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文化祭、初日。
開場直前。
教室の中は、いつもとはまるで違う空気に包まれていた。
「やばいって絶対混むって!」
「準備できてる!?」
「陽向その格好ほんとにやるの?」
「似合ってるだろ?」
メイド服を着てポーズを取っている陽向に、クラス中が笑う。
「似合ってる似合ってる(笑)」
「写真撮っとこ」
「お客様!校内の写真撮影はご遠慮ください!!」
「その規則は部外者限定なので、内部の人間には適用されません!」
パシャッパシャッ
そんなやりとりの中――
「……」
こはるは、鏡の前に立っていた。
白を基調とした衣装。
やわらかく広がるスカート。
そして――
頭の上の、うさ耳。
「……」
少しだけ、
そわそわする。
頭についたうさぎの耳をそっと撫でる。
(なんだか……不思議な感じ……)
非日常。
いつもとは違う自分。
「こはるー!」
振り返ると、渚と紅葉がこちらを見ていた。
「やばいねそれ」
「可愛いかよ」
「え、えっと……」
少しだけ照れるこはる。
「はいはい、準備できたな?開けるぞー!」
「はーい」
担任の声。
ガラッ
教室の扉が開く。
――文化祭が始まった。
「え、なにここ!?」
「衣装ガチじゃん!」
「あの子めっちゃ可愛いよ!」
噂が広がるのは一瞬だった。
人が人を呼び、
教室の前には、すぐに列ができる。
「いらっしゃいませー!」
「こちらへどうぞー!」
渚が呼び込み、
紅葉が手際よく席を回し、
雪斗と陽向がドリンクを用意する。
そして――
「ご注文お伺いします」
こはる。
うさ耳の看板娘。
「え、めっちゃ可愛い」
「写真いいですか?」
「どっから来たのこの子」
「ごめんなさい、校内の撮影はダメなんです……」
笑顔で対応する。
丁寧に。優しく。
でも――
その笑顔は、
どこか、
少しだけ寂しそう……
「……」
それが逆に、
「え、なにそう言う設定?」
「薄幸の美少女感が半端ない」
――そんな噂まで生んでいた。
⸻
午前中終了。
「つっかれたぁぁぁぁぁ!!」
「足パンパン!!」
教室の中に、ようやく一息つける空気が流れる。
「こはる、大丈夫?」
渚が覗き込む。
「……はい、大丈夫です」
笑ってはいるけど――
やはりいつもと違う。
「……」
紅葉は、その様子を見ていた。
⸻
午後の部開始直前。
すでに行列ができていた。
「やば、午前より増えてるんだけど…」
「看板娘がすごい噂になってるっぽいよ」
「月城さんさすが!」
「……頑張ります」
こはるはそう言って、
また教室へ戻る。
⸻
「ねぇねぇ、休憩いつ?一緒に回ろうよ♪」
客の一人が、こはるとの距離を詰める。
「え、あの……ご注文は――」
「注文? じゃなくて、連絡先聞いていい?」
無理やり腕を引かれそうになる。
その瞬間――
「お客様♡」
間に入る影。
「当店、そういうサービスはやっておりませんので」
メイド服姿の陽向だった。
「は?なにお前」
「すみませんね〜、どうしてもとおっしゃるなら、私が一緒に回りますよ♡」
軽く笑いながら、
こはるにしっかり距離を取らせる。
「ひとまずは、お席の方へどうぞ♪お話はオーダーの時にでもお聞きいたしますわ♡」
空いている席の方に手を出し、座るように誘導する。
「……ちっ」
舌打ちを残して男は去っていった。
「……大丈夫?」
小声でこはるに聞く。
「……はい、ありがとうございます」
軽く会釈をするこはる。
「いいっていいって」
陽向は親指で後ろを指す。
そこには――
明らかに機嫌の悪そうな顔をした雪斗。
「……あっ……」
「今にも殴りにいきそうだったからさ、流石にまずいでしょ(笑)」
「助かりました……」
「困ったらこのメイドにお任せよん♡」
そう言って陽向が雪斗の方へ戻って行った。
⸻
教室の奥
