トシ子が無言でカイムを睨み付けていたが、コユキも私と同様の判断に至ったかどうかは兎も角、話を切り替えたのである。
「そう言えば弾(たま)ちゃんや仲間の二頭の熊ちゃんは? 一緒に居るんでしょう? お出掛け中なのん?」
カイムはトシ子の視線から逃れる様にコユキを真っ直ぐ見つめて答えるが、その表情は悲しみを隠そうともしない悲痛な物に変わっていた。
「熊達なら…… 死んだよ」
「えっ!」
「な、なんとっ!」
コユキと善悪は驚愕の声を上げた。
二人だけで無く虎大と竜也の兄弟もビックリした顔で口々に言う。
「嘘でしょう? 先日来た時にはスヤスヤ寝てるって、もうすぐ冬眠から目覚める筈だって、そう言っていたじゃないですか!」
「そうだよ、冬眠開けは腹が減ってるからって言ってドッグフードを持って来いって…… 死んだって、な、なんで?」
カイムは目線を少し上に移して空を仰ぐようにしながら言う。
「確たる理由は分からない…… 今年の大雪のせいか、はたまた他の理由なのかは、ね…… 兎に角、彼らは既に旅立ったんだ…… 今さら我々の好奇を満足させても空しいだけだよ…… ポロッポォ……」
ん? また語尾が? 一体何なんだろう? 何か規則性でもあるのだろうか?
突然告げられた死の報せにその場にいたメンバーは揃って沈痛な面持ちであった。
コユキが言った。
「そ、そんな…… 弾ちゃん達が…… 可哀そうに身罷(みまか)ったのね…… でも寂しい思いはさせないわっ、天国で待っていてね、弾ちゃぁーん!」
「ガウッ? あれれぇっ? コユキ様? コユキ様じゃないですかぁ!」
「ええ、本当弾ぁ! 嘘っ! 本物だわぁ!」
「ガオー! やっと会えたねぇ! お久しぶりです! コユキ様、善悪様、トシ子様ぁ!」
………………
コユキの慟哭(どうこく)に答えて木々の間から姿を現したのは、この辺りに生息しているヒグマでは無く、首に白い斑紋(はんもん)が特徴的な本州に生息しているツキノワグマ、どこからどう見ても幸福寺で一緒に暮らしていた弾喰らいの弾ちゃんと、リボンを付けた雌の熊、秘かに彼女に思いを寄せる若造熊の三頭であった。
「なんだ生きてるじゃ無いの」
「本当だね、それだけじゃなくて大きくなってるし言葉まで話しているでござるよ、うんっ、元気一杯みたいでござるな」
「や、ヤバい、ポ、ロ、ポロ……」
コユキは弾喰らいに近付いて馬鹿みたいに太い首筋の斑(まだら)に手を沿わせながら言う。
「弾ちゃん生きていてくれたのね、嬉しいわよ、アンタ達もね、えっと何て呼べば良いのかしら?」
熊達は言った。
まずは雌の熊であった。
「あ、はいっ、アタシは仲間達からリボンって呼ばれています、そうお呼び頂けたら嬉しいんですけどぉ」
「リボンねっ! 良い名前じゃないのっ! んでアンタは?」
若造熊が答える。
「あ、俺、いいえ僕は皆からイマチュア(未熟)って呼ばれてましてぇー、どうですかね? コユキ様ぁ、何か良いニックネーム的な奴無いですかねぇ?」
コユキは面倒な事は嫌な様だ。
「善悪!」
善悪が代わって答えてくれた、阿吽の呼吸である。
「そうでござるなぁー、んじゃあマッチ、どう? 往年の伝説的アイドルと同じでござるよ? マッチじゃ嫌ぁ?」
若造な熊が言った。
「マッチ、マッチ、んんんんー、良いですねっ! ありがとうございます! 僕はマッチっ! 名前に負けない様に頑張りまっす!」
喜びに溢れ返る若熊から目を逸らして、ジッと黙り込んでいる金色の奴を見据えながらコユキは言った。
「おい、カイムちゃん! これって何なの? ちゃんと説明しなかったらアンタ爆ざすわよ? 説明しなさいよっ! 説明求むよぉぅっ!」
コユキ激おこプンプン、いいや怒りが毛細血管の血流を阻害したのだろうか? 急激な浮腫(むく)みを受けて、お肉でパンパン丸になってしまったらしい……
慌てて善悪がカイムに分別を促したのである。
「カイムっ! 正直に言うのでござる! ここまでパンパンに膨らんでしまったコユキ殿は某でも、僕チンでも、俺っちだったとしても、止める事は不可能、なのでござるよぉ! 素直に謝って許しを請うのでござるよぉ!」
カイムは震える大きな声で言ったのである。
「も、申しっ訳あっりませっんー! わ、私、実は嘘をついていたのでございますぅぅ! お許しくださいぃ! キョ、キョロロンッ!」
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