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最悪だ。何が悲しくてこんな格好をしなくてはならないのか。
現在、蓮の姿は女性ものの服に身を包んでおり、化粧もバッチリ施されている。
最初は美月が一人で二人分のメイクを担当する事になっていたはずなのに、何処で聞きつけたのか、メイク担当のスタッフがやって来て、あれよこれよという間にこの様だ。
一体何処で手に入れたのか、衣装担当がぜひこれをと持って来たメイド服は、黒地に白のレースをあしらった所謂ゴスロリと呼ばれる類のもの。長身の自分に入るわけがないと思っていたのに、いざ着てみれば計って来たのか? と疑いたくなるレベルで体にフィットしている。
地雷系ファッションと呼ばれるその系統の服の存在は知っていたが、まさかこの歳になって自分が着る事になるなんて思ってもみなかった。フリルたっぷりのミニスカートから覗く脚にはニーソックスを履くように言われている。
頭には胸元まである黒髪ストレートのウィッグが乗せられ、可愛らしい猫耳カチューシャがつけられていて、鏡に写った自分の姿を見て絶望的な気分になった。
身長が高いせいで、スカートの丈が気になるところだがそこはプロの仕事。自然なまでに馴染んでいて違和感が感じられず、見事に誤魔化せている。
あれよあれよと言う間に完成した姿は、蓮自身でさえ、鏡に映る人物が自分であると認識するのに時間がかかったほど別人に仕上げられており人間はメイクでここまで変われるのかと思わず感心してしまうほどだった。
対する弓弦の方はと言えば、こちらもスタッフ総出でいじくり回され、見事な仕上がりになっている。
元々整った顔立ちをしているうえに、肌が白い為か薄らとファンデーションを塗られただけで女に見えるから不思議だ。
淡い茶色の髪を緩くふわっと捲いて、オフホワイトのワンピースに身を包み、上からピンクのカーディガンを羽織っているその姿はどこから見ても清楚系女子にしか見えない。
「やばっ、ちょっとちょっと! 二人とも可愛くない!?」
喜びの声を上げる美月に、他の女性スタッフたちも満足そうに頷く。
「いいじゃない二人とも。凄い! これは期待以上かも」
「……それは素直に喜んでいいのかわからないよ」
溜息交じりに呟いた言葉に、弓弦がウンウンと激しく首を振る。
「わかります。その気持ち。本当に不本意です」
「そう言わないの。ゆづ、すっごく似合ってるわよ」
「……」
嬉しそうに笑う美月に、弓弦が複雑そうな表情を浮かべ押し黙る。人気絶頂期のイケメン俳優を女装させるだなんて、そんなことが出来るのは姉である美月ぐらいだろう。
「じゃあ、早速みんなにお披露目と行きましょうか。きっとみんなびっくりするんじゃないかな」
美月の言葉に、蓮と弓弦が顔を強張らせる。
今この瞬間だけでも恥ずかしいというのに、これ以上恥の上塗りをする羽目になるとは……。
「たく、何が悲しくて好きな奴の前でこんな格好を晒さなければいけないんだ」
「全くです。姉さんの趣味を疑いますよ」
文句を言いながらも大人しくついていくのは、ここで抵抗したところで無駄だという事がわかっているからだ。
それにしても……。
「へぇ、草薙君にも好きな子がいたのか」
「っ! ……何の事だか分りかねます。さっきのは言葉の綾と言うか……」
「照れなくても大丈夫だよ。僕が協力出来ることがあれば何でもするからね」
「だから違うって言ってるでしょう!?」
顔を真っ赤にして否定する弓弦に、蓮が思わずクスッと笑いを漏らすと、結弦がキッと睨んできた。
「……何か?」
「ううん。なんでも」
ヤバい、面白い。もっと弄って相手が誰なのかを追求してやりたい。そんな悪戯心を必死に抑えながら歩いていると、
「二人ともいつの間に仲良くなったの?」と、言う美月の呑気な声が聞こえてきて、弓弦があからさまに嫌そうな顔をした。
「流石にそんな顔されると傷付くなぁ……。で? 弓弦君の好きな子は誰なのかな?」
「しつこいですよ」
ツンとした態度を取る弓弦に、蓮はますます笑みを深くする。
そうこうしているうちにスタジオに辿り着き、中に入ると、待機していたナギたちの視線が一斉にこちらを向いた。
「お待たせ―。美女二人連れて来たわよ」
「美女って……」
「どう考えても無理がありますよ……」
げんなりとする二人とは対照的に、ナギたちは口々に「おおっ!」と歓声を上げて駆け寄ってくる。
――その中で、一人だけ妙に冷静な人物がいた。銀次だ。
彼はすでにカメラを構えており、にやにやしながらシャッターを切っている。
「ちょ、銀次君!? なんで撮ってんだよ!」
「いやいや、どの企画がバズるかわかんないじゃないですか。念のためのストック映像ってことで」
「勝手にストックすんな!」
「撮らないでくださいっ!」
必死に抗議する蓮と弓弦を完全にスルーし、銀次は「はい撮れた〜」とご満悦。
「まぁまぁ、お兄さん、すっごく似合ってるんだし。めっちゃ可愛いよ!」
「草薙君は予想できたけど、オッサンも案外イケるじゃん。馬子にも衣装って感じ?」
「……ハハッ」
口々に似合うと言われたってちっとも嬉しくない。それなのにナギがあまりにも楽しげに「可愛い!」と連呼するから、恥ずかしがっている自分がバカみたいに思えてくる。
弓弦もさぞ戸惑っているだろうと思い、チラリと横に立つ男へ視線を向ければ――意外なことに、困った顔をしたまま頬を僅かに赤く染めていた。
一体何がそうさせているのか。疑問を抱きつつその視線の先を辿ってみれば、そこには雪之丞の姿があった。
「……弓弦君もいつもと雰囲気が違って、本当の女の子みたい。ろっぷちゃんと一緒に写真撮ったら凄く似合いそう」
「そうですかね……私にはよくわかりませんが」
雪之丞に微笑みかけられ、どこか気恥ずかしそうにしながらも、弓弦は満更でもなさそうな表情を浮かべる。
おやおや? さっき自分に向けた態度とはえらい違いじゃないか。
――これはもしかして?
蓮は内心でニヤリとほくそ笑む。そして隣にいる弓弦を見上げれば、それに気付いたのか視線が合ってしまい――
「……何ですか? 気持ち悪い」
「いや、別に?」
もちろん、自分が“別に”なんて顔をしていないことは自覚している。
何だか面白くなってきた、と心の中で舌なめずりしていると――突然、美月が手を叩き、みんなの視線をさらっていった。