ドリンクの準備をしている陽向に雪斗が近づく。
「さっきはありがとう」
「ん?あぁ、ナンパのやつ?」
「そ」
「だってさ、雪斗……大切なこはるちゃんがナンパされてて今にもぶん殴りに行きそうな感じだったじゃん(笑)」
「んなっ!!」
「暴力沙汰はよくないですよ〜雪斗さん」
「いや、起こしてないだろ…!」
一瞬ムキになる雪斗。
だがすぐに冷静さを取り戻していた。
「でも、本当に助かった。おかげで冷静になれたよ」
「困ったことがあったらいつでもこのメイドにご命令ください♡」
「……遠慮しておく(笑)」
陽向は親指を立て、ドリンクを運んで行った。
⸻
閉店
「お疲れ様ー!」
「客の数ヤバすぎ!」
「飲食やると毎年こんな感じなのかな?」
笑い声。
でも――
「……すみません、疲れたので……先に帰りますね」
そう言って、こはるは一人教室を出ようとした。
すかさず紅葉がこはるの元へ駆け寄る。
「………こはる!えっと……その……」
「……はい?大丈夫です。ちょっとだけ疲れただけなので」
そう言い残し、去っていくこはる。
その笑顔は、
やっぱりどこか、遠かった。
⸻
文化祭、2日目。
開始早々すでに行列。
「昨日よりやばくない?」
「Xでかなり話題になってたよ……写真こそ上がってなかったけど、可愛い子がいるとか、コスプレやばいとか……」
「うわほんとだ。閲覧数もやばいじゃんこれ。完全にバズってるでしょ」
こはるは今日も、
忙しく動いていた。
「ご注文お伺いします」
笑顔。
でも、
やはり少しだけ――
辛そうな表情。
⸻
「ねぇ、ちょっといい?」
また一人、
距離を詰めてくる男。
スマホを構える。
「1枚いいですか?」
「え……あの……校内の撮影はご遠慮いただいておりますので……」
「いいじゃん1枚くらい(笑)」
笑顔でこはるに近づいてくる。
「俺こう見えてもフォロワー結構いるんだよね〜……1枚載せたら有名人になれるかもよ?」
「いや……そう言うのに興味も無いので……」
「え〜ならこれならいいでしょ♪」
そう言い、こはるの肩を抱き寄せ、自撮りの構えをする。
ビクッ!
いきなりの行動に震えるこはる。
その瞬間。
パシッ
「お客様」
こはるの肩にあった手が外された。
振り返るとそこには……
雪斗がいた。
目を大きく見開き、涙目になるこはる。
「は?なにお前?」
雪斗を睨みつける。
「校内撮影禁止です」
「は?関係なくね?」
一歩、詰め寄る。
「……お引き取りください」
空気が一瞬、張り詰める。
「……ちっ、めんどくせ」
男はそのまま去っていった。
「……大丈夫だった?」
「……はい、ありがとうございました!」
目から一筋、涙を流しながら笑うこはる。
その顔を見て――
紅葉は、気づく。
(……やっぱり)
一悶着があったため、少し空気が澱む店内。
「はい!少し早いけど、午前の部はここで終了にします!」
「今お並びの方には整理券を配りますので、また午後お越しください♪」
そう言い、場を整理し始める渚。
「こはるも、先お昼行ってきていいよ」
そう言い、こはるにウインクをする。
こはるもぺこりとお辞儀をし、その場を後にした。
⸻
昼休み
「いや〜……ほんと疲れるね」
「午前中そんなだったんだ……午後当番なんだよなぁ」
「昨日の感じからすると午後の方が大変そうだよね(笑)」
教室内でくつろぐクラスメイト達。
先に休憩に入っているこはるはその場にはいなかった。
「……どうするの」
紅葉が雪斗を見る。
「なにが?」
「……言わなきゃわからない?」
「……」
雪斗は黙ったまま。
「やっぱり物足りないと言うかなんと言うか」
「寂しいよねぇ」
パンを食べながらお互いを見る陽向と渚
「俺だってなんとかしたいとは思う……」
「でも……」
雪斗がため息をつきながら言った……
「こはるが手を取ってくれないと……」
その一言で、
表情が変わる。
バン!!!
