テラーノベル
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険悪な中、ビリッと何か破れる音が聞こえる。
傾「ちっ…縫い直しが面倒だ。」
アリィは辺りの霧を見回す。
アリィ「もう時間切れだな。かなり狭くなっている。…仕方あるまい。生ける屍よ、どうにかしてノアの目を誤魔化せ。 」
傾「誤魔化してどうするんだ?現状は良くならないが。 」
アリィ「問題ない。この我が霧を晴らすからな。」
そう言うと、アリィが翳した手の中心あたりから霧が晴れていくと同時に、黒い影がアリィの足元から現れ伸びる。
傾「…アビスの力…」
アリィ「口外すれば、お前の命はない。 」
傾「どうしようが、俺の勝手だ。」
話している内に霧はすっかり晴れる。
アリィ「後は任せた。」
傾「投げやりな…シイシャ…」
ノア「やば…!」
傾がノアに話しかけようと姿を見ると、シイシャンとしての姿でも、ノアとしての姿も、有翼族としての姿でもなく初めて見た姿だった。
傾「お前…やみくもに魔法を使ったわけじゃないだろうな。」
ノア「ちゃんと考えあってだから!相談しなかったのは悪いと思うけど…」
傾「まぁいい。焦る必要はない、こちらの勝利だ。」
ノア「え?」
傾「魔力切れのようだ。どうやら、あの霧は魔力消費量が激しいようだ。」
ノア「本当だ…あぁよかった…本当に焦った…。」
傾「俺は術者を探してくる。 」
アリィ「私はノアと一緒にいるよ。また勝手に使われて危険な目にあっては欲しくないし…居ないよりマシだろうから。」
傾「……。」
アリィ「なに?」
傾「…いいや。…魔法使えなくなったと分かれば、逃走。賢明な判断だ。お前はただ運が悪かっただけだ。 」
逃げていく人影に、傾は一跳びし追いつき、前にたちはだかる。
傾「そう恐れるな。楽に殺してやる。」
そう言い、傾はいとも容易く悪魔の首を切る。
アリィ「…私のときは凄い痛かったのに…。」
傾「あれは尋問が目的だからな。シイシャン、こいつに見覚えは?」
ノア「大丈夫?まだ生きてたりしない?」
傾「確実に仕留めた。フェニックスには情報がないアヴィニア人だ。」
ノア「どれどれ…リオーン…意外だった。」
アリィ「どんなヒトだったの?」
ノア「…いつも悩みとかなさそうだった。結構単純なところもあったし…なんだか飢餓に蝕まれる想像が出来なかったかな。 」
傾「飢餓に蝕まれていなくても、稀に堕ちることはある。特に多いのは恐怖だ。ソレは自身に危害を加える者の他に同胞の死もある。 」
ノア「それなら…納得はしたくないけど何となくわかるかも。」
傾「…お前には馴染みのない文化だろうが、葬儀というものが存在する。気が済まないのであればやってやってもいい。 」
アリィ「それは…普通馴染みがあるんじゃ…」
傾「先程最期のありようを伝えたはずだろう。生きているのだ。精神が死のうと。そして大抵は自害をする。稀に勇猛な者がその命を終わらせることもあるがごく少数だ。生者が死者との別れを少しでも受け入れられるようにするものだが行うか?」
ノア「ううん、大丈夫。きっとこれには何千年もかかるものだから。 」
傾「そうか。」
アリィ「なんでシイシャンにだけは甘いの?」
アリィは不服そうな顔をしながら傾に聞く。
傾「『鴉』に気にかけるよう言われている。…これは本当に善意で伝えるが『鴉』に喧嘩は売らない方がいい。」
アリィ「誰に対しても喧嘩なんて売るもんじゃないと思うけど…どうなるの?」
傾「全身の関節という関節に技をかけられる。」
ノア「絶対君がやらかしただけだと思う。」
アリィ「『鴉』って…多分リーダーさんだよね?」
傾「ああ。」
アリィ「腕が奇形の有翼族なのに、どうやって技なんてかけるの?」
傾「俺の口からそれを語らせるな。」
アマラ「全体重を支える必要のある羽が腕にあるんだ。腕力は地底人と互角じゃないか?」
傾「なんだお前急に出てきて。」
アマラ「まぁその代わり細かなものは掴めないがな。ただ雑談をしに来たわけじゃないぜ。報告だ。お前が指定した2名の回収は完了した。」
アリィ「はやっ!?」
傾「『梟』にはフェニックスの顔として無数の立場がある。コネでも聞かせたんだろう。」
アマラ「アタシ1人の時しか使えない手だがな。護送はのんびりやる。」
