練習用 単発小説 前半
「本の虫より永遠を語って」
蛍…図書館館長
召蜻…蛍の助手
※注意 台詞多め
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キミは物語が好きかい?
あぁ、僕は好きさ。魔法も、ドラゴンも。物語にはどんなモノがあったって、どんなコトが起きたって、一つのドラマになる。
キミはどんな物語を知ってるかい?
僕は色んなお話を管理しているよ。絵本から伝記まで幅広いフィクションや事実を知っている。
キミにはキミだけの物語があるかい?
そう、キミだけの物語さ。
それが幻か、現実か分からなくなるほどの
素敵なキミだけのモノガタリを。
「…召蜻、本を読みながらクッキーをかじるのはやめていただけないかい?」
『ンッ?いーじゃないか。これは私の楽しみなんだから。』
秋の夕日が差し込む一階の窓辺で、クッキーを片手に本を読むおさげの少女は僕にわざとらしく微笑んだ。
彼女は僕の友達兼相棒の召蜻。図書館の秘書として働いているのだが、持っている知恵が勿体無いくらい怠け者の少女だ。
「本にカケラが落ちるからやめてくれって言ってるんだ。」
『もー堅いなぁ、君は。汚してしまったら片付ければ良いだけだろう?』
と文句を溢しながら体を曲げ、読んでいた本に栞を挟み本棚にしまう。残りのクッキーを一口で平らげ、腕を上に挙げ伸びをしている。一体なんの本だったのかは知らないが、満足そうに館内の植物に水を与え始めた。
彼女は少し不思議な奴だ。ボクのことなんでも知ってるし、気づいたらボクの側にいる。好意があるとか付き合ってるとかではなく、…
とにかく、なんだかつかみどころのない面倒くさい奴。
「ー?なぁ召蜻、この段ボールに積まれてる本は…?」
『ん?あぁ。今年で著作権が切れた本さ。日本人著者だけでなく、各国の本もあるよ。』
持っていた霧吹きを置き、段ボールの中からガサゴソといくつかの本を取り出した。
『ほらね』
僕にその本の表紙を見せてくる。確かに一九ニ〇年代〜一九四〇年代もので、著者が亡くなってから七〇年経っている。物語だけでなく、中には論説や戦争の本もあった。
…作品は、本は、主人から七〇年という時を離れ、やがて守られていた檻から解放される。僕はそれに違和感を感じる。本はこれを望むのかなって。
違和感…といえば話を戻すが、召蜻にも違和感を感じる。いつから友達だったのか分からない。というか、この図書館に来たのがいつだったか覚えてない。…全て忘れてしまったのだろうか。違和感が共通のものとしたら…本も忘れ去られてしまうのか…?
「…忘れ去られてしまった物語はどうなってしまうのだろうね。」
僕はこの違和感を、召蜻のことを遠回しに聞いてみた。
彼女は驚きもせず、本を段ボールに戻しながら適切な言葉を探しているように見えた。封をしたところでその口が開く。その表情や声色は、絵本の読み聞かせ動画に使われるオルゴールのような気配を感じさせた。
『…物語ができた時点で、別の世界が作られていたとしたらどうだい?』
「どういう意味?」
『例えば宇宙人に侵略されるという物語が書かれたとしよう。そしたら別の次元に本当にその世界ができるのさ。その世界には宇宙人が来る前の歴史や文明もしっかりあるし、英雄が現れた後の復興も確かにあるんだ。』
召蜻は即興でこの理論を考えたのか?と不思議に思うほど、この比喩の内容が面白かった。
『その別の世界が一体どこにあるのかは分からないけど、球体以外の惑星であったり、はたまた箱庭って可能性もあるね。』
「…つまり設定をもったものはなんでも、独立したセカイが出来るのかい?」
『あぁ、そうさ。だからこの図書館だって別次元で作られた物語かもしれない。君の言う忘れ去られた物語だって、今でもどこかに残っているのさ。』
非現実的だけど、だからこそ少しワクワクする。
物語を作れば作るほど世界のストックはどうなってしまうのだろう。灰被りなお姫様も、雪のような肌の少女も、どこかの世界にちゃんといるのだろうか。
そんなくだらない質問もしたくなるほどに、彼女の理論に納得してしまう。
僕はつい、好奇心から別のことも聞いた。
「じゃあさ、忘れ去られたものと、今でも残るものの違いはなんだろう。」
『そうだね…残そうとしたかどうかじゃないかい?』
「商売目的ってこと?」
『違う違う!』
召蜻は栓が取れたサイダーみたいにぷはっと笑みを溢した。
『小さい子の寝かしつけにするようなお伽話だった場合、その子が忘れてしまえばこの世界には残らなくなってしまうだろ?逆に、残そうとか当時の娯楽であったものは長く伝わる。平家物語や地域のお祭りみたいなものさ。』
「その理論だと、さっきのキミの独立した世界はどうするんだい?忘れられた時点で動かなくなってしまう。」
『そうだね。』
矛盾を否定せずに、でも穏やかに召蜻は自身の考えを繋げた。
『誰かが改変する、すると世界に変化が起こる。それでも忘れられた物語達。でもね?今はただ呼吸してるだけでも、確かに存在している。その世界の人々全員が歴史を止めない限りね。』
「…少し難しいな。」
彼女はルイスのように言葉遊びが得意だから少し比喩が理解しにくい。
おそらく残されようと、忘れられようと、物語であることは変わらない。だからどこかには記憶されてる。ってことを言いたいのだろう。宗教や信条のように概念だとしても。
…物語であることは変わらない。
…ほんとに?
裏を返せば、物語は現実にはならないってことだろう。
じゃあ…召蜻はやっぱり。
いや、違う。違うよ。認めない。認めたくない。
この図書館も、召蜻も…ずっと__
「…。変わらず続く物語か。」
無意識に声が出ていた。一つのおまじないのように、切実なお願い事のように。
館内が暗くなり始めた。秋の夕日が沈み始めたようだ。
『多分だけど…、君はもう気づいているんじゃないかい?』
『私は…本当は、』
「やめてくれッッッ!!!!」
僕は被せるように大きな声を出した。対象的に召蜻や館内は沈黙する。
召蜻は僕の手を握った。その目は偽りも誤魔化しもなく、ただ僕を見つめていた。
そんな純粋な目をされたら絆されてしまうじゃないか…。
「…あ、あぁ。そうさ。わかっているんだ。キミは…キミは現実には存在しない。」
__僕の物語の人なんだろ…?
『…蛍。』
「……。…僕は…ずっとね?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!