テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「すまない君!」
すまないはピクリとも動かない。完全に意識を失っているようだ。そう、そもそも胸を貫かれた後もごく普通に戦っていたことがおかしいのだ。普通なら激痛で動くことすら出来ないはずなのに、だ。今、気絶したのは終わって気が抜けたからなのか……それとも
(顔が真っ青だわ……)
血が足りなくなったからなのか。胸から溢れる血は止まる事を知らない。
「……は、早くしないと……すまない君が……」
「ついて来い」
ヨルムンガンドが背を向けて歩き出す。
「っ……」
「助けたいんだろう?最近良い回復魔法の術師が見つかったんだ。そいつなら治せるだろう」
エウリは
(そんな人が蛇一族に居たなんて……そんな情報全く無かったのに……)
と思いながら、藁にもすがる思いで意識を失ったすまないを支えながらヨルムンガンドの後を追いかけた。
少し村から離れたところにある小さな【診療所】と書かれた所に着いた。
「アスクレピオス、居るか?」
扉をドンドンと叩きながらヨルムンガンドが中に呼びかける。
(“アスクレピオス”?そんな人いたかしら?)
エウリは分からず首を傾げるばかり。数秒後
「はーい」
と言う言葉と共に扉が開く。
「どうしました?」
中から現れたのはエウリ達より少し歳上に見える少年だった。そして
(……この人“蛇一族じゃない”……)
そう、一族の人間では無かった。
(だから知らなかったのね……)
エウリが持っている情報はあくまでもヘビの国の中の一族についてだけ。国を出ている一族や国内に居ても一族でない人についての情報は持っていないのだ。
「怪我人ですか?」
そう問うてくるのでエウリは支えていたすまないを診せる。
「あ……あの……け、怪我です……」
そう言うとアスクレピオス____もといアスクは真剣な顔になりすまないの傷を手早く診ていった。
「……うん、なるほどね。これくらいなら魔法で治せると思うよ」
そう言って奥の部屋に連れていく。手前の部屋は色々と書類などが散乱していて散らかっていたが、奥は処置室であるからか流石に綺麗にしていたらしい。
「じゃあ……」
部屋の真ん中の魔法陣の中にすまないの体を横たえ、どこからか取り出した杖でコンッと魔法陣を叩く。すると魔法陣から浮かび上がった微小な水色に光る粒子が傷口に集まって仄かな光を発して溶けていく。
「……わぁ……」
「……」
数分後。
「傷は全部塞いだよ。でもまだ血は足りてないから無理は厳禁だよ。あと運んだ時思ったけど、見た目に対して軽いから無理の無い範囲でちゃんとご飯も食べさせること。いいね」
まるで母親のような忠告を受けてエウリはすまないを受け取った。服は破けているがその下の肌には傷跡のかけらもない。
(……本当に腕がいいのね……)
「じゃ、また何かあったらいつでも来てねー」
手を振るアスクに軽くてを振り返して診療所を出た。
「あの人……蛇一族じゃないですよね……どうしてここに?」
「あやつは、僅かだが“ヤマタノオロチの血を引いているらしい”それで近所から蔑まれていたから連れて来たんだ」
「そうだったんですね……」
エウリは貰った紙袋の中身をそっと見る。鎮痛作用のある薬草などが入っていた。
(これもくれたし……多分悪い人では、無いのよね)
そう考えて帰路に着いたのだった。