傾「…まぁ焦っても現状はよくならないだろう。そうしてくれ。」
傾は話を切り上げると、空を見上げる。
傾「思っているより長いこと、この場に長居をしていたらしい。夕暮れだ。」
ノア「早めに拠点を構える?」
傾「いいや、もう少し行く。なんとしても予定してる地点まで行きたい。」
アリィ「…イドゥン教の人達の移動手段はなんなんだろう。それによってはフィヌノア国までの時間が変わるけど…」
ノア「徒歩はないだろうね。」
アリィ「私達も出来れば馬を借りたいけど…」
傾「小回りが効かん。」
アリィ「それに私ちょっと借りるってなると国に名前知られるからまずいんだよね…。」
傾「本当に何したんだお前。」
ノア「着いた着いた、うわもう暗くなってきてる。」
アリィ「早いとこ準備しないとね。 」
傾「今日は良いだろう。お前達料理はできるか?」
ノア「ボクに聞く?やり方は分かるけど味見できないから、破滅的な味になると思うよ。 」
傾「杏は?」
アリィ「できるよ。流石にプロ程とはいかないけど…」
傾「そこまで求めていない。」
アリィ「何か食べたいものでもあるの?」
傾「あぁ。俺は魚を釣ってくる。シイシャンが勝手に俺の記憶を見て教えろ。」
ノア「ボク今日これ以上使ったら自己回復間に合わないって。植物から貰える魔力ってほんのちょびっとなんだから! 」
傾「面倒だな…。」
アリィ「どうしても魚がいい?」
傾「肉はあまり好きじゃない。」
アリィ「魚がいるってことは近くに水辺があるんだよね?案内して。ノアは火起こしだけしてて。」
ノア「はーい。」
傾「お前が釣るのか?」
アリィ「釣るのはアンタ。兎って魚食べるの?」
傾「普通は食べん。野菜のが好きだ。だがそう贅沢は言ってられない。お前達もそれでは腹が膨れんだろう。勘違いするなよ。空腹で行き倒れても困るだけだ。 」
アリィ「どれだけ食いしん坊だと思ってるの…まぁそうなんだけど。」
傾「ここだ。」
アリィ「かなり近いね。さて始めますか… 」
アリィはいそいそとあちこちから川付近に石を運び始める。
傾「俺は何をすればいい。」
アリィ「何か音のなるものを集めてきて。」
傾「音か。」
そう言うと傾はどこかに姿を消す。
アリィ(私はジークみたいに狩りがうまいわけじゃないけど、罠の設置の仕方とかはジークに教えてもらったから、問題なく出来るはず…自信はないけど…。)
アリィ「とりあえずこれだけど石があればいいかな。あ、釣竿作ってなかった。」
傾「戻ったぞ。」
アリィ「はやかっ…わあああ!?」
アリィが振り返るとそこには木で出来た筒のような物を紐でくくり、振り回している傾の姿があった。
アリィ「ちょっ、あぶなっ!!」
傾「で、これをどうすればいい。」
アリィ「とりあえず振り回すのやめて!」
傾「大袈裟な。」
傾は文句を言いながらも振り回すのをやめる。
アリィ「ちょっと待ってね。簡易的な釣竿作って固定するからその後ね。…なんかさっきから大人しいね?」
傾「食事にありつけないのは嫌だからな。ヒトには得手不得手がある。食事はお前に任せた方がいいと判断した。 」
アリィ「ふぅん。暇だったら罠の設置しておいて。」
傾「これは獣用か。肉も食うのか。」
アリィ「私はシイシャンの分まで食べないといけないからね。」
傾「コレの使い方を教えろ。」
アリィ「あー…シイシャンに聞いて。多分ジークの記憶覗いてるんだし知識はあると思う。」
傾「…お前は記憶を覗かれたことがないのか?」
アリィ「多分ね。」
アリィの答えを聞き、傾はノアの所へと戻る。
ノア「あ、おかえり。1人?」
傾「ああ。待ち時間に罠を設置しろと言われた。これはどう使う。使い方はお前に教われとのことだ。」
ノア「とりあえずその持ち方すると、指がちょんぎれる可能性あるからやめた方がいいかな…。 」
傾「よくそんな物騒なものを持ち歩けるな。」
ノア「慣れじゃないかなぁ。まずは地面に置いて開く。」
傾「開いたぞ。」
ノア「そしたら後は近くに餌を置くだけだよ。でもそこの中心の台座部分絶対触んないでね。それを踏むことによって作動して動物の足を思い切り掴むから。」
傾「ここでは、罠にかからないが。」
ノア「1回閉じたい時は、枝とか石で台座部分を狙うんだよ。」
