シェアする
「ある日、僕の指に塵が着いていたんだ。」
そう下らないながら
長くなりそうな事を話始めた同僚にシグマは溜息を着いた
道化師は首に巻かれた包帯をくるくると指で弄り遊んでいた
「勿論、僕は塵を取ろうとした。
道化師なのに塵なんて着いていたら、カッコが付かないからね。
でも、取れないんだよ
手で払おうとしても、水で洗っても、どうしようとも取れないんだ」
奇妙な方向へ行った話の行方が気になり、
一寸クッキーを頬張るのをやめ、シグマはゴーゴリを見た
「だから、切ったんだ。
ハサミでその塵を。塵を切った筈なのに、痛かった
其処でやっと気付いたんだ。
僕が塵に見えていたのは自分だって
だから首を切ろうとしたんだ。これはその時の傷さ」
呆れたシグマは席を立ち、乱雑に置かれていたゴーゴリの帽子をゴーゴリに被せた
「冗談も良い加減にしろ。
クッキーの火加減は良かったがな」
そう吐き捨て去り行く想い人を引き留める事無く、道化師は蹲って笑った
、、、、、、、、、、、塵なのに変わりはないさ
ゴーゴリは物語の続きを始めようとナイフを取った
全ては愛おしい彼に聞かせる為
全ては彼に気づいて貰う為
全ては情けない自分への罰
其れが今、ドストエフスキーでもシグマでも探偵社でも無く、ゴーゴリ自身の手で下された。
彼はもうニコライ・ゴーゴリでも道化師でも何でも無くなった。
其れが、唯一無二の、救いだったなら
何者でも無いなんの価値も無い彼は、
もうなんの価値の無い笑みを遺した。
其れは何でもない君への、、、、おっと、僕の物語は此処で終わってしまった様だ。