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スマートフォンを持ったままベッドへ戻った凪は、先程と同じように千紘の横に寝転んだ。その顔は見れば見るほど美しかった。
ほんとに女顔なんだよなぁ……。これで小柄だったら完全女の子だもんな。
じーっと穴が開きそうなほど、シミもシワもない綺麗な肌と目を瞑っていてもわかる二重の線を見つめた。
唇はぷっくりと厚く、やわらかそうな膨らみをしている。実際にその唇はとても柔らかかった。
思い出したくもないのに千紘とのキスを思い出し、凪はガクンと横になったまま項垂れた。
こんなふうに俺も寝顔見られてたのかぁ……。まあ、客に凝視されるのも寝てる間にキスされたり股間触れるのも慣れてるけど……コイツは別だよなぁ。
そんなことを思うのに、仕事を休んで千紘と一緒にいる自分が不思議でならない。コイツが起きたら帰宅するか、まぁ……別にもうちょっとここにいてやってもいいけど。
言葉とは裏腹にぐっとしかめっ面をする凪。一緒にいることは嫌ではないものの、やはりそれを認めたくない自分がいるのだ。
その内凪もまたウトウトと睡魔が襲う。どうせタイムリミットはなくなったのだから、もうちょっと寝よう。
そう思って目を閉じた瞬間、けたたましい爆音がジャァァァァァン!!! と響いて、凪は思わず飛び起きた。
「わあぁぁぁっ!」
そんな声が飛びで出しまうほど、心臓がバックンバックン飛び跳ねる。しかし、凪の隣の男はそんな音などまるで聞こえないかのように、安らかに寝息を立てていた。
明らかに音の原因は千紘のスマートフォン。そして、画面にはアラームの表示。凪を起こそうとした気遣いは窺えるが、セットした当人がまるで起きようとしないのだから、凪はただただ面倒くさそうな顔をした。
凪は耳を塞ぎながらアラームの停止を押した。直ぐに音は止んだが、耳の奥がキンキンと響いていて痛みも伴った。
ムッと顔をしかめた凪が、千紘の頬をギュッと親指と人差し指全体を使って摘んだ。むにっと凪の指の中で形を変える。
「おい、起きろ」
頬を摘んだままブルブルと動かす。それでも全く起きる気配がない。
なんなんだよ、寝起き悪ぃな!
苛立ちも募り、千紘の肩を大きく揺らす。それでも目を開けない千紘に凪は顔を歪めると、そっと耳元に近付いて「起きないなら置いて帰るぞ」と言った。
それに反応するかのようにパッと目を開けた千紘は、眠たい目を擦るわけでも、重たい瞼をこじ開けるわけでもなく「ヤダっ」と凪の腕を掴んだ。
「起きてんじゃねぇか」
「今起きた。凪が帰るって言うから」
「お前のアラームがうるさすぎて起きたんだよ」
「ああ、鳴ったんだ。全然聞こえなかった」
平然と言ってのけた千紘に、凪は嘘だろ……と唖然とする。それからうるさかったスマートフォンを手渡してやれば完全にアラームをオフして時間を確認した千紘。
「もう時間になっちゃった」
しょんぼりと肩を落とす千紘を凪は横目に見る。せっかくもうちょっと寝ようと思ったのに、と起こされたことが気に入らないのだ。
「お前、普段どうやって起きてんだよ……」
「ん? アラーム1分おき」
「嘘だろ!? あんなうるさいアラーム毎日1分起き……」
凪は卒倒しそうになり、白目を向く。毎日毎日あんな音が響いているなんて近所迷惑にも程があると、千紘の隣人達に同情した。
「あーあ、凪の寝顔見てたのに気付いたら寝ちゃった……時間もったいないことしちゃった」
あからさまに落ち込んでいる千紘を見れば、わざわざ眠ったわけではなさそうで、こちらも相当疲れが溜まっていたことが窺えた。
「お前今日休みなんだろ?」
凪は横になったまま腕に頭を預けた。それから、あからさまに落ち込んでいる千紘に尋ねる。
「うん。なんにもない」
「……じゃあ、もうちょっといれば」
凪はそれだけ言って体を持ち上げると、頭を枕の上まで移動させた。掛け布団を引き寄せて肩までかける。千紘の体はその掛け布団から少しはみ出ていた。
「俺は凪を最後まで見送りたいよ」
「あっそ」
凪は噛み合っていない会話の中で目を瞑った。そんな凪を千紘は当然疑問に思う。綺麗な瞳を軽く開いて「凪、時間だよ? 仕事行かないの?」と尋ねた。
「休んだ」
目を閉じたままさらりと答えた凪。千紘はその言葉の意味を探す。更にじゃあ、もうちょっといればと言った言葉を加えれば、もう少し2人で一緒にいれることを察した。
主語と述語が成り立っていないから、凪の言葉はわかりづらいが、それでも少しずつわかる意味を探すのも楽しかった。
なによりも凪発信で一緒にいてくれることが嬉しくてたまらなかったのだ。
「もうちょっと一緒にいれるってこと!?」
「別に帰ってもいいけど」
「ヤダ、帰んない!」
千紘ははみ出た掛け布団の中をモゾモゾと進み、そのまま凪の胸に顔を埋めた。すりっと頬をくっつければ、温かい凪の体温を感じた。
普段なら可愛い凪を攻めて自分の色に染めたいと思う千紘。それがなぜか、この時ばかりは凪の好意に甘えたいと思った。
対して凪は、急に抱きついてきた千紘にビクリと体を弾ませ、ぐっと険しい顔をした。しかし、子供のように顔を埋めてじっとしている千紘を見て微かに息を吐く。
「触んないっつったろ」
「んー。好き」
「あっそ。おとなしく寝ろよ」
「んー……」
ギュッと凪の背中に逞しい腕が回された。女の子の細い腕や、肉のついた柔らかい肌を感じることは毎日のことだが、こんな筋肉質な男の肌を感じることなどまずない。
それなのになんとなく受けれ入れてしまっているのは、慣れてきている証拠なのかと怪訝な顔をする凪だったが、引き剥がす気もならずにそのまま目を閉じた。