テラーノベル
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そこまで考えたらふと、「飲み物とちょっとしたお茶請けくらいなら私でも出せるのにな」とか思ってしまって。
うちのアパートの近くには車が5台ぐらい停められる空き地があって、1時間ぐらいなら駐車していても誰にも咎められない。
そこに停めて貰えばうちでくつろいでもらえるかなって思って。
「柳川はコーヒーと紅茶とお茶とジュースだったら、どれがいい?」
半ば無意識にそう問いかけたら、瞳を見開かれた。
「鳴宮、お前……」
さっき楓に、そのさんを家に入れたことがないって言われたばかりだったのを思い出して、「あっ、あのっ、今のはっ」って慌てて口をつぐんだら、柳川が小さく吐息を落としてから「熱いブラックコーヒー」って答えてくれて。
今度は私が息をつめる番だった。
「いい、の?」
聞いたら「いや、それ、俺のセリフだろ」って言われて、それもそうかって思ったら可笑しくなった。
「……柳川だから、いい」
淡く微笑んでそう言ったら「何だよ、それ」ってムスッとされる。
けれど、本当にそうなんだよ?って真顔で言えたなら……貴方はどういう反応をするのかな?
「お前さぁ、前にも言ったけど……俺も男だってこと忘れてね?」
柳川が溜め息まじりにそう言ってきたけれど、ごめん。私、誰よりも貴方のこと、異性として意識してる。
失恋後1ヶ月ちょっとの柳川に、それを言うのはまだ早いよね。
キスされたのだって、柳川は忘れて欲しいって言ったけど、私、忘れられないでいるのよ?
「ね、柳川。洗濯とか乾燥とかしなきゃいけないって考えたら……2時間くらい結構あっという間かもしんない! 急ごう?」
柳川の質問には答えないで、私はそう言って階段を駆け降りた。
***
私の家に柳川が来るのはこれで2回目。
彼を招き入れる前に、ちょっとだけ部屋の外で待っていてもらって、部屋干ししてあった下着類を目につかない洗面所に干し直して。
「――ごめん、雨続きで洗濯物、部屋干ししててちょっと景観悪いんだけど」
とか何とか言い訳しながら、影響のないものだけが隅っこに干されたリビングへ柳川を招き入れた。
お湯を沸かして、柳川のためにドリップコーヒーを用意する。
それをリビングの真ん中に置かれた小さなテーブルに置きながら、「ついでにどうぞ」って先日暇に任せて焼いたクッキーを出した。
「――あぁ、そっか。普通は……こういうのって男がもらえる方が多いんだよな」
ありがとな、という言葉とともにしみじみとそうつぶやかれて、私はキョトンとしてしまう。
「あ……、いや、すまん。花々里――、あ、俺をフッた幼馴染みな? そいつ、めちゃくちゃ食い意地の張ったヤツでさ、俺、あいつに何か食わしてやったことはあっても……貰ったことはなかったなって思って……」
そこで柳川は少しだけ辛そうな顔をして、
「けど、あいつ、自分が選んだ男にはちゃんとお裾分けしてるってのが分かってさ。――俺、それ知ったとき結構ショックだったんだよ」
まだ幼なじみちゃんのことを完全には吹っ切れていないんだなって思って、ちょっぴり胸の奥がキュッと疼いて切なくなった。
「柳川は……まだ、その子のこと……諦めてないの、かな?」
楓から、前に柳川が派手にフラれた話を聞かされた際、柳川がその子のことを「諦めない」ってライバル男性に宣言していたのを見たって聞いた。
それを思い出して、自分の前に置いたコーヒーに粉タイプのミルクをティースプーン2杯分ほど落として、溶かすのに集中しているふりをして顔を上げずに尋ねた。
きっと今、前を向いたら「辛い」って顔に書いてあるのバレバレだもの。見せらんないよ。
「あー、まぁ……俺、片想い期間かなり長かったからさ……。フラれちまっても何か意地になってたトコあって……絶対諦めないとか意気込んでたんだけど」
そこまで言って、柳川がカップを口元に運んだのが視界の端に見えた。
柳川、どんな表情をしてるのかな。
自分の顔は見せたくないくせに、柳川のは見たいって思うとか、私も大概いやらしいよね。
ギュッと唇を噛んでうつむいたまま、柳川の言葉を泣きそうになるのを必死に堪えながら聞いていたら、
「実はフラれて割とすぐにさ。花々里から好きな男と入籍済ませたって言われたんだわ、俺」
柳川がどこか呆気らかんとした声で言って、ククッと笑った。
「何かさ、それ聞いた瞬間吹っ切れたっちゅーか、もう諦めてもいいかなって思えたんだよな」
え?
柳川、今、何て……?
柳川の言葉に私、思わずコーヒーをかき回すスプーンが止まって。
「あの……柳川、その……えっと、か、花々里さんのこと……」
「人妻じゃどうにもなんねぇだろ。キッパリスッパリ諦めたよ。――ま、そうは言っても誰かに話せたの、実はお前が初めてなんだけどな」
ってコーヒーカップ越しに瞳を細めるの。
私が初めて?
何で私?
深い意味はないって分かっていても、そこに意味を求めたくなってしまう。
「……そ、そう、なんだ」
思わず声が上擦って、喉が小さく鳴った。
ってことは……えっと……私……柳川に気持ちを伝えても問題ないってこと?
ぐるぐるぐるぐるティースプーンでコーヒーをかき混ぜながら、私の頭の中はフル回転。
水羽凛
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コメント
2件
吹っ切れたと言われたら気持ちが加速しちゃうね。
ああ、すごく良かったです……! 主人公がコーヒーにミルクを溶かすふりして顔を上げられないシーン、もう切なくて切なくて。柳川が「実はお前が初めてなんだけどな」って言った瞬間、私も心臓止まるかと思いましたよ。あの「深い意味はないって分かっていても意味を求めたくなる」感覚、すごく共感します。もう次の話が待ち遠しいです!