テラーノベル
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すたーと!
朝は、嫌いじゃない。
亮平は、そう思っている。
早起きは得意じゃないし、胃は正直で、無理をするとすぐ文句を言ってくる。
それでも朝が嫌いじゃないのは、この家がちゃんと「生きてる音」で満ちているからだ。
「……よし、起きるか」
布団から体を起こして、軽く伸びをする。
今日はまだ胃の調子も悪くない。
たぶん。きっと。希望的観測だけど。
――目黒亮平。
頭を使うのは得意。段取りも管理も好き。
その代わり、体はあまり強くない。
でも、七人の息子と一人の夫をまとめるには、これくらいがちょうどいいと自分では思っている。
この家での自分の役割で 一番しっくりくるのは「まま」だ。
さて、と亮平はスリッパを履いて廊下に出た。
最初に向かうのは、いちばん安心できる場所。
寝室のドアを開けると、案の定だった。
布団を蹴散らし、腕も脚も投げ出して眠る男が一人。
「……蓮、起きて」
「ん〜……りょうへい……」
名前を呼ぶと、条件反射みたいに返事だけはする。
目黒蓮。
顔はいい。体力もある。
でも頭を使う場面になると、全部こっちに丸投げしてくる。
「朝だよ。今日はゴミの日」
「……え、どのゴミ?」
「全部違う日」
「……だよね」
納得したように言うのが不思議で、亮平は小さく笑った。
この人は、本当に自分を疑わない。
それどころか、全面的に信頼している。
「りょうへい、すごいね」
「はいはい」
そう言いながらも、嫌な気はしない。
むしろ、この人がこうだから、家が回っている。
「あとで起きてくるから」
「ちゃんとね」
「りょうへいが呼ぶなら」
……好きすぎる。
次は中学生の部屋。
「りょうた、朝だよ」
「おー、起きてる」
すでに布団から半分出て、スマホを見ている。
料理好きで、落ち着いていて、双子なのに兄よりしっかりしている子。
「今日は朝ごはん、なに?」
「卵焼き」
「甘いやつ?」
「気分で」
「やった」
声のトーンは軽いけど、家の中のことをよく見ている。
亮平が少し疲れていると、さりげなく手伝いに入るタイプだ。
「あとでキッチン来れる?」
「行く行く」
頼れる。素直に。
「ひかるー」
「起きてる!」
勢いよく返事が返ってくる。
筋トレ命、甘党命の高校一年生。
「顔洗ってからね」
「その前に、今日チョコある?」
「昨日食べたでしょ」
「えっ……」
本気でショックを受けた顔をするのが面白くて、亮平は少しだけ意地悪をする。
「……夜に補充する」
「よしっ!」
切り替えが早い。
単純だけど、そこがかわいい。
次に亮平が立ち止まったのは、少しだけドアがにぎやかな部屋だった。
「……だいすけ?」
ノックする前から、中でごそごそ音がしている。
「ままぁ!起きてる!」
勢いよく返ってくる声。
五年生にしては朝から元気すぎる。
「起きてるなら、もう少し静かにして」
「だって今日、あれがあって!新しい話が——」
「ストップ。続きは朝ごはんのあと」
「はーい!」
元気で、アニメが大好きで、いつも笑っている。
「にゃはっ」と笑うその声は、家の中でもすぐに分かる。
だいすけは、目黒家の空気を一段明るくする存在だ。
誰かが沈みそうなときでも、この子がいると場が軽くなる。
「ラウール」
「……ん」
布団の中から、ゆっくり起き上がる。
まだ眠そうなのに、すでに体のラインが大きい。
「今日、寒いから上着ね」
「わかってる」
年齢のわりに落ち着いているけど、
たまにこうやって素直に言うことを聞くのが末っ子らしい。
「行ってきます、あとで言う」
「えらい」
少し照れた顔をするのを、亮平は見逃さなかった。
「たつやー」
「うわ、やばっ!」
布団を跳ね飛ばして起きる。
ゲーム好きで、反応が全部大きい。
「遅刻しないで」
「昨日さ、最後の最後で……」
「聞かない」
「えっ」
この子は話し始めると止まらない。
でも、それが家の空気を明るくしているのも事実だ。
「制服ちゃんと着て」
「はーい」
元気でいてくれれば、それでいい。
「こうじ」
「……ままぁ……」
小さな声。
服の裾をつかんで、離れない。
「一緒に行こう」
「うん……」
写真を撮るときだけ急に真剣になる、不思議な子。
それ以外は、まだまだ甘えたい年頃だ。
亮平は抱き上げず、並んで歩く。
それが、この子にはちょうどいい。
最後の部屋の前で、少しだけ足を止める。
「……しょうた」
「……」
返事はないけど、気配はある。
「無理しなくていいからね」
布団の中で、もぞっと動く影。
ツンデレで、美容に詳しくて、照れるとわかりやすい。
「あとで、様子見にくる」
「……うん」
小さな声が聞こえて、亮平は安心する。
リビングに戻ると、背後から抱きつかれた。
「りょうへいー!」
「はいはい」
「やっぱり朝はりょうへいがいないとだめ」
全体重を預けてくる蓮に、亮平は少し呆れた顔をしつつも、肩を貸す。
「重いよ」
「愛が?」
「体重が」
それでも離れない。
亮平は思う。
この家は、完璧じゃない。
体調の波もあるし、予定はよく崩れる。
でも。
「……今日も、ちゃんと回ってる」
それでいい。
目黒家の朝は、今日もにぎやかに始まる。
コメントよろしく!
コメント
5件
尊いし文章力も素晴らしすぎてコメするのもおこがましいくらい…、。 最高の作品を読ませて貰いました、ありがとう!ごちそうさまです!(๑´ч`๑)

良いです。 めめあべ夫婦😍
尊い…… 可愛いすぎる…… もう!!尊い!! 次回も楽しみにしてる!