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『そういうのもよくない?だんだんと歳を取るからさ、一人きりっていうのも寂しい気がするし』
昔、バイク仲間だった友達から、シェアハウスに入らないか?とお誘いのLINEが届いた。
シェアハウス、経済的には絶対助かるし、それに何かあった時も孤独死は避けられそうだ。
「うん、考えてみる」
いい話だけど。
そうだ、まだ娘には離婚の話をしてなかったと思い出した。
電話してみようか。
『もしもし?お母さん?』
「うん、そう、今話してもいい?」
『あ、翔太を寝かそうとしてるとこだから、明日の夜でも行こうか?』
「そう?じゃあ翔太の好きなもの作るから晩御飯食べてって」
『助かります!』
旦那のご飯はいやいや作ってるのに、孫のご飯になるととてもやる気がおきるのはなんでだろ?
豆腐ハンバーグでもしようかな?
そぼろご飯がいいかな?
デザートも作ろう、小さなプリン。
「これ、どうやって捨てるの?」
束ねた雑誌と段ボールを廊下に積み上げた旦那。
思い立って部屋の掃除をしたらしい。
「それね、資源ごみの日に出すかゴミステーションに持って行かないといけないやつ。あ、そうだ、私もまとめるから一緒に捨てに行こうよ」
「うん、わかった。じゃ次の日曜日にでも」
「了解」
あれから、洗濯は少しまともになった。
掃除はできるようになったけど、炊事はまだなにもできない。
これでご飯もできるようになったら、ストレスも減るかな。
その前にお金を貯めて、早く引っ越したいけど。
次の日。
旦那は仕事は出かけ、入れ替わりに綾菜と翔太がやってきた。
旦那さんの健二は、残業で遅くなるとか。
一瞬、また女がいるのか?と思って綾菜に聞いてみた。
「健二君、本当に残業?まさかまた…」
「微妙なところ。もしかして?なんて思うときもある。でもね…」
「でも?」
「この前、お隣の仲良し夫婦の奥さんに聞いたの、夫婦仲良く長続きの秘訣!そしたらね、お互いに隠そうとしていることがありそうだと思っても、決して追及しないことが夫婦仲良しの秘訣なんだって」
「ふーん」
隠し事が大きくならないという保証があれば、その方がいいかもと思う。
「夫婦だからって、お互いに全部知ってなきゃいけないなんて、無理!それよりもちょっとだけの秘密を持ってたほうがいいわよって言われた。だから、旦那が怪しいと思っても無視することにしたよ。で、そのうち私も何か楽しい隠し事を見つける♪」
「まぁ、そんな考え方もありかもね。でもお金のことだけは、きちんとしときなさいね、浮気って別に大したことじゃないけど」
「ばぁば、ごはんたべる」
翔太が椅子に座って待っている。
「はいはい、今日は豆腐ハンバーグですよ」
「わーい、クマさんのかおになってる」
「さあ、食べようね」
「お金の方が大事って、お母さんが言うのもわかるよ、子どもを育ててると本当、旦那はいなくてもいいからお金だけちょうだいって思う時ある」
「それをね、昔、亭主元気で留守がいいってCMでやってたよ、本音だね、奥さんの」
「それより、何か話があったんじゃないの?お母さん」
ご飯を食べながら話すことにする。
旦那はまだ帰ってこない。
「あのね、お母さんね、離婚することにした」
「え?バツ2になるの?なんで?」
「お父さんが借金を作っててね、それを私に隠してたの。わりと大金だよ」
「あの人が?お金はありそうだったのに」
「少し前まではよかったんだけど55才になってから仕事の内容が変わって、経費削減にもうるさくなったみたい。で、給料が下がったのにその話をしてくれないし、税金は滞納してるし、それに…」
「それに?まだあるの?浮気とか?」
「浮気してくれてる方がまだいいかも?お母さんに外でして来いって言うの」
「えっ、外で?マジかよ」
お金も愛情も破綻してるから、夫婦の意味がないと思うと話す。
「夫婦の意味がないか、そうだよね子どももいないし」
「それでね、シェアハウスも誘われてて…」
「それはダメだよ、お母さん、シェアハウスだと好きな男ができても連れ込めないよ」
「あ、そっか!」
経済的にらくでも、プライバシーの問題がある。
やっぱり一人暮らししかダメだな。
もう一つ、アルバイトでもしよう。
貯金を増やさないと、いつまでも前に進めない。
「ね、お母さん、なんならうちに同居する?」
「それも考えたけどね、やめとく」
「なんで?翔太もいるのに」
「娘と同居したら、家政婦代わりにこき使われるって人の話、聞いたことあるから。身体が動かなくなるまでは、自分でなんとかするよ」
「家政婦、バレてたか」
あははと笑う綾菜。
私は一人になっても一人じゃない、娘と孫がいる。
よし、頑張れそうな気がしてきた。
「ただいま!」
旦那が帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おかえり、じぃじ」
翔太はうれしそうに、旦那にしがみつく。
「来てたのか…」
綾菜をチラッとだけ見た。
いつまでたっても親子にはなれないようで、多分このまま親子にはなれずに終わる。
父親のいない子だった綾菜に父親を、そう思っていたのに、ダメだった。
「あのさ…話があるんだけど」
翔太を座らせた旦那に綾菜が話しかける。
珍しい光景。
「なんだ?」
「お母さんと離婚するの?」
「…」
「え?しないの?まだ決まったことじゃないの?お母さんの暴走?」
綾菜は私と旦那の顔を交互に見る。
「するよ、離婚。だって、それでいいって言ったよ」
私も確認したくなった。
離婚しよって話してから半年近く、あれ以来きちんと話したことはないけど、私は日々離婚準備を進めてるわけだし。
「まぁ、仕方ないと思ってる」
「お金のことが原因らしいけど、それだけじゃないよね?」
「…」
「…」
それに関しては、私も旦那も何も言えない。
まさか娘にセックスできないからとか、言えない。
旦那のプライドも考えるとそこだけは。
「ま、夫婦のことは夫婦にしかわからないけどさ。私、お母さんが再婚するって聞いた時、お母さんを好きな人なら誰でもいいと思ったんだ。私のお父さんとしてじゃなくて、お母さんを好きな旦那さんとして迎えようって決めたの。昔はあんなにラブラブだったのに…」
深いため息とともに一気に喋った綾菜の気持ち。
自分のお父さんとしてじゃなく、母親を大好きな人として…そんなふうに思ってたんだ、知らなかった。
「…なこともある」
またボソリと呟く旦那。
「え?」
「好きなだけじゃダメなこともある、どうにもできないこともあるんだ」
意外な旦那のセリフに、言葉をなくしたのは私だった。
「それが、お金のこと?っていうかさ、そのボソボソした話し方とか、ちゃんと向かい合わないとことか、それが夫婦としての意味がないってことになると思うんだけど」
私が言いたかったことを娘が言ってくれた気がした。
給料のことも税金のことも、すぐに話してくれたらもっとなんとか解決できたかもしれない。
あ、でも外でして来いは、どうにもならないか。
「はぁーっ!」
結局どうにもならないと意味を込めて、深いため息を吐いたのは私だった。