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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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🩷大介side



タクシーは、阿部ちゃんの家には直接向かわず、途中の隠れ家みたいなカフェ?で停まった。

かなり奥まったところで、周りに緑がたくさん植えられた一軒家みたいな造りのカフェ。俺らも少し距離を置いて停車してもらい、タクシーから降りた。

阿部ちゃんは慣れた様子で入って行く。

外から2階の窓側に座ったのが見えたので、俺と涼太も後から入って行った。



「いらっしゃいませ」



落ち着いた年配の女性店主が、丁寧に頭を下げてくる。



「お好きな席へどうぞ」



俺たちはそーっと2階へ上がった。ちょうどいい感じに背の高い鉢植えが俺たちを隠してくれる。隅の席に着席した。

落ち着いた店内には小さくジャズが流れている。お客さんはそう多くはないが、廃れている感じはしない。みんな読書とか静かな会話を楽しんでおり、居心地のいい店だった。

阿部ちゃんの行きつけなのかな…。

俺は阿部ちゃんの私生活を一つ知ったような気がして嬉しくなっていた。



❤️佐久間、何にする?


🩷あ?別になんでもいい



俺は注文どころじゃない。

ただ阿部ちゃんを見ていたい。

遠目に阿部ちゃんがカバンから本やノートなどを取り出すのが見えた。



🩷勉強するのかな…



案の定、本の正体は何かのテキストらしく、阿部ちゃんはペンケースからシャーペンを取り出して、ノートに何か書き始めた。横顔が知的でかっこいい。

品があって、本当に素敵だと思った。



「おまたせいたしました、ハワイアンドリンクです」



❤️ありがとうございます


🩷!!なんだ?これ!!!



テーブルの上に、拳ふたつ分くらいの大きなグラスが置かれた。

パッションフルーツをまとめて絞ったようなオレンジ色の大容量のジュース。

グラスの周りにはパイナップルやオレンジ、マンゴー、パパイヤなどが所狭しと飾られ、極め付けにハート型のストローが枝分かれして刺さっている。ご丁寧にもストローの飲み口はふたつ。

漫画でしか見たことがないような、ラブラブドリンクだった。



🩷おい、涼太。これ、なんだよ?


❤️飲も?


🩷飲も?じゃねーよ!!


❤️え?だって可愛くない?映えるし


🩷男二人で飲むようなもんじゃねーだろ!



涼太は俺に構わず、ストローの片方の端をくわえて、ジュースを飲んだ。



❤️……おいしい



その美味しさにびっくりして、ジュースの中身を二度見している。



❤️すごい新鮮!佐久間も飲んでみな?


🩷………



あまりにも涼太が美味そうに飲むので、ちょっとだけ俺も気になってしまった。



🩷ちょっとだけな?



ずずーーー。



🩷うまっ!!!


なにこれなにこれ。

見た目はかーなりアレだけど、色んなジュースが混ざった複雑だけど豊潤な味わい…?とでもいうのだろうか?マジでかなり美味い。

喜んでる俺を見て、涼太が微笑んでいる。なんか、居住まいが常に穏やかでロイヤルなんだよなあ。俺と同じ下町生まれのくせに…。



❤️お。阿部が立った


🩷えっ!?



阿部ちゃんが立ち上がり、こちらへ向かって歩いてくる。俺たちは慌てて姿勢を低くする。

阿部ちゃんの位置からはちょうど死角なのでここは見えないはず。

思惑通り阿部ちゃんは気づかずに俺たちのすぐそばを通り過ぎて、階段を降りて行った。

俺たちも続く。



「ありがとうございました」



外に出て、俺は左右を見回す。

阿部ちゃんが細い横道を入って行くのが見えた。

どうやらここからは徒歩で移動するらしい。

距離を取ってついていくと、 カフェの裏手には古い映画館があった。

阿部ちゃんはそこへ入って行く。



🩷翔太と待ち合わせして、映画でも見るのかな?



その映画館は単館上映が主のような、こじんまりとした建物だった。貼ってあるポスターから察するに古い映画のリバイバル上映を中心に放映しているようだ。

俺にはよく分からん昔の海外の白黒映画とか。

阿部ちゃんは趣味も渋いし、お洒落だなと感心する。



❤️大人2枚でお願いします



俺たちも続いて入って行った。





阿部ちゃんに気づかれないように、俺たちは後方の席に並んで座る。

阿部ちゃんは一人で前の方に座った。

翔太が来るんじゃないかと備え付けのパンフレットで顔を隠しながら警戒していたが、結局俺たちのほかには誰も入って来なかった。

ほぼ貸し切りのような状態で、館内が暗くなった……



🩷え…むちゃくちゃ面白いなこれ…



開始15分で、俺は目の前の映画に引き込まれていた。

全体はラブストーリーなんだけど、スパイ物でかなりハラハラする内容だ。


自らがスパイであることを隠して生活する男が、敵国の女性と恋に落ちて行くストーリー。

組織を裏切り、仲間に追われても、男は愛を貫こうとする。


俺が物語に引き込まれて集中して見ていると、ふいに涼太に手を握られた。



🩷おい!何やってんだよ!


