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練習用 単発小説 後半
※台詞多め
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…俺は、
俺は、アイツに…
スバルに…
「んっわぁぁぁ〜!!!おほしさまだぁ!」
スバルは星空を反射するかのように瞳を輝かせる。思いっきり手を伸ばすその姿は、手足に痺れがあるなんて思わせない素振りだった。
「先生、俺。やっぱりスバルに生きてほしいです。思いっきり楽しんで、好きなことで笑ってそんなアイツを…俺はまた見たい。」
「リスクは高いですよ。覚悟は…」
「ある! それに、最初から遠出じゃなくていい。…屋上、病院の屋上はダメですか?」
「それなら…」
先生に無理を頼んで、屋上の鍵を開けてもらった。俺の覚悟…あぁ。決まってる。
スバルはきっと良くなる。
「ヒイにぃ!みてみて!おうし座!双子座!あっちはうさぎ座に…向こうはペガスス座!」
「すげえなぁ、見るだけで分かるのか?」
「もちろん!ほら、オリオン座の下にあるのがウサギ座だよ!」
「ほ〜ん、スバルは誰が好きなんだ?」
そういうと西の空を指さして、未だかつてない明るい声で言った。
「ペガスス座のシェアト!ほら!あそこ四つを結んだ四角の右上!」
と具体的な位置まで教えてくれた。
言われたところで…見てみたところで俺にはさっぱりだが、スバルは一つ一つの星が友達の名前のように一瞬で出てくるんだろう。
「おい、そんなに前のめりになったら狐が落ちるぞ。」
「大丈夫!落ちても王子が助けてくれるもん!」
と強気になってずっと星を見ている。
スバルの体調が悪いなんて…信じたくない。
コイツはきっと元気になるんだから…。
「…ヒイにぃ。一光年ってどれくらいかわかる?」
「え?確か…光が一年で進む距離だろ?」
「うん。じゃあさ、等級はわかる?」
「っと…一等星とか星の明るさ…だっけ?」
スバルは合ってると言うように首を縦に振る。いきなり基本の質問して一体どうしたんだ?
「…昔の人はさ、この星空が地球に乗った半球の蓋に映し出された映像や絵画だと思ったんだ。朝や夜って時間が変わるのも、星の位置が変わるのも、映像が動いてるからって。」
「でも本当は地球が動いてて、星々は光の速さでも一年、百年、なんなら億単位かかる場所にあるんだ。」
と急に歴史の話を淡々としてきた。星空を眺めて、こっちには少しも目線をくれない。
「光だってそうだよ。一番星じゃない。六等星の方が本当は明るいってことがある。地球との距離が長い分、光が弱まって見えるだけ。」
「昔の人は、大きな勘違いをしていたんだ。」
「…うん。」
するとスバルは俺の声に反応するようにこっちに振り返った。
その姿はなんだろう…___親のいらなくなった子鹿みたいな、もう引っ越す部屋みたいな、
もう、大丈夫だよ
って優しく包み込むような表情をしていた。
「勘違いは実は見当もつかないほど長い時間で、一番の輝きは実はとんだ勘違いだったりして。でもそんな勘違いに昔の人は救われた。」
「僕も…同じなんだニコッ」
「え…?」
「ヒイにぃ…本当は僕が苦しいって気づいてたでしょ?」
「あっ……。……うん。」
…気づかれてた。俺は確かに、西田とか斎藤とかスバルが楽しめるように友達の話をしたり、スバルの好きな王子様の話をしたり、コイツを…悲しませないようにって…。
「僕は確かに、辛かった。注射は痛いし、薬は苦いし。それでだろうけど…バレバレだったよ」
「でもね、ずっと苦しいは違う。それはにぃちゃんの勘違いだ。」
「…、え?」
スバルは狐のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ直し、俺の目をしっかり見つめた。
「にぃちゃんが勘違いしてくれたから、僕は苦しくても笑えたんだ。面白い話をいっぱいしてくれたよね。」
「…中でもスタープリンスの絵本を読んでくれたとき!僕は王子様に救われたんじゃない、ヒイにぃが読んでくれた王子様に希望をもらったんだよ…?」
スタープリンス…。あれを読んだのはコイツが倒れて、入院し出したときだ。
「飛行士は王子の星を探すように今日も星空をみて、笑うのでした。…おしまい!」
「わぁ!!ヒイにぃ!僕、このお話すき!」
「こらこら、興奮すんなぁ〜」
「するよ!ねぇ、王子様はしっかり星に帰れたのかな?あ!王様とかライトピカピカする人にもまた会えた!?」
「さぁな。でも、きっと会えてると思うよ。」
「ねぇねぇ、ヒイにぃの好きな子だぁれ?」
「俺…?俺は…やっぱり飛行士だろ!空飛ぶなんてかっけぇじゃん!…スバルは?気に入った子いた?」
「僕、王子様とキツネ!!」
「あー、主人公との友情か!」
「それもあるけど!僕、この言葉が好き!」
「…。」
「…僕は苦しくない。だって、僕の大切なものは、ヒイにぃと過ごす時間だから。」
「ヒイにぃは何が大切だった?」
「俺は…」
お前が笑ってれば良かった。お前に笑っててほしかった。病気とか、可哀想とかじゃなくて、ただ星が好きな一人の少年として笑って
笑って
笑って…
笑って…?
