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第13話「深紅の翼、コンゴウインコ」
ある夜、風間琴葉はベランダに出て月を見上げていた。
風はなく、空は冴えて、どこか落ち着かない気持ちが胸に広がる。
「そろそろ、君が選ぶ番だ」
背後から、落ち着いた低い声がした。
振り返ると、そこには真紅のロングコートを羽織った青年が立っていた。
漆黒のスーツに、深紅と青を混ぜたグラデーションのマフラー。
長い睫毛と鋭い目元、左の耳には黄金の羽根のピアスが揺れている。
髪は深い赤と藍の混色で、陽に当たれば虹色にも見えた。
そして、彼の背中には一対の、たたまれた見事な羽根。
「……あなた、誰?」
「コンゴウインコだ。──全部、見てきた。君がどの鳥と、どんな関係を結んできたか」
琴葉は息をのむ。
「なんで知ってるの……?」
「君に近づいた鳥たちの“観察記録”をずっと取ってた。
それが“ぼく”の役目だったから」
彼の瞳は、どこか哀しげに揺れる。
「どの鳥にも、羽の揺らぎに個性があった。でも、君はそれぞれに真剣に向き合った。
そのやり方が、ぼくには──危うくて、美しかった」
琴葉は拳をぎゅっと握った。
「じゃあ、全部……“観察”だったの?」
「違う。“確認”だ」
彼は、そっと琴葉の手を取り、指を一本一本見つめながら言う。
「君が、誰よりも“鳥の言葉”を聞ける人間だって確信したかった。
この世界で、選ばれた存在がまだいるって、証明したかった」
「選ばれた……?」
「鳥たちは、ただ恋をしたんじゃない。君の中に“巣”を見た。
居場所がほしかっただけじゃない。“永遠に還れる場所”を探してた」
彼の手は、熱かった。羽ばたきではなく、地に立つ意志を宿した熱。
「だから、最後に“ぼく”が言う。
──風間琴葉、ぼくは君をパートナーとして選ぶ」
風が吹き、マフラーがほどけて宙を舞った。
深紅の羽根が舞う中、琴葉は静かに目を閉じた。
「じゃあ……その気持ち、ちゃんと受け取らせて。もう、逃げないから」
コンゴウインコの青年は微笑んだ。
それは、空の王者の微笑みでもあり、ひとりの恋人の表情でもあった。