テラーノベル
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ミアが来る直前のシーン、もう少し長かったのですが、甘すぎたのでカットしました。
↓でもオマケとして掲載します!ちょっとセンシティブ気味です////
朝。
エリオットのアパート。
テーブルの上にはケーキ。
さっきまでの沈黙がまだ少し残っている。
チャンスは腕を組んで立っている。
エリオットは椅子に座ってケーキを見ている。
数秒。
それから。
エリオットがフォークを置く。
チャンス。
「もう食わないのか」
エリオット。
「ううん」
にこ。
「思いついた」
チャンス。
「嫌な予感しかしない」
エリオットはケーキのクリームを指で少しすくう。
白いクリーム。
人差し指の先。
チャンスはそれを見る。
「……」
エリオット。
にこにこ。
「チャンス」
「なんだ」
エリオットは指を少し差し出す。
「舐める?」
沈黙。
チャンスの眉が少し上がる。
「……お前」
エリオット。
「甘いよ」
チャンス。
「そういう問題じゃない」
エリオット。
「さっき俺がやったから」
チャンス。
「……」
エリオット。
「公平」
チャンスはしばらく黙る。
エリオットは相変わらず楽しそうに笑っている。
指はまだ差し出されたまま。
チャンス。
小さくため息。
「ほんと煽るな」
エリオット。
「だめ?」
チャンスはゆっくり近づく。
エリオットの手首を軽く掴む。
エリオット。
「お?」
チャンスはそのまま指を見る。
クリーム。
それから。
ゆっくり。
口を近づける。
エリオット。
「……」
チャンスはその指を軽く口に含む。
クリームを舐め取る。
ゆっくり。
指先を離す。
静かな音。
エリオット。
「……」
一瞬。
固まる。
チャンスは何事もなかったように言う。
「甘いな」
エリオット。
「……」
チャンス。
「ケーキ」
エリオットの顔が少し赤くなる。
チャンスはそれに気づく。
「おい」
エリオット。
「ん?」
チャンス。
「顔」
エリオット。
「なに」
チャンス。
「反応してる」
エリオット。
「してない」
チャンス。
「してる」
エリオットは慌ててケーキを食べる。
「甘い!」
チャンス。
「話そらすな」
エリオット。
「そらしてない」
チャンス。
「耳赤いぞ」
エリオット。
「……」
チャンスは少し笑う。
「お前」
エリオット。
「なに」
チャンス。
「自分からやっといて」
少し顔を近づける。
「弱いな」
エリオット。
「……」
その瞬間。
ネクタイ。
くい
エリオットが引く。
チャンス。
「おい」
エリオット。
まだ少し赤い顔で。
にこ。
「ドキドキしてる?」
チャンス。
「……」
沈黙。
チャンスは小さく笑う。
「してるな」
エリオット。
「どっちが?」
二人の距離はまた近くなっていた。
テーブルの上のケーキは、まだ半分残っている。
正直、やりすぎたかもしれない。
エリオットはそう思っていた。
目の前にはチャンス。
さっき。
自分の指のクリームを舐めさせた。
しかも。
チャンスはためらいもなくそれをやった。
その感触がまだ残っている。
指先。
ほんの少し。
熱い。
(……やば)
平然としてるつもりだけど。
内心は結構ぐちゃぐちゃだ。
チャンスは何事もなかったみたいに立っている。
「甘いな」
ケーキを指さして言う。
(いやそれだけじゃないでしょ)
エリオットは平気な顔をする。
にこ。
「だよね」
でも。
耳が熱いのは自分でも分かる。
チャンスがそれに気づく。
「顔」
(やっぱり)
「反応してる」
「してない」
「してる」
くそ。
負けたくない。
だからエリオットはいつもの癖を使う。
ネクタイ。
くい
チャンスの顔が近づく。
(これならいつも通り)
エリオットは笑う。
「ドキドキしてる?」
チャンスは少し黙る。
それから。
ふっと笑った。
「してるな」
(どっちが)
そう言い返そうとした瞬間。
手首。
ぐっ
急に掴まれる。
「え?」
チャンス。
低い声。
「もう一回」
エリオット。
「なに?」
チャンスはエリオットの指を見る。
さっきクリームがついていた指。
「それ」
エリオット。
「え?」
チャンス。
「やれ」
(……は?)
