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私
にとって、彼は敵だ。
私がこの世界に存在し続ける限り。
私の存在が、彼を苛立たせるのだとしても。
私の存在は、彼を苦しませる。
彼を苦しめることしかできない。
それでも私は彼に会いたい。
私は彼に会わねばならない。
そうでなければ、私が存在する意味がない。
たとえそれが、彼をさらに苦しめるだけだとしても。
私の存在理由とは、そういうものだから。
だから私は今日も、彼に語りかける。
いつか彼が答えてくれることを祈って。
「お前なんか必要じゃない」
「俺に近づくな」
「俺は誰も信じたりしない」
わかっているさ。そんなこと。
だが今はただ、そばにいたかったんだ。
彼のことが知りたかっただけなんだ。
ただそれだけなのに……。
ああ……どうしてこうなった? 彼はもう何も言わなくなった。
私はまた間違えたのか? 結局いつも同じ結末になる。
彼は私を拒絶して、あの日のように私を見下して笑うんだろう。
お前なんかには分からないだろうと、嘲笑うように。
それでも私は諦めないよ。
君を救うためなら何でもしよう。
たとえそれが君の望まないことであってもね。
そう言って、私は笑った。
それは、私にとっての覚悟だった。
彼は驚いていたけど、やがて顔を背けた。
そして君はまた私を否定するのかと呟くと、 彼は私の前から姿を消した。
彼は私を理解しようとしてくれただけなのに、 どうしてこうなったんだろうか? もう二度と会えないかもしれないと思うと、 胸の奥から何かが溢れてきた。
私は彼を探した。
けれど、どれだけ探しても見つからなかった。
結局は私の独り善がりでしかなかったのかな? だけど、それでも構わない。
彼が苦しんでいると言うのなら、 私が救い出してみせる。
だから私はこの命を賭けてでも、彼を救って見せる。
例えそれで自分が消えるのだとしても……。
その結末は、あまりにも悲しいものだ。
彼女は、 誰よりも優しくて強い子だった。
彼女の声は、いつだって皆に勇気を与えた。
彼女の存在が、皆を笑顔にした。
彼女がいたからこそ、今の自分が在るのだ。
けれどそれは、 彼女が居なくなったら意味がない。
彼女のいない世界で生きるなんて考えられない。
そうして今、 自分の前には、もう二度と会えないはずの少女がいる。
これは奇跡だろうか。
それとも夢なのか。
分からない。
ただひとつ言える事は……。
「お姉ちゃん!!」
自分は迷うことなく彼女を抱きしめた。
あの時出来なかった分まで強く。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、彼女にしがみついて泣いた。
「ごめんね! 遅くなって本当にごめんなさい!」
謝る言葉しか出てこない。
もっと言いたいことがあるはずなのに、言葉にならない。
「良いんだよ」
優しい声で言ってくれた。
温かく包まれるような感覚に、また泣きそうになる。
「私の為に泣いてくれてるんだよね?」
その通りだと返事をする代わりに、ぎゅっと抱き締め返した。
嬉しくて、幸せで、愛おしくて、堪らない気持ちで胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます!これで安心して眠れそうです!」
「おーう!また何かあったら来てくれよ!」
「はい、それじゃあ失礼しました〜」
僕は今しがた依頼をこなしてきた冒険者ギルドから出ると、大きく伸びをした。
(ん〜……やっぱり仕事の後のお酒は最高だよねぇ)
そんな事を思いながら、僕こと『シオン』は今日泊まる宿を探す為に街へと歩き出した。
☆★☆
「えっと、確かこの辺りに宿屋があったと思うんだけど……」
それから暫く歩いた後、目的の場所を見つけて中に入る。
するとカウンターにいた女将さんらしき女性が声をかけてくれた。
「あら、いらっしゃい」
「すみません。部屋を借りたいんですけど空いてます?」
「ごめんなさいね。生憎今は満室で埋まっちゃってるの。