傾は言われるがまま木の枝を投げる。すると、罠は閉じ投げ込まれた木の枝は一瞬にして折れる。
傾「大体把握した。俺はその辺に行く。 」
ノア「餌は?」
傾「その辺で木の実をとれば十分だろう。山は自然の恵みが多い。」
ノア「行ってらっしゃーい。さてと…火起こしも終わったしちょっと早いけど、寝具の準備始めよう。ここまでお昼ご飯も兼ねて干し肉齧りながら、走ってきたし2人とも疲れてるよね。あぁそうだ見張り…今日は誰がやろうかな…。 」
アリィ「さてと釣竿と音のなる物を付ければ…完成!まぁこれは耳の良いジークだから出来たんだけど…アイツなら獣人だし大丈夫なはず。んー…やっぱり心配だし後でテストしよう。…とりあえず付けちゃったけど…この筒に付いてる紐って、多分服着るためにつけるやつだよね?濡れちゃうけどいいのかなこれ…。」
傾「それは予備の腰紐だ。問題ない。」
アリィ「ぎゃあっ!?びっくりした…!足音くらい立ててよ!」
傾「足音?」
アリィ「まさか足音立ててない自覚もないの?はぁ…その変わった格好じゃなければ、いよいよ存在感も消えるだろうね。」
傾「テストはいいのか。」
アリィ「あぁ…じゃあ試したいから1回シイシャンの所に行って。聞こえたら聞こえたって言って。」
傾「分かった。」
暫くすると戻ったぞと傾の声が聞こえる。
その声を聞き、アリィは釣竿を揺する。釣竿を揺すると一緒につけていた木の筒がカラカラと音を立てる。
傾「聞こえた。俺はもう一度あちらへ行けばよいのか?」
ノア「多分アリィがこっち戻ってくるよ。」
アリィ「戻ったよー。」
ノア「ほら。」
アリィ「後は音があるときに回収しに行けばいいんだけど…あんなものよくあったね。」
傾「自然にあるわけがないだろう。アレは俺が作った。剥がれかけている木を、葉をちぎった際にでる液体で合わせて筒型を作り、そこに木の枝を入れ、蓋をしただけだ。」
ノア「昔も作ったことあるの?フェニックスに加入する直前までしかボク見てないからさ。」
傾「あぁ。玩具として作ったことがある。アレを紐で括り振り回すといい音が鳴るのだ。」
アリィ「だから紐がついてたんだ…。遊びにしては危なすぎるね…。」
傾「当然長時間叱られた。」
アリィ「当たり前だと思う。」
傾「魚はまだかからないな。」
ノア「傾って待つの苦手でしょ。」
アリィ「まぁこの間に他の料理できるから。」
傾「…待て。」
アリィ「何?」
傾「虫は食わないよな?」
酷く真剣な顔で傾はそう聞く。
アリィ「食べないけど…」
傾「ならいい。」
ノア「もしかして…『羊』踊り食いでも見たの?」
傾「その話をもう一度すれば、お前の派手すぎる服を引きちぎってやる。」
ノア「ボク変態になっちゃう…」
傾「勘違いするなよ、別に虫が怖いわけじゃない。目の前で虫を食われるのが嫌なんだ。」
アリィ「……。」
傾「お前は料理をしてるんだから想像するな。味がおかしくなる。」
アリィ「話題に降ってきたのそっちだけど…あまりに得をしない想像だしもうやめる。アンタは料理できるの?」
傾「できる。裁縫、料理、掃除、こ…楽器、家の中にいてやれるようなことなら大体できる。外でやることで出来るのは…戦闘くらいか?俺には狩りは出来んしな。」
ノア「どっちかというとされる側だもんね。」
傾「やかましい。それは大昔の話だ。」
アリィ「手も動かしてくれない?」
そう言い、アリィは傾の手に木で出来たヘラを傾に持たせる。
傾「それはいいが何を作るんだ。それを教えろ。」
アリィ「名前なんてないよ適当。かき混ぜてくれてたらいいから。」
ノア「…ねぇアリィ疲れてる?」
アリィ「うん?そりゃ…ここまで走ってきたからね。」
ノア「なんか顔色が悪いというか…」
アリィ「顔色?特に何ともないと思うけど…多分、不安なんだと思う。」
傾「今晩の見張りは俺かノアでやる。お前は早々に寝ろ。病人を引きずるつもりはない。」
ノア「ぶっ通しでやるより、交代しながらやる方がいいと思うんだけど…」
傾「ならそれで行く。俺は魚がかかったようだから行く。お前がコレ混ぜてろ。」
ノア「えっボク!?ちょっ…はやっ!?」
ノアは既に居なくなっている傾に呆気にとられていた。
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