テラーノベル
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柳川は転びかけたことよりも、今まで従順に自分の後ろを付き従っていた私が、突然反抗的な態度を取ったことの方が解せないみたいで怪訝そうな視線を私に向けてくる。
私は震えているのを悟られたくなくて、壁にもたれ掛かるように身体を預けてから、
「行きたく……ないの」
声を震わせないよう気をつけて、極力抑揚のない声で立ち止まった理由をボソリとつぶやいた。
それに、「は? 何で?」と低く抑えた声で即座に柳川が応じてくる。
「私……。き、……そのさんに合わせる顔がない……から」
〝究さん〟と言いかけて、昔のように敢えて〝そのさん〟と言い直した私に、柳川が小さく息を呑んだのが分かった。
私は柳川の反応を見て、どんどんそのさんに対して後ろめたい気持ちが募って。
それは、そのさんと2人で計画した嘘をつき通せなかったことに対する罪悪感と。こんな状況になってしまってでさえ、柳川と2人きりで居られることを喜んでしまっている自分の浅ましさと――。
色んなものが混ぜこぜになった後ろめたさだ。
「なぁ、鳴宮。俺、お前が何考えてんのかサッパリ分かんねぇんだけど」
苛ついたようにガシガシと頭を掻いて、柳川がじっと私を見下ろしてくる。
「……余計なお世話かも知んねぇけど……もしかしてそのさんとうまくいってねぇのか?」
壁にもたれ掛かったまま。ギュッと唇を引き結んで柳川の視線を受けた私に、一瞬視線を彷徨わせてから、柳川が気遣わしげな声をかけてきた。
――私はそれに、何て応えたらいいんだろう?
先輩と私は最初から偽装の恋人ごっこだったもの。
うまく行っているように見えたとしても、実際はそれそのものが虚構だ。
私が返答しあぐねていたら「あれ? ふたりともこんな所で何揉めよーるん?」と声を掛けられた。
見ると、飲み物のペットボトルを手にそのさんが階段を上がってきたところだった。
***
「そのさん」
私がそう呼んだら、そのさんが一瞬眉間に皺を寄せて悲しそうな顔をしてから、次の瞬間にはへらりと笑った。
「なんじゃあ、言凛ちゃん。もうバレてしもうたん?」
そのさんの言葉に、柳川ががピクリと眉尻を上げる。
「そのさん、今のってどういう……」
私は2人を交互に見比べて、どうしたらいいのか分からずにオロオロしてしまう。
そのさんはそんな柳川をまぁまぁと制すると、「言凛ちゃん、柳川に何処まで話したん?」って聞いてきて。
私はハッキリとは話していません、という意味を込めてふるふると首を振る。
「そっか。けど、まぁそろそろ潮時じゃろうね。すぐに話そうって言いたい所じゃけど、ごめん。ちょっと俺、今からどうしても一個だけ出んといけん講義があるけぇ、そうだなぁ。夜に集まり直さん? 場所は――」
そのさんの指定したお店は、個室に仕切られている居酒屋だった。
「ちょっと前まで俺がバイトしよったトコじゃけ、割引もしてもらえるし、結構融通もきくけぇ。――俺の名前で19時に予約入れとくんでええ?」
聞かれて、私はそっと柳川を窺い見る。
柳川が「分かりました」というのを聞いて、私も小さくうなずいた。
***
そのさんと約束を交わしたことで、ふと時刻が気になってスマホを見ると16時50分だった。
画面にはメッセージアプリに楓からの新着メッセが届いていて、開いてみると『言凛の代返、私がしといたからね。安心して柳川としっかり話し合っておいで』と書かれていた。
一緒についてきていた、サムズアップをしたニヤリ顔の犬の絵柄が可愛くて、ふっと心が和む。
それを読んで、確かに星野くんじゃ私の代返はキツかったよねと思って、裏声で返事する星野くんを思い浮かべてクスッと笑ったら、柳川に怪訝な顔をされる。
「私の代返、楓がしてくれたみたい」
スマホから顔を上げてそう言ったら、「あぁ、確かに星野じゃオカマになるか」って柳川も笑ってくれて。
「すまん。俺もちょっとテンパってたみたいだ」
そう付け加えた柳川に、私は少しだけ驚いた。
それは私のアレコレに、柳川が取り乱してくれたってこと?なんて自惚れたら、バチが当たるかな。
楓に『ありがとう。今日はこのまま戻らないね。あったこと、また明日ちゃんと話します』って返信しながら、そんなことを考えてしまう私は、そのさんと一緒にいた間に、ちょっぴり彼のポジティブ思考の影響を受けているみたいです。
***
最後の講義をサボった形になっている私たちは、今更教室に戻るのも変だし、時間までどうしよう?となって。
最後の講義が終わるのは18時15分だから、そこまででもまだ1時間以上あるし、そもそもそのさんとの待ち合わせまでで考えると2時間近く時間を持て余すことになってしまう。
「コインランドリー行くか?」
柳川がポツン……とそう問いかけてきて、私は思わず柳川を仰ぎ見て。
「……いいの?」
って聞いたら「今日はちょうど車だしな。行きたかったんだろ?」ってぶっきら棒に言うの。
「有難う、助かる」
お礼を言いながら、私、そういえば乾燥する前に洗濯しないといけないんだったって思い出して。
「あ、あのっ、先に洗わないといけないから30分ぐらい掛かっちゃうんだけど」
言ったら、「そのぐらい待てるから気にすんな」って……柳川、どこで待つつもりかな。
車の中?
大学のどこか?
それとも近くの喫茶店……?
コメント
2件
そのさん、どうするのかな? とりあえず柳川くんとコインランドリー、わくわく!
ああ〜第15話読んだよ!言凛ちゃんの心情がぐちゃぐちゃになってるのが切ない…。柳川くんに「行きたくない」って拒否ったとこ、声震えそうになりながら必死に抑えてるのが伝わってきてグッときた。そのさんが「もうバレてしもうたん?」ってあっさり認めたシーンはちょっと予想外で、夜の居酒屋でどうなるのかすごく気になる!最後にコインランドリーに誘う柳川くんのぶっきらぼうな優しさもいいな…続き楽しみにしてるよ!
月詠 涼
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