テラーノベル
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‥あれは夢だったんやろか‥
心地よく揺れる世界‥
時折‥祐希さんの声が聞こえた気がした。
優しい声が‥
優しい瞳が‥
全身が包まれているような幸福感を‥
確かに感じた気がした‥。
“愛してるよ“
ああ‥
そう言ってくれたのは‥
祐希さんだろうか‥
それとも‥
俺の願望なのだろうか‥‥。
落ちていく意識が
記憶を曖昧なものにしていく‥
‥‥微かに頬に何かが当たる感覚‥
うーん‥何やろ‥
煩わしくその何かを振り払うと‥
「まぁ!呆れた!貴方、いつまで寝てるつもり?」
急な金切り声に驚き‥思わず飛び起きる!
「えっ?‥‥イタタ‥」
飛び起きたからなのか‥激しい激痛にこめかみを押さえる。
これ‥なんだっけ?
ふわふわとした気持ち悪さも感じながら‥記憶を辿る。
‥確か、智さんと一緒にワインを呑んでて‥急に眠気が来て‥
そこからの記憶が曖昧だ。薄っすらと祐希さんがいたような気がしたのに‥
夢だったのかな‥
そんな事を考えていたら‥
「ちょっと!私のことは無視なの?」
「えっ‥」
急な大声に‥正面を見ると‥
祐希さんのパートナー‥
彼女がそこにいた。
「うわっ!!!!」
まさかの人物に思わずベッドから転がり落ちてしまう。
そんな俺を見て‥
「くすくす‥私が起こしても起きないから天罰ね♡」
鈴を転がしたような声で彼女が笑っていた‥。
「えっ‥な‥なんで‥あなたが‥えっ、俺‥えっ、智さんは‥?」
「何を言いたいのか支離滅裂だわ‥悪いけどわたし、暇じゃないのよ。状況説明してくれる?」
きっぱりとした物言い‥。しかし、状況が把握出来ないのはこちらも同じなのだ‥
「いや‥ここで先輩とお酒飲んでて‥途中で寝てしまったのかな‥急に眠気がきて‥いや‥どうだったかな‥」
おかげで全く説明出来ない‥。
「‥あなたワイン呑んでたんでしょ?お酒は弱いの?」
「どうだろ‥弱くはないと‥思うけど‥」
「ふーん‥」
そう言いながら彼女が近寄る‥
「ふふっ、案外薬でも盛られたんじゃない?睡眠薬とか‥」
「はっ?まさか‥智さんがそんな事‥」
「そう?その人を知らないから分からないけど‥貴方騙されやすそうな顔してるから‥そうなのかと思ったわ!笑」
‥案外ズケズケとした物言いなんやな‥と思ったのが顔に出ていたのか‥
「貴方、本当に顔に出てるわ‥気をつけた方がいいわよ‥それから‥いつまでそんなの見せるつもりなの?」
「えっ?」
‥見せている?
何のことやろと頭を捻る俺を見て‥
「鈍いお姫様なのね‥自分の姿見てみたら?」
‥彼女に眼で促され‥はじめて自分の姿を確認すると‥
いつの間にか着ている服が様変わりしていて‥自分のではないTシャツを1枚羽織っているだけだった‥。
「えっ?‥なんで‥この服って」
「私の夫のじゃないかしら?‥」
そんな事も覚えてないの‥?とややめんどくさそうに彼女が呟く。
「ゆう‥きさんの?」
「そうよ‥貴方の服は彼が持っていたし‥というか、よほど昨日はお盛んだったのね‥貴方達‥」
彼女の目がある部分を見つめ、指で指された所に目線を向けると‥
Tシャツから見える自分の太ももの際どい部分に、赤い跡が数カ所散らばっている。
「えっ‥‥!?」
「‥ちなみに首にもくっきり付いてるから‥後から見たらいいわよ」
そんな彼女の言葉に思わず首を手で隠す‥
「‥悪いけどもう遅いわよ‥今更隠したって‥笑」
慌てる俺の姿を見ながら‥彼女が笑う。
「普通なら修羅場よね‥正妻の前での堂々とした不貞行為なんだもの‥まぁ、事後になるけれども‥ 」
「不貞行為‥?」
「ちょっと、貴方、そんな事も忘れてるの?‥呆れた‥私の夫がずっと貴方といたでしょ?‥やっぱり‥薬盛られたんじゃないの?そんなに記憶がないなんて‥」
半ばやや呆れたような彼女の言葉に‥必死になって記憶を辿る。
なんとなく‥
なんとなく‥祐希さんを感じたような気はした‥
ふわふわとした世界で
祐希さんが髪を撫でてくれたような‥
愛を囁いてくれたような‥
抱きしめてくれたような‥
あれは夢じゃ‥‥ない‥‥‥?
