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◆
オクタスは苛立ちに満ちた表情で、セレーネのいる最上階に向かっていた。
「くそ、一体誰があの面倒な男を呼んだのだ!」
この局面を乗り越えたら、一人残らず王族派の人間を排除してくれると固く心に決める。
「この国を手に入れるために、毒蜘蛛にも魂を売ったというのに」
きっかけは些細な事。オクタスには、事あるごとに邪魔をしてくる宰相の女がいた。名前はフラウ。
なにかある度にクドクドと、議会で口を開けば自分の反対意見ばかり。この女のせいで、何度立案した法案が否決されたか。正直目障りだった。恐らく向こうも同じことを感じていただろう。お前さえいなければ、この国はもっと良くなると――。
貴様なぞ、消えてしまえばいい――
ドス黒い感情に気づいた時、不意に悪魔が囁いてきた。
「金をくれれば、かわりに殺してやるが?」と。
オクタスは素直に頷き、僅かな報酬を払った。
その翌日、フラウは路地裏で暴漢に襲われ死んだ。
あまりにもあっけない。あれほど邪魔で邪魔で仕方なかったフラウが消え、議会は驚くほど簡単に掌握できるようになった。
それからも悪魔は定期的に訪れると「誰か邪魔な奴はいないか?」と聞いてくる。
オクタスはその度に指定した。死亡するのが、オクタスの政敵ばかりなので嫌疑をかけられたこともある。その嫌疑を晴らすために、全く恨みもない仲間を殺してくれと頼んだこともある。
気づけば、自分はセレーネの側近となり彼女を裏でコントロールできる存在になっていた。
悪魔は言った「もうじきオレたちの理想の国ができるな」と。
オクタスは「ふざけるな、ここは私の国だ。この国を手に入れたら、お前たちとの関係は終わりだ」と言いはねた。
しかし悪魔は、彼を逃がしはしなかった「何を今更なことを言っている。オレとお前は、もうとっくに仲間だ。今更オレ達を切り離すことは出来ない。なに悪いようにはしない、光と影として共存していこう」と笑った。
そして、オクタスの腕には悪魔の仲間の証である、毒蜘蛛のイレズミが刻まれた。
「ここまできて、後に引き下がれるか」
階段を登り終え最上階に到着。その時だった、不意に人の気配がして後ろを振り返る。
そこには全身を隠すマントを着た、細身の男が立っていた。
男の手の甲には、毒蜘蛛の入れ墨があり、ヴェノムタランチュラの団員であることがわかる。
彼はいつも邪魔な相手を消してくれる、オクタスの相棒である。
「なんだ、こんな時に」
「アクアレムの秘宝を預かりに来た。邪竜戦争に使われたと言われる神器、組織で回収を行う」
「それならまだだ。王がどこかに隠しているが、場所がわからない」
「バカが、安直にマンタイン王を殺すからそうなる。王女は?」
「場所を知らされていない」
「締め上げたのか?」
「今、お前の相手をしている暇はないのだ! 王女がリガルドの王子を呼び寄せて面倒なことになっている! おまけにギデオンとトリスタンの王女までくっついてきて、対応におわれているのだ!」
「やはりその3国が手を組んだというのは本当だったようだな」
「もし奴らに計画を台無しにされたら、この数年が無駄になる」
邪魔なものを殺し続け、ようやく自分が王になるチャンスがきたのだ。
こんなくだらないところでつまずいてられるか。
「王族派を賄賂で徐々に切り崩し、従わないものは暗殺、海竜族の女王を氷中に封印し海に沈め、マンタイン王は毒で徐々に弱らせていった。あの幸せそうで忌々しい王族を破滅に追いやるまで後もう少しなのだ! 私はマンタイン王の墓前で、セレーネを犯すと決めている」
王族が作ったものを徹底的に破壊して、国を手に入れる。
一度殺しに手を染めたオクタスの瞳には、狂気の色が浮かんでいる。
「安心しろ相棒。いざとなれば、ここにいる王子達全員殺してやる」
「そんなことをしたら、リガルドが攻め込んでくるだろうが!」
「問題ない。王子たちは海賊船に襲われて、船が沈没したことにすればいい。この辺りの海流は激しいからな。死体は出てこないだろう」
