テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
中間試験当日。
1年Dクラスの教室には、いつも以上に張りつめた空気が漂っていた。
赤点を取れば退学になる可能性がある。
高度育成高等学校の厳しさを知った今、その重みは誰にとっても大きかった。
あたしも鉛筆を握る手に力が入っていた。
(大丈夫……綾小路くんに教えてもらったところ、ちゃんと復習したもん)
ふと前を見ると、少し離れた席に座る 綾小路清隆 の横顔が目に入った。
いつもと変わらない、静かで落ち着いた表情。
その姿を見るだけで、不思議と心が落ち着いていく。
数日後、試験結果が返却された。
ひなは恐る恐る答案用紙を開く。
「……よかった!」
すべての教科で赤点を回避していた。
胸いっぱいに安堵が広がる。
そのとき、背後から聞き慣れた声がした。
「無事だったみたいだな」
振り向くと、綾小路くんが立っていた。
「うん! 綾小路くんのおかげだよ」
「俺は少し教えただけだ」
「それでも、本当に助かったの」
ひなが笑顔を向けると、綾小路くんはいつものように静かに頷いた。
放課後。
ひなは寮へ戻る途中、中庭のベンチに座る綾小路くんを見つけた。
夕暮れの柔らかな光の中、彼はひとり静かに本を読んでいる。
少し迷ったあと、ひなはそっと近づいた。
「隣、座ってもいい?」
「ああ」
短い返事にほっとして、隣に腰を下ろす。
しばらくの間、穏やかな沈黙が流れた。
そして綾小路くんが本を閉じ、ぽつりとつぶやく。
「頑張っていたな」
「えっ?」
「勉強会でも、最後まで真剣だった」
思いがけない言葉に、胸が熱くなる。
「見ててくれたんだ……」
「まあな」
何気ない一言。
でも、その言葉がひなにとっては何より嬉しかった。
少し風が吹き、葉が揺れる。
綾小路くんは視線を前に向けたまま、静かに言った。
「ひな」
名前を呼ばれるだけで、心臓が大きく跳ねる。
「今回の結果は、お前が努力したからだ」
「……ありがとう」
「自信を持てばいい」
たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
綾小路くんはいつも大げさなことは言わない。
それでも、必要なときに一番欲しい言葉をくれる。
その優しさに触れるたび、
好きという気持ちは、少しずつ確かなものになっていった。
寮へ戻る道。
夕焼けに染まる並木道を歩きながら、ひなはそっと胸に手を当てた。
(もっと、綾小路くんのことを知りたい)
そして――
(いつか、私の気持ちを伝えたい)
試験を乗り越えた先で、
ひなの恋もまた、新しい一歩を踏み出そうとしていた。
#よう実夢小説