コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──七月。
空の色が、ほんの少しずつ変わってきた。
まだ梅雨は明けきらないけれど、 光は前よりもずっとまぶしい。
期末テストが終わって、校内の空気が少しゆるむ頃。
図書室の窓から入る風が、紙のページをぱらぱらとめくった。
雨の日に比べると、明るい午後。
机の上に落ちる陽射しが、ゆっくりと動いていく。
「紬、もうすぐ夏休みだな」
先輩がそう言いながら、ノートを閉じた。
白いシャツの袖をまくっていて、手首のあたりに光が反射してる。
その一瞬に目を奪われて、慌てて視線を戻した。
「……そうですね。なんか、あっという間です」
「ほんとにな。入学したの、この前みたいなのにな」
「先輩は、もう三年生の夏ですね」
「うん。最後の夏、かもな」
その言葉のあと、少し沈黙が落ちた。
でも、重くはなかった。
風鈴の音が遠くから聞こえるような、静かな間だった。
「紬は夏休み、何するの?」
「特に決めてないです。…多分、本読んで終わります」
「らしいな」
先輩が笑って、頬杖をつく。
「じゃあ、もし暇だったら、図書室来いよ」
「…夏休みも開いてるんですか?」
「一部だけな。生徒用じゃないけど、先生に言えば貸してくれる」
「へぇ……」
「俺も補習とかあるから、多分いる。」
その一言で、胸の奥がきゅっと鳴った。
たったそれだけなのに、心臓の音がうるさくて、
返事をするのに少し時間がかかった。
「……はい」
それしか言えなかったけど、
その言葉には、ちゃんと気持ちがこもっていた。
窓の外では、雲の隙間から夏の光がのぞいている。
その光が、ふたりの机をひとつに繋ぐように落ちていた。
六月の雨が終わって、 空の色が変わるように、私の心も少しずつ変わっていく。
季節は進んでいくのに、
この時間だけはどうか、変わらないままでいてほしいと思った。