心臓。
一瞬で跳ねる。
「いや、さっきやったじゃん」
チャンス。
「もう一回」
(なにそれ)
エリオットは笑う。
余裕なふり。
「チャンス」
「なんだ」
「甘党?」
チャンス。
「違う」
それから少し顔を近づける。
距離。
近い。
「お前の反応」
(……っ)
「面白い」
エリオットの心臓が跳ねる。
(やば)
負けたくない。
だからエリオットはまたケーキを指ですくう。
クリーム。
白い。
そして。
にこ。
「はい」
指を差し出す。
チャンスはすぐ掴む。
手首。
そのまま。
口元へ。
エリオットは見てしまう。
ゆっくり近づく口。
(……これ)
さっきより。
やばい。
チャンスは指を咥える。
ゆっくり。
クリームを舐め取る。
エリオットの思考が止まる。
(……っ)
そしてチャンスが離す。
「甘い」
またそれ。
でも。
今度はエリオットの顔が完全に赤い。
チャンスは笑う。
「ほら」
エリオット。
「……」
チャンス。
「弱い」
エリオットはネクタイを強く引く。
ぐい
距離ゼロ。
「チャンス」
「なんだ」
エリオットは笑う。
でも心臓はうるさい。
「さっき言ったよね」
チャンス。
「何を」
エリオット。
「ドキドキしてるって」
チャンス。
「してるな」
エリオット。
にこ。
「どっちが?」
チャンスは少し黙った。
正直。
落ち着いてるように見せるのは得意だ。
でも。
今は違う。
目の前にいるエリオット。
にこにこ笑ってる。
いつもの顔。
でもさっき。
あいつは自分の指についたクリームを差し出した。
「舐める?」
軽い声。
挑発。
からかい。
普通なら断る。
でも。
チャンスはその指を咥えた。
理由?
簡単だ。
あいつの顔が見たかったから。
エリオットは強い。
人をからかうのが上手い。
でも。
弱点がある。
自分が主導権を握られると弱い。
だから。
わざとやった。
結果。
今。
目の前のエリオットは耳まで赤い。
チャンスは平然を装う。
「甘い」
ケーキを指す。
エリオットがむっとする。
「だよね」
笑ってるけど。
耳。
赤い。
(分かりやすい)
チャンスは言う。
「顔」
「なに」
「反応してる」
「してない」
「してる」
エリオットがネクタイを掴む。
ぐい
引かれる。
距離が一気に近くなる。
(またそれか)
この癖。
エリオットは気づいてない。
でも。
チャンスは知っている。
こいつは距離が近いと強くなる。
だから。
こっちが引かないと。
止まらない。
エリオットが笑う。
「ドキドキしてる?」
チャンスは答える。
「してるな」
エリオットの目が少し揺れる。
(今)
チャンスは手を伸ばす。
手首。
ぐっ
掴む。
エリオット。
「え?」
チャンスは言う。
「もう一回」
「なに?」
チャンスは指を見る。
「それ」
エリオットが固まる。
「いや、さっきやったじゃん」
「もう一回」
正直。
自分でも分かってる。
これ。
