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盗賊団の隠れ家でもある宝石店の構える地区においても大きな騒ぎになっていたが、僧兵の数は少ない。せいぜい市民の混乱と不安を抑えようと説いてまわる僧侶くらいのものだ。しかし変わらず寺院やその付近からものものしい音や厳めしい怒鳴り声が聞こえてくるので、僧侶たちまでもが不安から逃れるために祈りにすがっている。いまだに盗賊と僧兵による大捕り物が繰り広げられているのだろう。


ユカリたちは人目の少ない道を選んで慎重に戻って来た。朝の気配が漂い始め、魔法に隠されていた星の姿も見え始めた。時折振り返るユカリの眼に追っ手は映らない。


「もう大丈夫かな? 結局追って来なかったね」とユカリは警戒を怠らずに言う。

「僧兵に見咎められもしなかったし、大丈夫でしょ」とベルニージュは言う。

「僧兵はともかくシャリューレさんだよ」ユカリは今にも背後に現れるのではないかと怯える風に言う。「最悪の場合、低地まで飛んで逃げないといけないんじゃないかと思ったけど」

「何度だって切り抜けられますわ」と焚書官姿のレモニカは自信たっぷりに言う。「もはやシャリューレがわたくしを侮ることはないかもしれませんけどね」


「冠をかぶれたのはワタシたちにも盲点だったね」ベルニージュは聖火の伽藍での出来事を思い返して言う。「服と違って破れないし」

「かなり浅い冠だからですわ」とレモニカは忠告するように言う。「もし額まで深くかぶるものであれば、想像もしたくない出来事が起こります。靴の方は決して履きませんからね」

「靴の方は金属じゃないんだから大丈夫じゃない?」とユカリは呑気に言う。

「決して壊れない魔導書の靴! ですわよ!」


ユカリとベルニージュ、レモニカは宝石店に、盗賊団の隠れ家に逃げ込んだ。盗賊たちも幾人かは無事に戻って来れたらしい。戦利品を自慢している者もいる。しかしネドマリアの姿はない。


「ネドマリアさん。無事だと良いんだけど」とユカリは小さく呟く。

「こと生き残ることに長けた魔術を修めている人だし、大丈夫でしょ」とベルニージュは言うが、自分に言い聞かせているようでもあった。

「見た者がいないか、聞いてみましょう」というレモニカの提案は採用され、盗賊たちに話を聞いて周って、しかしやはり手がかりは得られなかった。


宝石店の奥、客が覗き込むことのない広間で女盗賊レシュが三人を出迎える。「無事だったのね。ユカリ。……どうして焚書官が?」

「あ! レシュさん! 近づくと――」


遅かった。レモニカは変身し、レシュは小さな悲鳴を上げて退いた。とはいえ騒ぎになるほどではなかった。

レモニカが変身したのは身分の高さをうかがわせる衣装を身に纏った女性だった。レシュもまた変身だと理解すれば冷静でいられるようで、生理的嫌悪を抱いているわけではないようだ。


レモニカは慌ててユカリの方へ飛びのき、元の焚書官の姿に戻る「申し訳ございません。レシュさま。決して驚かせようとしたわけではなく、わたくしの意思とは無関係に変身してしまう呪いなのです。申し遅れました。わたくしレモニカと申します」


「ああ、貴女がユカリたちが助けたがってたお友達ね」レシュは我が事のように嬉しそうに言う。「私の方こそ失礼な態度をしてごめんなさい。それじゃあ、少なくとも目的の一つは達成できたのね? 良ければお茶でも入れようか? 少しだけどお菓子もあるわ」

「ありがとうございます!」と言うユカリには疲れが見えない。「是非お願いします。あの硝子張りの部屋にいるので」

「もう硝子張ってないわよ?」

「そうでした。でもあそこで構いません」


三人は硝子張りだった部屋に移る。散らばった硝子が片づけられた部屋に悪戯っぽい風が吹く。


「今更だけどグリュエーの気配を感じた」とグリュエーが淡々と言った。

「そうなの? どうして言わなかったの?」とユカリは不思議そうに尋ねる。

「忙しそうだったから」

「ご、ごめん。気遣わせちゃったね。街が落ち着いたら探しに行こうね」と言うとグリュエーは嬉しそうに渦巻いた。


「これでかつてのシグニカ連合国の国宝、四つの魔導書が揃ったわけだね」と言って、ベルニージュはユカリとレモニカに期待の眼差しを送る。


ユカリは『珠玉の宝靴』と『深遠の霊杖』に宿っていたという羊皮紙を合切袋から取り出す。

レモニカは両手に『至上の魔鏡』と『神助の秘扇』を携えている。


「でもこの魔導書、便利だよね」とユカリは言う。

「言うと思った。ワタシもそう思ってた」と言ってベルニージュはうんうんと頷く。

「いわゆる魔導書ノートに変化させるのはお預けにする、ということですわね?」とレモニカは確認する。

「うん。特に『神助の秘扇』。これを失うのは、ちょっと罪悪感がある」ユカリは言いにくそうに口を開く。「逃げる時にちらっと見たグラタードさんがぴんぴんしてたのってこれのお陰だよね? たぶんシャリューレさんが助けてくれたんだと思う」