❤️しっ。阿部に聞こえる



俺は慌てて声をひそめる。



🩷どういうつもりだよ


❤️俺もデート気分を味わいたくなっちゃった


🩷離せって


❤️やだよ



スクリーンには愛し合う男女のシーン。

かなり際どいところまで映し出される。とても子供には見せられないようなシーンが続く。

いくら引き剥がそうとしても涼太が離さないので、ストーリーに集中したい俺はもう手を離すことを諦めた。

結局そのまま最後まで涼太と手を繋いだまま続きを見るはめになった。


物語はどんどん佳境に入って行く。


裏切りがバレた男は、組織の凄腕のスナイパーに潜伏先のホテルを出たところで撃たれてしまう。恋人の胸に抱かれながら男が死んでいく場面では思わず涙が溢れた。



❤️ほら、涙拭いて…



涼太がハンカチを貸してくれる。



🩷うっ…うっ…ありあと…っ。



うまく喋れないくらい号泣してしまったので、ハンカチは後で洗って返そう。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった。



館内が明るくなる前に、鼻をすすりながらも席を立つ。

俺たちは阿部ちゃんが出て来る前に映画館の物陰に隠れて待った。







❤️涼太side



鈍い佐久間は、俺がカフェからの映画館デートを楽しんでいることにまったく気づいていないようだ。

尾行にかこつけたこの数時間、佐久間と甘い時間を過ごせて俺は幸せだった。


阿部も本当に勿体無いことをする。

佐久間のようなお目目キュルキュルの可愛い姫を放っておいて、あんな天然俺様王子を選ぶなんて…。

俺なら絶対ごめんだね。

翔太はわがままだし、絶対甘えて来ないもん。知らんけど。


正直、尾行なんてどうでもいい。

俺としてはさっき通りすがりに見つけたいい感じのホテルに佐久間を連れ込みたい。


そんなことをつらつらと考えていたら、阿部が出てきた。

タクシーを拾っている。

佐久間は俺の腕を掴んで、別のタクシーに乗り込み、尾行が再開された。



🩷もう帰るみたいだな



佐久間は阿部の家を知っているらしく、周囲の景色を見てそう呟いた。

なんだ。

もうデート終了か。つまらない。



❤️翔太、結局来なかったね


🩷いや、この後阿部ちゃん家の前で待ってれば来るかも



佐久間はまだ諦めていないようだ。



❤️まだ続ける気?


🩷当たり前だろ。もしかしたら、阿部ちゃんより先に家に行ってる可能性もあるし



そう言いながら、佐久間は自分で自分の言葉に傷ついたようだった。

佐久間に夢中で忘れていたが、阿部のいない間に家の電気のひとつでもついていたら、佐久間の失恋は決定的になる。

俺たちは阿部の家から少し遠い位置でタクシーを降りた。



🩷よかった…誰もいないみたい



佐久間が阿部の部屋を見上げて明らかにほっとしている。

切なそうに阿部を見つめる姿に俺はムラっときた。

阿部なんかより俺の方を向いてほしい。



❤️佐久間…


🩷えっ……



俺は衝動的に佐久間を無理やり振り向かせると、柔らかい唇を奪った。

驚いて抵抗すら忘れている佐久間の口に、舌を差し入れる。外だというのにもう止めることができなかった。



🩷んっ……んんっ!



どん、と軽く突き飛ばされて俺は後ろによろけた。



🩷何すんだよ!!


❤️ごめん、佐久間が可愛いからつい


🩷はぁっ!?



怒る佐久間が、耳まで真っ赤にしているのを見て俺は凹むどころかむしろ喜んでしまった。色白だから照れると一目瞭然なのだ。



🩷もうお前なんか絶交だ!!



佐久間はぎゃんぎゃんと色々喚いている。

俺の耳には何も聞こえない。抗議する佐久間がただただ可愛く見えるだけ。



🩷……って!お前聞いてんのかよ!


❤️聞いてない



俺は嫌がる佐久間を力ずくで抱きしめた。

腕の中で佐久間が暴れてジタバタしているが、俺の力には敵わない。やがて疲れたのか、おとなしくなったので、また軽くキスをした。



❤️もう俺にしとけよ


🩷だれが…っ!んっ!!



そんなこんなしている間に、俺の目の端で翔太が阿部の家に入っていくのを見た。

たぶんこの角度だと佐久間は気づいていない。

俺もわざわざ教えない。

俺は、小さな佐久間の顔を両手で包み、さらに深く唇を合わせた。




本編へ続く…

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コメント

18

ユーザー

ふむふむ、こんな経緯があったんですね! だてさま❤️

ユーザー

ぐふ…ぐふふふふふ笑

ユーザー
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