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屋敷の外に出ると辺りは暗闇に包まれ、クラウディウスの配下や騎士団員等が手にする松明の無数の火が視界に揺れる。騎士団員等は忙しなく後処理に追われている様だ。そんな様子を遠巻きに眺め、自分達が部外者の様に感じ、情けなく思えた。


「ティアナ、助けに来るのが遅くなってすまなかった」


彼女の手を確りと握り締めたままレンブラントは離さない。

主犯とされるゴーベル伯爵は拘束され、共犯とされるクヌートは死んだ。もう案ずる必要はないと頭では理解しているが、つい先程の光景が頭から離れず不安が拭えない。


「レンブラント様、あの……いえ、ありがとうございます」


何か言いたげな彼女に、どうしたのかと訊ねようとした時だった。ユリウスがこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「ユリウス、話があるなら俺が聞く……って、おい! 無視かよ!」


ヘンリックが颯爽とユリウスの前に立ち塞がるが、彼は一瞥すらせずにそれを無視して通り過ぎるとレンブラントの前で立ち止まった。

レンブラントは無意識にティアナを抱き寄せ身構え、睨む。だが彼は無言のまま佇むだけだった。

その様子を訝し気に見ていると、不意に腕の中のティアナが身動ぎ離れていく。


「ティアナ?」


彼女は一歩前に出て、ユリウスと対峙する。

真っ直ぐに凝視するティアナに対して、無表情だがどこか罰の悪そうなユリウスに周囲は首を傾げた。


「…………帰還したその足で、アルナルディ家に向かった。だが、君はいなかった。その後、直ぐにフレミー家へ行った。やはり君はいなかったが、モニカ達に話を聞いたんだ」


ポツリポツリと歯切れ悪く話すユリウスは、レンブラント達が知っている彼とはまるで別人の様に見えた。


「すまない……その、遅くなった」


視線を落とすユリウスにティアナは更に近付いた。その距離は歩幅程しかない。


「お帰りなさい、ユリウス様」


薄明かりの中、フワリと花が綻ぶ様に彼女は笑った。


「あぁ……ただいま」


そしてそんな彼女に応える様にしてユリウスもまた笑みを浮かべる。そんな二人の様子にレンブラントや周囲は呆気に取られた。







◆◆◆


ティアナは久々に自室のベッドで横になると、一気に全身の力が抜け落ちる。ずっと気を張っていた反動で、暫く起き上がれそうにない。


それにしてもまさか自分が誘拐されるなんて思いもしなかった。何とかこうやって無事に帰って来る事が出来たが、夢でも見ていた気分になる。


昨夜はゴーベル伯爵の屋敷からフレミー家までユリウスに送って貰ったのだが、その際に一悶着あった。


『彼女は、僕が送って行く』


どちらがティアナを送り届けるかという些末な事だったが、レンブラントもユリウスも頑に譲ろうとはしなかった。

睨み合いは暫く続き、困り果てる中、助け舟を出してくれたのはクラウディウスで「ここは彼に譲ってやれ」と言いながら至極不満気なレンブラントを引っ張って行ってしまった。その光景にティアナは苦笑した。


(……レンブラント様)


もしかしたら彼もヴェローニカと共犯なんじゃないかと疑ってしまったが……。


(助けに来てくれた)


ただ彼の真意は分からない。表向き婚約者であるティアナを放っておく訳にはいかず、来てくれただけかも知れない。

それでも、彼の姿を見た時感極まり涙が出そうになってしまった。抱き締めてくれる腕が温かくて、これが嘘でも構わないとさえ思ってしまったくらいだ。

ヴェローニカの事で聞きたい事はあったが、偽物の自分に問い質す権利はない。


(……そう言えば明日、ユリウス様がいらっしゃるって言っていたっけ)


彼が助けに現れた時も驚いた。前回の手紙には何時帰って来れるか分からないとあったので、まだ暫くは会えないと思っていた。それがまさかあんな形で再会するとは夢にも思わないだろう。

昔から大人びていたユリウスだが、約一年振りに会った彼は、記憶の中の彼より更に大人の男性になった様に見えた。

送り届けて貰い去り際、彼は馬車に乗り込む直前ティアナの頭を撫でてくれた。それが酷く懐かしくて安心した。


『また、明日来る』


明日は彼とロミルダのお墓参りに行く約束をしている。

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