…違う。
コイツはいつだって笑ってくれてたんだ。
絵本も、星も、俺の雑談も、スバルは笑ってた。嘘じゃなかったんだ。
俺が、受け止めきれなくて。コイツの代わりになれたらって。だから、笑ってるコイツを見て安心してたんだ。
けど…本当は…、
笑顔だけじゃない、スバルの嫌も怒りも寂しいも楽しいも、全部知りたい。受け止めたい。
「俺は…お前に生きててほしい。」
出た声は不安や恐怖から上手く出ず、思ったより掠れていた。
「お前の…スバルのこと知りたい。にぃちゃんとして受け止めたいよ。」
本当の臆病者は俺だった。太陽に隠れて、本当なんて隠して
「今までお前を見なくてごめん。」
俺の話ばっかりして、安心してたのは俺で
「できないって決めつけてごめん。」
守ってあげなきゃって勝手に思って。
「笑顔を押し付けてごめん!」
俺は泣き崩れた。自分でも押し殺してたすぐ近くにあった本音をスバルにぶつけた。
生きてほしいなんてコイツには重いかもしれない。それでも、笑顔になってほしいだけじゃなくて、生きて、苦しいも難しいも、その上で成り立つ幸福を見つけて欲しい。
「だから…謝って欲しいとかじゃないってw」
「…ヒイにぃ、今までありがと。」
俺たちは空がオレンジになるまで泣いた。
次のニュースです。
依然として続いていた成人、又は子供に発症する肺機能低下星膜疾患、通称星膜病が一人のカウンセラーによって完治方法が見つかりました。
星膜病は孤独感から発病すると昨年、若手精神科医で活躍しているお兄さんの柊さんが発表しましたが、今回はその完治方法。
今回はカウンセラーとして関東で活躍する宿宮昴氏にお話を伺いました。
「星膜病は肺にできる不思議で奇妙な膜が原因で支障が出る病気でしょ?でも、なんで出来るかが不明だった。」
「そこで僕は自分が完治した経験から、他の患者さんにも試してもらったんだ。にぃちゃ…兄と協力して。」
ー試してもらったとは…?
「大切な人と本音で話すことだよ。言いたいことが言えない、伝わらない。それが喉に、いや肺に突っかかって星膜として現れたんだ。」
「だから、星膜を溶かすのはただ麻酔が入っただけで本音は消えない。催眠とかと一緒だからね。 本音って言ってもわがままは違う。」
「相手を思うことが、自分を愛してあげることがこの病気を治す一歩だったんだ。」
ーそんな簡単なこと…
「うん、そう。簡単だからこそ見落としたし試さなかった。簡単が一番難しい。」
「まずは本音を話せる環境を作ってあげなきゃ。カウンセリングもそうだからねぇ〜」
ーでは最後、視聴者に
「うん!…大切なものはすぐ近くにあるよ。好きに正直になることや、家族を愛すること、なんなら誰かを嫌うことかもしれない。」
「みんなが…キミが明日少しでも生きやすい、そんな世界を願ってます。」
ヒイにぃただいまぁ〜
おっ、スバルおかえり。
今日のご飯なぁに?
お前なぁ〜…?そろそろ自立しろよ。
え〜にぃちゃん家居心地いいんだもん。
あっそ。あ!また靴下裏返し!
もぉ、ヒイにぃお母さんみたい!
いつでもお前のママになるよーだ。
もぉ!意地悪!…あ、みて!
ん?…あぁ。