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「ティアナ様、ユリウス様がお見えです」
昨夜散々泣いていたモニカの目は腫れている。ティアナが帰って来た事を泣きながらモニカやハナ、ミアは喜んでくれた。正直そんなに心配してくれているなんて思わなかったので、呆気に取られてしまったが、素直に嬉しかった。
「えぇ、今行くわ」
ティアナがロビーに行くと、私服姿のユリウスが待っていた。
「昨日の今日だが、身体は平気か」
眉根を寄せ心配そうにする彼に、ティアナは安心させる様に笑って見せる。
「ぐっすり寝たので、もう大丈夫です」
「そうか。だが余り無理はするな、気分が優れない様なら直ぐに言うんだぞ」
相変わらず過保護な彼は、実の兄より兄らしいと思わず笑った。
ユリウスに手を引かれ馬車に乗り込み、ロミルダのお墓がある教会へと向かう。
「痛むか」
「お医者様に診て頂いたので大丈夫です」
昨夜一頻り泣いたモニカがティアナの首元の傷口に気が付き血相を変えて直ぐに医師を呼んでくれた。大袈裟だと思いながらも折角なので診て貰った。確かに血は出たが、表面の皮膚だけが薄く傷付いているだけで深くはない。なので大した痛みも感じなかった。だが大袈裟に首には包帯がぐるぐる巻きにされている。
二人は馬車に揺られる。少しだけ開けている窓から、心地の良い風が流れ込んできて、思わずその気持ち良さにティアナは目を細めた。
ティアナとユリウスは教会までの道中、たわいの無い話をした。主に昔話や彼の赴任先での話だ。互いに本当に話したい内容をワザと避けてると感じたが知らないフリをした。
「美しいな」
墓所は相変わらず花々が美しく咲き乱れている。ユリウスは目を細め感嘆の声を上げた。
「ロミルダ様、ご無沙汰しております。会いに来るのが遅くなりまして、申し訳ありません」
彼はロミルダの墓石の前に膝を付き頭を下げると、持参した花束を供えた。
大分気持ちの整理はついたと思っていたが、ユリウスの物悲し気な姿を見て胸が苦しくなる。
「まさか私が留守にしている間にこんな事になるなんて思わなかった。ティアナ、辛い時に側にいてやれずに、本当に悪かった。大変だっただろう」
憂を帯びた瞳がティアナを見上げて来る。目の奥が熱くなるのを誤魔化す様に、慌てて目を逸らした。
「だ、大丈夫です」
「……それは、あの男がいたからか」
「え……」
急に低く冷たく響いた声に驚き、ティアナは彼に視線を戻す。すると彼はスッと立ち上がり、今度は長身である彼から見下ろされる。
「婚約したそうだな、モニカから聞いた」
よく分からないが、これは……。
(もしかして、ユリウス様……怒っていらっしゃる……?)
「まさか君がアレと婚約するなんてな。聞いた時は心臓が止まるかと思った」
彼の事をアレ呼ばわりするユリウスに、ティアナの顔は引き攣る。
これまで考えもしなかったが、彼等は同い年で同じ学院に通った顔見知りだった。ただ昨夜の事を思い出す限りでは、決して仲は良くなさそうだ。
「まあでも、君の結婚を回避する為の一時的な処置なんだろう?」
「それは、はい……レンブラント様とは何れ婚約を解消する予定です」
事実だが、自分で言って内心落ち込んだ。分かりきった事だが改めて口にすると虚しくなる。
「そうか。それならば彼の為にも早い内に婚約破棄をするべきだな。君の存在がある限り、彼は何時までも独り身のままになってしまう」
「……」
「君の存在が彼の足枷になる」
ユリウスの言葉が胸突き刺さった。
(分かっていた筈なのに……)
レンブラントはティアナの事を体の良い女性避けと説明してはいたが、彼だって何れ結婚しなくてはならない訳で、何時迄もティアナと婚約している訳にもいかないだろう。
現にヴェローニカの事もある。
今回の事で思った事は、もしも彼が本当にそういった相手が現れても、優しい気質の彼は中々言い出せない可能性があるという事だ。
ーー自分の存在が彼を困らせている。
「心配する必要はない。大丈夫だ、ティアナ。君には私がついている」
ショックを隠しきれないティアナをユリウスはそっと抱き締めてくれた。
「後の事は全て、私に任せておけば良い」
彼は耳元で優しく囁いた。