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「ルード凄いのよ! 私達のアルスったら!」
魔法を使ってみたその日、他の魔法を試すことはできなかった。
すごい剣幕でルードに詰め寄るオリビア。流石の状況におかえりのキスはお預けとなった。
「かかしに穴を。ここからか?」
「そうよ! 明日、日がのぼったら確認してみて。穴が開いてるから」
「そりゃ凄いな」
ルードの疑問に元気いっぱいに答えるオリビア。いつもおっとりしている彼女とは思えない表情で僕も嬉しくなってしまう。
「水の魔法か~。雷じゃなかったか~」
「ふふ、これだけは仕方ないことよ」
水の魔法と聞いて残念そうに天を仰ぐルード。勝ち誇るオリビアは僕を抱き上げた。
「風の魔法が先に来るかと思っていたけど、水なんてね。んふふ、天才だわ。我が子」
「水か~。そういや水不足になるかもしれないって話してたんだ。それでオリビアに出してもらおうって話しててな」
中世ヨーロッパ時代、日照りが続くと簡単に干ばつになる。ダムなんてないもんな。
でも、この世界は剣と魔法の世界だ。水魔法で出せばいいってわけだな。
「久しぶりね。でも、私の魔法力じゃ全部の畑は無理よ」
「ああ、それは分かってるよ。出来る限りでいい。国に納める分は作らないと村の存続にかかわるからな」
国か……年貢ってやつだね。ってことは国に納めて終わり、村には何も残らないって感じなのかな?
「まあ、とにかくっだ。凄いなアルス! お前は天才だ。愛してるぞ~!」
僕を抱き上げて頬にキスをしてくれるルード。オリビアもそうだけど、僕を愛してくれてる。
前世のお父さんは僕が出来ると逃げて行ったらしい。顔も知らないお父さんだった。
ルードはそんなお父さんとは違う。僕を心から愛してくれてる。僕は頑張らなくてもいいのかな。そんな怠けたことを思ってしまう。
「バブバブ!」
怠けていいわけがない。魔法のことを褒められて次の日。僕は家の中で魔法の訓練をする。
隠すことなく全ての属性の球を作り出す。コロンと球のまま床を転がる。
球を維持しているのは僕の意思。少しでも集中が途切れると球を維持できなくなる。
オリビアが言う様に僕には才能があるのかもしれない。称号の力もあるかもしれないけど、この作業が簡単に思える。
「アルス~……。凄いのは分かったわ。だから片付けて~」
オリビアが不満を口にする。床に色とりどりの球が転がってる。
触れるだけで割れてしまう強度でしかできないからオリビアが何度も割ってしまった。
人が乗っても大丈夫な強度を維持するには三つまでだな。
「バブバブバ~!」
増やし過ぎた球を窓の外に捨てる。火と水の球を押し当てて消して氷はそのまま維持せずに溶かす。他の球もそのまま捨てて大丈夫。綺麗に消えていく。
そして、僕が乗っても大丈夫な球を改めて作る。捨てるのが簡単な光と闇と風にしておこうかな。
「バブバブ」
三つの球を手に持つ。掲げて浮かせてみる。これが出来れば空を飛ぶことも簡単になる。
空を飛べれば魔物を狩りに行ける。それで経験値も称号もゲットだ。夢が膨らむ。
「アルス~。ご飯にしましょ」
「バブ!? ……ブ~」
球を掲げているとオリビアの母乳タイム。前世の記憶を持っているとどうしてもいやな時間だ。早く固形物とか食べたい。
もやしニンニク炒めを恋しく思う日が来るとは思わなかったな~。
「はいおしまい。ほんとアルスはいい子ね。これならもう一人くらい欲しくなるわ」
「ゲプ~……。バブ」
母乳を飲み終えて大きくゲップをする。家族計画は僕のいないところでどうぞ。
僕は食事中も三つの球を維持していた。どんどんうまくなっているように感じる。これならすぐに飛べるようになるかも。
「バブバブ~!」
「ちょ!? アルス!?」
すぐに飛べるようになると思っていたらすぐに飛べるようになった。家の中を飛んでいるとオリビアが驚いて声を上げる。
光と闇と風の属性にしたのがよかったのかもしれないな。重さのない属性だから、そうなると火も行けるかも? いや、火は熱いから危ないな。やめておこう。
「アルス! 手がかからないと思ったらすぐにこれなんだから。それにしても凄い才能ね。はぁ~、天才を育てるにはどうしたらいいのかしら……。そうだわ、天才には天才。あの子に声をかけてみましょう」
「バブ?」
オリビアはため息をついて話すと手紙をしたためる。次の日にその手紙を行商人に手渡してる。
行商人は定期的に村にやってくる。その時に聞いたけど、この村の名前は【モンドル】っていうらしい。
手紙が届く先は【クレイトン】と言っていた。遠いから料金が高いとも言っていたな。金貨を一枚手渡していたっけ。
この世界の通貨は【ラリ】1ラリが銅貨から始まって、10枚で次の硬貨に変わる。大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、最後が白銀貨。
金貨ってことは1万円くらいの価値かな? 配達で1万円か、凄い高いな。
「【シディー】を呼んだんだってな」
「そうよ。天才には天才の苦悩があるでしょ。アルスにピッタリの先生でしょ」
「ま、まあ確かにピッタリかもしれないが」
その日の夜、手紙のことを聞くルード。シディーって人に送った手紙だったみたいだ。
二人の共通の友人なのかな? ルードはなんだか嫌そうにしてるけど。
「ふふ、地獄の日々が思い出される?」
「そうそう、シディーの奴はほんとスパルタでな。自分よりも大きな岩を担いで山をうさぎ跳びで登らされて。白い帽子をかぶった山……地獄の方がやさしいんじゃないかな」
どうやら、壮絶な修行をさせられたみたい。ということはルードの師匠ってこと? それはちょっと興味があるな~。
二人のルーツみたいな人ってことでしょ。僕も二人のような人になりたいと思うし。
シディーさんか、楽しみだな~。