意地悪だ。
でも。
エリオットは笑う。
余裕な顔。
「チャンス」
「なんだ」
「甘党?」
チャンスは首を振る。
「違う」
少し近づく。
エリオットの目が揺れる。
「お前の反応」
「……」
「面白い」
エリオットがケーキを指ですくう。
そして。
差し出す。
「はい」
その瞬間。
チャンスの心臓が少し速くなる。
(くそ)
でも顔には出さない。
手首を掴む。
ゆっくり。
口元へ。
エリオットはじっと見ている。
視線。
熱い。
チャンスは指を咥える。
クリーム。
甘い。
でも。
それより。
エリオットの反応。
指先が少し震えている。
舐め取る。
ゆっくり。
わざと。
エリオットの呼吸が止まる。
(ほらな)
離す。
「甘い」
エリオットの顔。
完全に赤い。
チャンスは笑う。
「弱い」
その瞬間。
ネクタイが強く引かれる。
ぐい
距離。
ゼロ。
エリオットが笑う。
でも。
目。
少し潤んでる。
「チャンス」
「なんだ」
「さっき言ったよね」
「何を」
エリオットが囁く。
「ドキドキしてるって」
チャンス。
「してるな」
エリオット。
にこ。
「どっちが?」
チャンスは少し黙る。
正直。
今。
結構。
危ない。
だから。
チャンスはエリオットの手を取る。
さっきの指。
親指でなぞる。
「エリオット」
「なに」
チャンスは低く言う。
「次やったら」
エリオット。
「うん?」
チャンス。
「キスするぞ」
エリオット。
一瞬。
固まる。
それから。
にこ。
「コイントスする?」
(……は?)
チャンス。
「何を」
エリオット。
「キスするかどうか」
ポケットからコインを出す。
くる。
回す。
「チャンス」
「なんだ」
エリオットは笑う。
「運命に任せる?」
チャンスは思う。
(こいつ)
絶対わざとだ。
チャンスの手の中。
コイン。
「表でキス」
エリオットが言う。
にこにこ。
「裏ならしない」
チャンスは頷く。
「……分かった」
(ただのコイントスだ)
そう。
ただの。
運。
なのに。
手のひらが少し汗ばんでいる。
エリオットがじっと見てくる。
楽しそうに。
「緊張してる?」
「してない」
即答。
でも。
指先がわずかに震える。
(落ち着け)
チャンスはコインを親指で弾く。
カンッ
空中で回る。
きら。
朝の光を反射する。
その一瞬。
なぜか。
エリオットの顔がやけに近く見えた。
(……近い)
落ちてくる。
手で受け止める。
そのまま。
反射的に。
もう片方の手で覆う。
(……)
開く前。
ほんの一瞬。
心臓が強く鳴る。
(どっちだ)
ゆっくり。
手を開く。
―――
「……」
チャンスの思考が止まる。
結果。
見てない。
(は?)
さっき。
確かに受け取った。
でも。
手のひらを見ても。
コインがない。
「……は?」
エリオット。
一拍おいて。
「え」
チャンスは手のひらを見返す。
床を見る。
どこにもない。
(落とした?)
