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かんな
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自分の部屋に戻り、パタンとドアを閉めた途端、柊吾はその場にへたり込んで頭を抱えた。
(……なんだあれ! あれじゃまるで、近藤さんに嫉妬しちゃってたみたいじゃないか! 勝手に一人でモヤモヤして、褒められたら一瞬で舞い上がって……!)
熱を持つ自分の胸に手を当てる。
あの男が抱えるミステリアスな違和感にも気づいているのに、なんだか彼の掌の上で転がされているような感じがして解せない。
(それにしても、彼の大切な人ってどんな人なんだろう? 恋人……なのかな……?)
もし、そうだとしたら。血眼になって探してもらえるその人は、さぞかし魅力的なのだろう。瑞樹があの切れ長な目を細めて「すぐ近くに、いましたよ」と言った時の、あの恐ろしいほど愛おしそうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
あんな顔で、誰かを想えるのか。あんな顔で、誰かを探せるのか。
「……いいな」
思わずぽつりと漏れた言葉。
(っ〜〜〜〜〜〜!!? 今、僕なんて言った!!?)
静かな部屋に響いた自分の声にハッとなり、柊吾は両手で勢いよく口を塞いだ。顔から火が出るどころか全身が発火しそうなほど熱くなる。
「いいな」って何だ。何が「いいな」だ。
愛されているその誰かが羨ましい? あの優しい声で探してもらえる存在になりたいとでも思っているのか?
(違う違う違う!! 僕はただ……っ!!)
必死に打ち消そうと首を振るが、一度口から飛び出した言葉は撤回できない。
瑞樹の言葉ひとつで天国と地獄を行き来させられ、最後には自覚したくなかった感情を自分自身で突きつけられてしまった。
(……僕は何がしたいんだ。あの人に何を求めてるんだ)
隣人として感謝している、それだけのはずだった。介護のことを助けてもらって、母のことを気にかけてもらって、ただそれだけで充分だったはずなのに。
なのに近藤さんの話が出るたびに胸がざわつき、「大切な人」という言葉を聞いた瞬間に息が詰まった。「いいな」なんて言葉が、考えるより先に口から出てしまった。
(……これって)
「もしかして、……僕は……、本当に?」
声に出してしまってから、柊吾は両手で顔を覆った。
認めたくない。認めてしまったら、もう後戻りできない気がする。相手は男で、しかも自分が何年も動画で「オカズ」にしていた男優によく似た人で、今は母の介護を助けてくれている隣人で——そんな相手に、こんな感情を持ってしまったら、一体どうすればいいのか。
へたり込んだまま動けない柊吾の胸の奥で、ドクドクと不規則に打ち鳴らされる心臓の音だけが、いつまでも止んでくれなかった。
コメント
1件
柊吾、自分の気持ちに気づいちゃいましたね…!「いいな」って無意識に口に出して、慌てて塞ぐところ、すごく生々しくて胸がきゅっとなりました。それに瑞樹さんの「愛おしそうな表情」の描写、あれが柊吾の頭から離れないのも分かります。認めたくないけど認めそうになる、その葛藤が丁寧に描かれていて素敵でした。次が気になります🌷