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ブシャアッ!
兵士の傷口から噴き出した血がすまないを赤く染めてゆく。既に負っていた切り傷や胸を貫かれた傷から溢れた血もすまないを赤く染めていて、まるで遥か昔に存在した戦争の神様のようだった。
「……す……すまない君……?」
「ほう……?なるほど……」
エウリは首を傾げて震える声を漏らし、ヨルムンガンドはどこか理解したように呟き、微かに微笑んだ。
「ヨルムンガンド様……これは……?」
エウリの問いにヨルムンガンドは答えず静かに前を指す。『今は黙って見ていろ』と言うことだろう。エウリは不満を感じながらも視線を前に戻す。
「……あ……」
(……“綺麗”……)
もう単独で攻めるのを辞めた数人の兵士を相手に、舞うように剣を振るう。鋭い斬撃が、刺突が、正確に相手の攻撃を防ぎ、防御の隙を突いて相手の体勢を崩す。
「綺麗だと思わないか?」
「……とても……綺麗だと思います……」
ほぼ無意識に茫然とそう呟いてしまってから慌てて口を塞ぐ。しかしヨルムンガンドはエウリを見て小さく笑った。
「たかが元・英雄の子供だと思っていたが、とんだ思い違いだったようだな」
(やっぱり勝たせる気無かったじゃない……!)
エウリは心の中で思いっ切り突っ込みを入れた。ヨルムンガンドは不気味な薄笑いを浮かべたまますまないと兵士達の激しい攻防を眺めている。
数十分後。
「なんだこのガキ……!ハァ……ハァ……」
「全く剣のスピードが落ちねぇ……」
兵士達は息も絶え絶えといった様子にも関わらず、すまないは汗一つ掻かずに涼しい顔で佇んでいた。
「ヨルムンガンド様……」
エウリはそっと声を掛ける。
パチ、パチ、パチ……
ヨルムンガンドがゆっくりと拍手をしながら立ち上がり、下の修練場に降りる。
「素晴らしい。たかが元・英雄の子供と侮った私が間違っていたようだ。お前の実力は十二分に分かったぞ」
「よ、ヨルムンガンド様……!」
兵士の一人がそろそろと後ろに下がる。このままこの場に居ては殺されてしまいかねない空気が漂っていた。まだろくに訓練も受けていない子供に良いようにしてやられたのだ。
「《命令だ、Mr.すまない。お前をエウリの護衛に任命する》」
すまないは静かにこくりと頷いた。
「すまない君。良かった……」
エウリは近づこうとするがすまないは少し下がった。
「どうしたの?」
すまないは何も答えないが視線が自分の服とエウリの間を行き来している。すまないの服は血塗れだ。エウリの服に血がつくことを心配しているのだろう。
「すまない君、別に良いのよ。服なんか洗えば良いし」
そう言って近付く。すまないの目が少し虚ろになっている。流石に疲れたのだろうか。
ふらっ……
「すまない君!?」
慌てて手を伸ばし、倒れ込みそうになったすまないの体を受け止める。
(とても軽い……)
「すまない君!すまない君っ!」
____すまないの胸からは
大量の血が流れていた____
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