机を叩く紅葉。
「雪斗」
低い声。
「屋上、来て」
「いまから?」
「いいから来て」
そう言い放ち、教室を後にする紅葉。
ゆっくりと立ち上がり、後を追う雪斗。
そのやりとりが聞こえた生徒達からは……
「え?なに告白!?」
「成瀬さんが?まじ!?」
一部でざわざわし始めていた。
「あんな紅葉さん……初めて見たわ……あれは完全にキレてますな」
「私も初めて見た………」
そう言って2人は、急いでパンを飲み物で流し込んだ後、ざわざわしている人達のところへ向かい、変な噂を流されないよう、フォローに回った。
⸻
屋上。
風が吹く。
「……何」
「どうするつもり?」
「だから――」
「何も思わないの?」
一歩、踏み込む。
「今のこはる見て、何も思わないの!?」
「……思ってるよ」
紅葉の声が段々と大きくなる。
「だったらなんで何もしないの!?!」
「だから、こはるが――」
「違うでしょ!!」
声が響く。
「私じゃダメなの……」
沈黙。
「さっき…あんたに助けられた時のこはるの顔……見てなかったの?」
ゆっくりと、
「………あんたは……」
言葉を吐き出す。
「今まで……こはるの何を見ていたの?」
紅葉の目からは涙が溢れていた。
その言葉で――
雪斗の中に、
いくつもの記憶がよぎる。
笑顔。
声。
仕草。
全部。
「……」
「……悪い」
小さく言う。
「午後、ちょっと抜けるわ」
紅葉がため息をつき、鼻声で答える。
「……ケーキ1週間分」
「3日分ね……」
「……ケチ」
ふっと笑う。
「お願い……」
「……ああ」
雪斗は走り出した。
⸻
午後の部開始直前でざわついている教室。
雪斗が息を切らして教室に入ってきた。
準備でバタバタしているこはるの手を取る雪斗。
「え?」
「みんなごめん、ちょっとこはる借りる」
雪斗が、そう言うと……
「え!?今から始まるのに!?」
「看板娘抜けたらやばいでしょ!」
突然看板娘の不在に不満の声が上がる。
しかし――
「あー、でもさ」
陽向がわざとらしく大きい声で言う。
「昨日今日でこはるが人気すぎて、逆に回すのが大変になってるのも事実だよな〜」
そう言って渚の方を見る。
「あ、そうそう!昨日もそうだし、ついさっきもトラブルなりかけたしね!」
渚も続ける。
「それに、こはる。ずっとここにいて文化祭回れてない」
息を切らしながら教室に入ってきた紅葉も加勢する。
「……確かに」
空気が変わる。
「ちょっとくらい息抜きした方がいいって」
「ゆっくり見てきなよ!」
「戻ってきたらまた働いてもらうけどね〜(笑)」
笑いが広がる。
「……あ、えっと……」
戸惑うこはる。
そんな彼女の手を、
雪斗はそのまま引いた。
「行こう」
「……はい」
小さく頷く。
⸻
人混みを抜けて、
一度校舎の外へ出る。
しばらく無言。
足音だけが響く。
「……」
「……」
気まずい。
「……これ」
雪斗が足を止め、指を差した先には、屋台。
「え?」
「クレープ」
「……あ」
「ちょっと気になってたんだよね」
「……そうだったんですか(笑)」
「……この看板」
そこには生徒が描いたであろう、不恰好なうさぎの絵が描いてあった。
少しだけ驚いて、笑うこはる。
クレープを2つ買い、
一口。
「……美味しい」
「……ちょっと俺には甘すぎるかも」
食べながら雪斗の後をついていくこはる。
再び校内に入り、無言で階段を登る。
そして……誰もいない屋上。
「生徒は立ち入り禁止ですよ……」
「さっきも来たから大丈夫」
「不良ですね」
再びくすりと笑うこはる。
でもやはり……
どこか悲しそうな表情。
「……お疲れ様」
ぽつりと雪斗が言う。
「大変だったろ」
「……まだ終わってないですよ」
小さく笑う。
「でも……少し疲れました」
「……こはる」
「はい?」
「俺たち、何かした?」
「……え?」
「この間から……なんか」
言葉を探す。
「避けられてる気がするから」
「……違う!」
思わず強く否定する。
でも、その先が続かない。
「あ、えっと……そうじゃなくて……その……」
視線が揺れる。