一瞬の混乱。
そして。
エリオットが吹き出す。
「ちょ、なにそれ」
チャンス。
「……落とした」
「見てないの?」
「見てない」
エリオット。
完全にツボに入る。
「はは……っ」
笑いながら近づいてくる。
「コイントス失敗って初めて見た」
チャンスは少し顔をしかめる。
(最悪だ)
エリオットはしゃがんで床を覗く。
コイン。
転がってる。
それを拾う。
そして。
チャンスの目の前でひらひらさせる。
「これ?」
「……ああ」
エリオットはくるっとコインを回す。
「で?」
チャンス。
「もう一回やる」
エリオット。
にや。
「だめ」
「なんで」
エリオットは一歩近づく。
距離。
近い。
「失敗したじゃん」
「……だからやり直す」
エリオット。
首をかしげる。
「やり直し、なし」
チャンス。
「は?」
エリオット。
にこ。
でも目は少し鋭い。
「チャンスさ」
「なんだ」
「今」
少し顔を近づける。
「ドキドキしてたでしょ」
チャンス。
「してない」
エリオット。
即。
「してた」
沈黙。
エリオットは笑う。
優しく。
でも逃がさない感じで。
「可愛いね」
(……っ)
その一言。
思った以上に効く。
チャンスは視線を逸らす。
「うるさい」
エリオットはさらに一歩踏み込む。
ネクタイ。
くい
引く。
「ほら」
距離ゼロ。
「失敗した罰」
チャンス。
「……何が罰だ」
エリオット。
小さく笑う。
「どうする?」
「……」
「コインなしで決める?」
沈黙。
朝の静けさ。
近すぎる距離。
エリオットの声が落ちる。
「それとも」
少しだけ真顔。
「逃げる?」
チャンスは一瞬だけ目を閉じる。
(……くそ)
それから。
ゆっくり目を開ける。
エリオットを見る。
近い。
逃げ場。
なし。
「エリオット」
「なに?」
チャンスは低く言う。
「さっきの」
「うん?」
「可愛いってやつ」
エリオット。
にこ。
「うん」
チャンス。
「取り消せ」
エリオット。
即答。
「やだ」
(……こいつ)
「取り消せ」
「やだ」
エリオットの即答。
にこにこしてるくせに。
一歩も引かない。
ネクタイはまだ掴まれてる。
距離。
近すぎる。
チャンスは小さく息を吐く。
(逃げるか)
一瞬そう考える。
でも。
それをしたら。
完全に負けだ。
「……エリオット」
「なに?」
「お前さ」
「うん」
チャンスは一歩踏み込む。
逆に。
距離を詰める。
エリオットの目がわずかに揺れる。
(今度はこっちだ)
手を伸ばす。
頬に触れそうな距離。
エリオットが息を止める。
「チャンス…?」
その声。
少しだけ弱い。
(やっぱりな)
チャンスは低く言う。
「可愛いって言ったな」
「言った」
「取り消せ」
「やだ」
即答。
しかも笑ってる。
(……ほんとにこいつ)
でも。
その笑顔の奥。
ほんの少しだけ緊張が混ざってる。
チャンスはさらに顔を近づける。
あと数センチ。
エリオットの呼吸が浅くなる。
(ここまで来たら)
もう。
引けない。
チャンスは小さく呟く。
「じゃあ」
「うん?」
「証明してやる」
エリオットの目が見開く。
「何を?」
チャンス。
「可愛くないってこと」
そのまま。
顔を寄せる。
エリオットの唇。
すぐそこ。
触れる――
ピンポーン
「…………」
「…………」
最悪のタイミングで。
インターホン。
二人の動きが止まる。
完全に。
止まる。
エリオットが瞬きをする。
「……は?」
チャンスも動かない。
あと数センチの距離。
そのまま固まる。
ピンポーン、ピンポーン
連打。
現実に引き戻される。
エリオットがゆっくり顔を離す。
でも。
完全には離れない。
「……誰」
チャンス。
「知らない」
「いやここお前ん家じゃないし」
「じゃあお前が出ろ」
「なんでだよ」
また鳴る。
ピンポーン!!
エリオットがため息をつく。
「……最悪」
そう言いながらも。
少しだけ笑ってる。
チャンスはそれを見る。
(……余裕戻ってるな)
エリオットがネクタイを軽く引く。
「続き」
「……は?」
「あとでね」
にこ。
完全にいつもの顔。
でも。
耳。
まだ少し赤い。
チャンスは目を細める。
「逃げたな」
エリオット。
「逃げてない」
「逃げてる」
「逃げてないって」
もう一度。
インターホン。
エリオットが仕方なさそうにドアへ向かう。
ドアノブに手をかける前に。
ちらっと振り返る。
「チャンス」
「なんだ」
エリオットは笑う。
少しだけ意地悪に。
「さっきの続き」
「……」
「ちゃんとやるから」
(……くそ)
ドアが開く。
光が差し込む。
でもチャンスの意識はまださっきの距離に残ってる。
唇。
あと少しだった。
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ゆゆゆゆ
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