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「バブバブバブ」
更に次の日。
僕は魔法の本に手を出した。赤ん坊の僕では魔物を倒すことは難しい。倒す力を得なくちゃね。
魔法ならば体格は関係ない。魔法でごり押しの赤子になってやる。
「ただいま~」
「おかえりなさいルード」
夕方になると父、ルードが帰ってくる。お帰りのキスを交わす二人。僕は思わずケッと怪訝な表情になる。
畑仕事と村の警備の仕事を受け持つルード。腰に剣を差してる。悔しいけど、カッコいいな。
「ん? アルス、また本を読んでるのか?」
ルードはそう言うと嬉しそうに抱き着いてくる。朝、髭を剃っているけど、夕方には生えているから髭が痛い。
「うちの子は天才だな! 俺なんて本を見たのなんか最近だぞ」
「ふふ、そうね。私が記憶してる限りだと19歳の時、去年のことね。赤ん坊についての本」
ルードが自慢げに話すとオリビアが肯定して情報を付け足す。
ルードは脳筋タイプかな。ってことはこの本はオリビアのものなのかな?
「魔法の本か~。よし、コツを教えてやろう。俺は雷の魔法を使えるんだが。雷っていうのは空からズドンって落ちてくるだろ? だから、ズドンって拳に力をこめてだな~」
「はぁ~、それはコツじゃないわよ。なんでルードって魔法が使えるのかしら……」
ルードが得意げに説明してくれるんだけど、全然わからない。天才特有の擬音が多い指導だ。
ルードが雷魔法が得意なのか。ってことは僕もそうかもな。いい情報だ。オリビアはどうなんだろう?
「魔法なんて気分でやれば出るだろ?」
「それはあなただけよルード。魔法っていうのは勉学でもあるのよ。私なんて風の魔法しか使えなくて苦労して別の魔法を覚えたんだから。今じゃ水と光の魔法も使えて【トリプル】の称号を手に入れたんだから」
オリビアは何か凄いことを成し遂げているみたいだ。称号って何のことだろう。色々と気になるな。
「バブバブバ~ブ」
それから次の日。僕は魔法を行使してみることにした。赤ん坊の僕でも出来る魔法。
ライターくらいの火を出す魔法だ。人差し指に力を込めて火をイメージする。そして、声を上げた。
するとイメージ通りの弱々しく風に揺れる火が生まれる。
『称号【生まれて一年以内に魔法】を手に入れました』
「バブ!?」
脳内に直接流れてくる声。まるで漫画みたいだ。そう思っていると火が消える。集中しないとダメだな。
しかし、称号って人からもらうものじゃなくて、神様からもらう者みたいだな。声からして女神様っぽいけど。
効果は教えてくれないのかな? 少し不便だ。
「バブバブ……」
生まれて一年以内か。これは積極的に赤ん坊の間に色々やらないとダメかもな。
一年以内に魔物を討伐とかはありそうだ。よ~し! まずは魔法を覚えよう。
「バブバブ」
火は出来た。次は水だ。魔法書には適した属性の魔法を鍛えようと書かれている。
火が出来たのは予想外だったけど、いい誤算だ。魔法の属性は親から受け継ぐことが多いらしい。なので水と風と光と雷が当たり前のように使えるはず。
「バブ!」
火から水とはじまって最後の雷までやってみた。見事に想像通りの静電気みたいな雷撃を再現できた。
これなら闇や氷といった属性も出来るかも。
「バブ~!」
思いつく属性をすべて試した。
土、闇、氷。氷は水と同じくらい簡単だった。闇の属性はかなり大変だった。僕は暗闇が嫌いだったから少し気持ち悪くなってしまった。
前世を思い出す暗闇、誰よりも知っている闇だからこそ苦手だ。
『称号【セブン】【エレメントマスター】を獲得しました』
「バブ!?」
オリビアの言っていた称号に似てる。トリプルって言っていたっけ。適正属性が七つってことだよな。これって凄いことじゃない?
って喜んでいる場合じゃない。次は攻撃魔法だ。出すだけなら誰でも適性があれば出来る。
「バブ」
僕は椅子とクッションをいくつか使って家の窓に登る。家の窓から外を見る。
剣の訓練用のかかしが見える。ルードは腕がなまらないように毎日剣を振ってる。
そのかかしに手をかざしてみる。なんだか緊張するな。これでできなかったらどうしよう。ってそんなこと考えなくていい。僕はまだ赤ん坊、できないのが当たり前なんだ。
「アルス? あら? あの子どこに? ……え!? 窓!? 危ない!」
「バブ!」
「え!?」
僕が本から離れていたから見失ったオリビアが声を上げてる。僕はかまわず魔法を放つ。
火は危ないから水の魔法だ。僕の親指程の水の球が飛んでいく。とても小さな球がかかしに小さな穴をあけた。成功だ!
「……アルス」
オリビアはそれを見て僕を抱きしめてくれる。嬉しそうに涙を流して抱きしめてくれる。
温かいな……前世で一度ももらえなかった温かさだ。
そうか……僕はこれが欲しかったんだ。欲しかったんだな~。
自然と涙が零れる。前世でも勉強を頑張って大学に進学した。それなのにあの人は褒めてもくれなかった。
僕は前世も合わせて初めて幸せだと思えた。