さすがのオクタスも、他国の王子を殺すことに躊躇はする。だが、もう後には引けないところまで来ている。
「…………動かせる組織の人間は、どれくらいいる?」
「そうだな、120はいけるだろう」
「……アクアレムの軍船を数隻貸してやる。それを夜までに海賊船に偽装しろ。リガルドに恨みをもった海賊が攻撃し、船を沈めるというストーリーにする。我々は被害者を装う。オーベルの街に発砲しても構わん」
「了解、いつでも呼んでくれよ。オレたち仲間だろ」
「…………」
毒蜘蛛は静かに姿を消した。
◇
俺達が待たされること30分。ようやくセレーネとの面会許可が降りて、彼女が謁見の間に顔を出した。
いつもの白いドレスに、紫のミディアムヘア。普段柔和な少女の表情は暗く、どこか影が見える。
彼女は俺を見た瞬間、酷く狼狽える。
「ラウル……王子?」
「何を驚いている、釣書を送りつけて余を呼んだのはそなたであろう」
「その、まさか来ていただけるとは思わなくて」
「余も、最初送られてきた時は驚いた。ただ一つアドバイスをするなら、写真写りが悪いな。そなただから会いにきたが、こんな暗い顔の女とは見合いなどせん」
「すみません」
「他の見合い相手と同じようにドレスで撮影するのも良くない。水着で撮影するくらいの奇抜さがあれば良かったと思う。さすればおもしれぇ女と思って、見合いが捗――痛ぁい!!」
ソニアが俺の足をヒールで踏みつけ、つい悲鳴を上げてしまった。
「全くなんの話をしているのだ。ん゛ん~」
ソニアが咳払いをすると、彼女たちの存在にも気づく。
「ソニア王女、ジャガー王子」
「ちょっとラウルの領地で遊んでたら、不穏な話が聞こえてきてな」
「このエロ豚王子は、我々が見張るから安心しろ」
「皆様の配慮、感謝致します」
セレーネは、ペコリと頭を下げる。
そのどこか虚ろな表情に、皆が心配になる。クーデターがあった後の王女だ。城や国を盗られたのと同じで、ふさぎ込む気持ちはわかる。
「よし、では見合いの始まりだ。さぁ外に行くぞ」
俺はセレーネの手をとって外に出ようとすると、オクタスと騎士が立ちふさがる。
「それはできません。お見合いは城内で願います」
「こんな狭苦しいところでデートなどできるか馬鹿者!! デートと言えば外デート! こんな美しい海が眼の前にあるのに海水浴デートをさせぬつもりか!? 余はセレーネの水着を見るつもりでここまで来たのだぞ!」
下心を熱く語りながらブチ切れると、騎士たちは面食らっている。
こういうお硬そうな連中に大しては、とにかくパッションで乗り切る。
「早く王女の水着セットを用意するのだ!」
「お、王子……」
これには落ち込んでいるセレーネも赤面する。
全く引く気がない俺に、オクタスは舌打ちを入れて首をふる。
「わかりました。それでは監視……護衛をつけて、お外にどうぞ。夜までには必ず城へとお戻り下さい」
「注意事項は良いから、はよう乗り物を用意せんか! 余は一日2000歩以上歩くと痛風が再発するのだ!」
「は、はい! ただいま!」
騎士たちは慌てて外に出ていく。
よし、これでいい。どこに地雷が埋まってるかわからない、わがまま傲慢スケベ王子キャラで行く。
「お、王子? 少し見ないうちにキャラが」
「余は何もかわっておらん。こんなところに籠もってるから暗くなるのだ。さぁゆくぞ」
俺が手を差し出すと、セレーネはおずおずと握り返す。
「は、はい。よろしくお願い致します……」
コメント
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わあ、第44話、読み終わりました…! オクタスの内面があそこまで深く描かれるとは思ってなくて、ちょっと息を呑みました。彼の「邪魔な者を消す」という選択が少しずつ取り返しのつかない流れになってしまった過程が、ぞっとするほど生々しかったです。そしてラウル王子のわがまますぎるキャラで空気をガラッと変える手腕、めちゃくちゃ好きです。彼の「水着見たい」発言でセレーネが赤面するところ、思わず笑ってしまいました。44話もありがとうございます!