言葉がまとまらない。
「……すみません……」
崩れる。
「これは……私の……」
「私自身の問題で……」
手が震える。
「わからなくなってしまって……」
「もう私……わからないんです」
「どうしたらいいのか……」
ぽろり
「どう接したらいいのか……」
「ダメだってわかっているのに……」
涙が溢れる。
「私は……」
一度溢れた涙はもう止めることはできなかった。
「……っ」
声にならない。
そんなこはるの頭に、
そっと手が置かれる。
優しく。
ゆっくりと撫でる。
「……」
その瞬間――
ふっと、記憶がよぎる。
小さな子供。
温かい手。
撫でられていた、あの頃の記憶。
「……」
涙が、また溢れる。
「俺は……」
雪斗の声。
少しだけ詰まる。
「……よく分かんないけどさ」
それでも、
言葉を続ける。
「こはるには……笑っていてほしい……かな」
――
その言葉で、
何かが繋がる。
(……あ)
『最後にあんなに悲しい顔をさせてしまった』
『だから私は大丈夫!幸せでした!って伝えたい』
【笑ってほしいんです!!】
かつての自分の言葉と雪斗の言葉が重なった。
溢れていた涙が止まる。
「……何かあるなら言えよ」
少しだけ視線を逸らす。
「俺は……放っておきたくない」
雪斗の言葉で一度笑い
「あは」
笑いが止まらなくなる。
「あははははは♪」
「なっ!なんで笑うんだよ!真面目に話してるのに!」
理由はわからないが、笑われたことに恥ずかしくなったのか、少し顔が赤くなる雪斗。
「ち、違います…」
少しずつ笑いがおさまり、大きく一度深呼吸をする。
「ありがとうございます」
(笑って欲しい……)
「多分、もう大丈夫です。」
(同じ気持ち)
「あ、でも一つだけ」
(私はそうだ……)
「頭……もう少し撫でててください。」
(ちゃんと、思い出した)
そう言って撫でられているこはるは……昔のように気持ちよさそうに目を細めていた。
(私は……届けにきたんだから)
⸻
しばらくして。
「……ありがとうございます!」
ぱっと顔を上げる。
涙はもう完全に止まっていた。
「完全復活です!!」
その笑顔は、さっきまでとは違う。
久しぶりに見るいつものこはる。
そのこはるが真っ直ぐに自分を見ている。
雪斗は顔が少し熱くなった。
「こんなんでよければ……いつでもするよ」
「言いましたね?」
こはるがニヤリと笑う
「じゃ〜……毎日1時間、撫でてもらいます(笑)!」
「えぇ……」
そんな話をしながら雪斗もつられて笑う。
落ち着いて一息つくこはる。
「せっかくですし、もう少しだけ見て回りましょう!」
今度は、
こはるが雪斗の手を取る。
「え?」
「行きますよ!」
引っ張る。
そのまま人混みの中へ。
⸻
「次どこ行きます?」
「え、任せるけど」
「それなら……あ、あそこのお化け屋敷に行きましょう!」
⸻
ペチッ
「ぎゃー!!!!」
⸻
「なんなんですかあの冷たいやつ……ほんとびっくりしました……」
「こはる…あんな声出るんだな……」
そう言って笑う雪斗。
「なっ!雪斗くんもヒッ!!って言ってびっくりしてたじゃないですか?!」
そう言いながら足ダンするこはる。
それでも、さっきまでとは違う表情。
「……」
雪斗は、前を歩くこはるの背中を見ていた。
「ほら、雪斗くんも!」
振り返って、
手を引く。
その手は、
今度はしっかりと、
前を向いていた。
⸻
夕方。
「戻りました!」
こはると雪斗が教室に戻る。
「おかえりー!」
「看板娘復活ー!」
騒がしい声。
渚が小走りでこはるのそばに寄ってくる。
「ちゃんと楽しんできた?」
「はい!」
いつもの笑顔で答えるこはる。
その笑顔を見て――
紅葉は思い出す。
(後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?)
「見守ってるだけじゃ……ダメじゃん」
そう呟いて、紅葉は小さく笑った。
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