まだ定まらない記憶だったが、断片的に思い出してきた‥
「その顔‥少しは思い出したんじゃない?フフフ‥」
「ゆう‥きさん‥」
「私の夫は本当に‥貴方が好きよね‥私‥今日は別の用事でここに来たのに‥急に頼まれて、何かと思ったら‥貴方が起きるまで見ててくれって‥心配だからとか‥普通、頼むかしら?正妻に‥でも、それだけ貴方が大切ってわけよね‥あーバカらしい‥」
「えっ、祐希さん‥が?」
「どうしても出なきゃいけない用事が出来たらしいの‥でも、また戻ってくるって言ってたわ‥貴方に会いにね、多分‥」
良かったわね‥と彼女がにこりと笑う。そして‥
「この前は悪かったわ‥子猫ちゃんなんて呼んでしまって‥彼にも言われたの‥呼ばないでくれって‥貴方が傷付くからって‥まぁ、そのお詫びと言ってはなんだけど‥ 」
そう言うと彼女は人差し指を口に当て‥悪戯っ子のようにフフフと笑い‥
「私と彼はね‥契約結婚なの‥まぁ、偽りみたいな‥
私たちの間に愛はないのよ‥
あるのは‥
籍を入れた‥その事実だけよ」
あっけらかんと話す彼女を‥
俺はただ見つめるしかなかった‥。
「えっと‥それって‥つまり‥」
「平たく言えば、愛はお互いにないけど、目的の為に結婚したってことよ‥私も彼もね‥」
「目的‥?」
‥俺にはさっぱり意味が分からなかった。
結婚するのに愛する以外の目的なんてあるんだろうか‥
「その目的って‥」
そう彼女に聞こうとしたが‥
「やだっ!いけない!貴方、起きたじゃない!ということは‥わたしお役目御免よね♡もう大丈夫でしょ?」
「えっ‥」
「私が頼まれたのは貴方が起きるまでだったから、もう行くわ!忙しいのよ私、こう見えて」
早口でそう喋ると‥もう椅子から立ち上がり駆け出そうとしている。
「いや‥目的ってまだ聞いてへんし‥」
「気になる?それならここに来て‥今度時間があったら話するわ‥って、彼には私が話したって事内緒にしててくれない?いい?今度話したら‥一生貴方の事、子猫ちゃんと呼ぶわよ!」
分かった!?と再度念を押され‥何やら名刺を渡される。
そして、慌ただしく扉に向かう彼女に‥
「あっ、あのう‥」
「んもう、何?」
「いや‥ここのホテル代‥俺、寝てたみたいやから‥時間過ぎてるやろうし」
「ホテル代?要らないわよ‥ここ、私の父が経営してるホテルだし‥その内私が受け継ぐから‥そうね‥それか夫に倍の金額を請求しようかしら♪」
まるで楽しむかのようにそう言うと‥バタンと豪快に扉を閉めて‥彼女は去っていった。
‥最初会った時の印象とだいぶ違う‥
台風みたいな人やな‥。
一人取り残された部屋で‥ベッドの上に寝転び‥
考え込む‥
愛はないけど籍を入れた‥
祐希さんにも目的がある‥なぜ?
考えを巡らせるが‥また不思議と眠気を感じ‥そのまま‥
眠りに落ちてしまった‥
‥‥ふわりと何かが頭を撫でる感触に‥
意識を呼び戻される‥
あれ‥‥?目を擦りながら、状況を確認しようとすると‥
「藍‥起きた?よく寝ていたね」
優しい声が頭上からする‥。ふっと見上げると‥そこには祐希さんがいた‥
そして‥自分が祐希さんの膝枕で寝ている事に気付く‥
「ゆう‥きさん?なんで?」
思わず声が上擦ってしまう‥
「まだ寝ぼけてるの?藍、笑」
祐希さんは‥
俺の髪を撫でながら‥
くすくすと笑った‥
それが‥あまりにも嬉しそうに笑うから‥
聞きたい事がたくさんあったのに‥
聞けない気がした‥。
今はまだ‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
コメント
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あああああ尊い… やっぱりこの二人は結ばれる運命…♡ 小川さん!ごめん!智くんところに戻ってーーー
ああー!!サイコーです✨️👍🏻続きまってます!!