け取る。
「承知いたしました」
黒い革表紙。
巨大な角のような紋様。
金属製の留め具。
山崎店長が、魔導書を測定器の上へ置く。
ゴト、カチ、ピッ――。
静かな音が、部屋に響く。
俺は知らないうちに息を止めていた。
今度こそ、まともにかっこいい魔法なのか。
それとも、また名前だけ聞くと反応に困る魔法なのか。
ノエルが、にやにやしている。
「シンゴさん、顔が真剣ね」
「そりゃ真剣にもなるだろ」
クロエが楽しそうに言う。
「また変な魔法だったらどうする?」
「変な魔法って言うな。前のも実用的だった」
「じゃあ、実用的な変な魔法?」
「それもだめだ」
フィーネは少し緊張したように、魔導書を見つめている。
セリナも静かに結果を待っていた。
山崎店長が測定結果を確認する。
ほんの少し、間が空いた。
そして、山崎店長がゆっくりと顔を上げる。
「こちらの魔導書に込められている魔法は――」
コメント
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うわああ第119話読み終わったよ〜!!🔥🔥 鹿島ダンジョン攻略お疲れ様でしたって気持ちでいっぱい🤝💕 戦利品の査定のとこ、魔石4億超えとか伝承級の蓄魔晶とかマジでやばすぎて声出たんだけど!?😳✨ でも何より好きだったのは帰宅後のセリナの手料理シーン…!! あの温かいシチューとハンバーグ、疲れた身体に染みる感じがめっちゃ伝わってきてこっちまでほっこりしたよ🥺💖 しかも尻尾ゆらゆらしてるセリナかわいすぎ〜!! そしてラストの魔導書鑑定… まさかここで終わるの!? どんな魔法なのか気になって夜しか眠れないんだけど!?😭💦 続き待ってます!!