「ワタシは異論ないよ」と言ってベルニージュは手近な椅子に座る。「それぞれを近づけちゃいけないから気をつけないといけないけど。そういえばシグニカが統一されて、これらの魔導書が一か所で保存されなかったのは偶然なのかな」


四つの魔導書を近づけないように机に置いていると、レシュが四人分のお茶を持ってきた。


「私もご一緒していいかしら?」とレシュは遠慮がちに尋ね、ユカリたちは歓迎した。

ユカリはふと思い出して椅子の上で居住まいを正す。「それにしてもレモニカさまが王女様であらせられるとは思いも寄りませんでした」

レモニカが飛び上がってお茶を零しそうになる。「な! なぜそれを!? シャリューレ! シャリューレですわね!?」


ユカリは出来る限り丁寧な言葉を選び、真面目に話す。「どうして御身分を御隠しになっていたのでしょう?」

「そうですわ。そうですわ」とベルニージュは言った。「わたくしたちがレモニカさまへの態度を変えると思し召したのかしら」

「まずその口調をやめてください」とレモニカは宣告するようにはっきりと言う。

「ですが――」とユカリは食い下がろうとするが、レモニカは断固として言う。

「ユカリさま。お願いします。わたくしを王女として扱わないでくださいませ。それが隠していた理由でもあります」

「はい。うん。分かった。ごめん」ユカリは表情を切り替える。「まあ、旅にも支障が出そうだもんね。ベル」

「え? ああ、そうだね」と腑に落ちない様子でベルニージュは同意する。


レシュがちらちらとレモニカを盗み見、意を決して尋ねる。「あの、どこの国の王女様かお尋ねしても?」

「ええ。ライゼン大王国ですわ」とレモニカはあっさりと話す。


身分を明かすこと自体は良いのか、とユカリは釈然としない気持ちになった。


「ライゼン大王国!?」今度はレシュが飛び上がる。「でも、そんな名前……。いえ、失礼しました。そんな大国の王女様が一体……ああ、もちろん詮索するつもりは」


しどろもどろになるレシュにレモニカは微笑みかける。


「さあ、それより美味しいお茶とお菓子とお喋りを楽しみましょう?」


みんなでレシュの用意してくれた甘いお茶を飲む。ユカリは陶器の杯に口をつけながら四つの魔導書を見つめる。

ププマルと会うのはしばらく先だ、とユカリは心の中で呟く。そしてサンヴィアで最後にププマルと会った時の会話内容を思い出す。

クオルの実験のことを知ったユカリはププマルを問い詰めたのだ。


「ププマルが私を転生させたんじゃないの? この世界の実験のせいで私は転生したの? どっち?」


それに対してププマルはこう答えた。


「そもそも転生自体はこの世界、そして数多の世界に通ずる理なのププ。ププは魔導書の転生した世界の滅びを避けるために魔導書収拾の使命を託し、前世の記憶を保持させただけなのププ」

「記憶保持できてないけど!?」

「……じゃあその実験によって記憶が抜けたんだププ。きっと、たぶん、ププ」


いい加減な獣だ、とユカリは思った。


「とにかくこちらで調べてみるしかないようだね」とユカリは言う。

「うん。そうだねププ。この話、前にもしたと思うけどププ」とププマルは言った。


ユカリは白い獣の不思議そうな瞳を見つめ返し、言葉を返そうとしたが出て来ない。


唇も舌も喉も動かず、痺れている。己の体に。指先から全身へと痺れが広がる。体が麻痺し、石化した時のように動かなくなる。

ユカリの視線の先でベルニージュとレモニカも動きを止めていた。


「正直、盗賊の出したお茶を疑いもせずに飲むなんてどうかしてるよ」とレシュが言って、机の上の四つの魔導書を掻き集める。


ユカリは信じられない思いでレシュの動きを見つめる。信じていたか、というとそれほどでもないが。


「ワタシもそう思う」とベルニージュが言った途端、レシュは抵抗も回避もできず炎の獣に弾き飛ばされた。


ベルニージュが『神助の秘扇』を手に取って、ユカリを扇ぐといとも容易く麻痺が消え失せる。


「本当に迂闊ですわ、ユカリさま」とレモニカは言う。

「レモニカも飲んでなかったの!?」と言うユカリは一人だけ罠にかかった自分を恥じる。


思い返せばププマルとのことを思い出していたはずなのに、まるで目の前にいるププマルと会話しているような気分になっていた。あれもお茶に混ぜられた何かの作用なのだろうか。


「わたくしあの方とは初対面ですもの」と言ったレモニカの視線の先でレシュは部屋から逃げ出していた。「逃げてしまいますわ」

「良いよ。魔導書は無事だし。それより見てこれ」とベルニージュが言って四つの魔導書を見せる。


ベルニージュは四つとも一まとめにして持っている。にもかかわらず一冊の魔導書へと変化しない。ユカリにしか見えない光に包まれることもなく、真っ暗な闇に浮かぶ一匹の獣も現れない。


「これは、つまり?」とレモニカは確かめるようにユカリとベルニージュを交互に見る。

「魔導書は他にもまだあるってことだね」とユカリは言った。

魔法少女って聞いてたけれど、ちょっと想像と違う世界観だよ。

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