テラーノベル
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こはるの周りに、クラスメイトが集まる。
「おかえりー!」
「待ってたよー!」
「ラスト頑張ろうね!」
その中心で――
こはるが、楽しそうに笑っていた。
紅葉が、そっと雪斗の隣に立つ。
「……やるじゃん」
小声で呟く。
「ケーキ……4日分にまけてあげる」
「なんで増えてんだよ」
「悔しいからに決まってるでしょ」
そう言ってふっと笑う紅葉。
その表情は、少しだけ軽くなっていた。
ざわつく教室。
その声に――
パンッ
渚が手を叩く。
「はいはい!まだお客さんもいるし並んでるんだから!持ち場に戻って戻った!」
「はーい」
各自持ち場へと戻っていく。
「こはるもいける?」
「任せてください!」
ぎゅっと拳を握る。
「ぷっ…それじゃ最後、頑張ろうね!」
「はい!」
そう言って2人は客の待つテーブルまで歩いていった。
⸻
「ご注文お伺いします」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね♪」
「写真はダメなので、しっかりと目に焼き付けといてください(笑)」
その声は――
さっきまでとは、少し違っていた。
柔らかくて、
自然で、
温かい。
「月城さん……変わった?薄幸の美少女じゃなくなってる……」
「確かに……なんか明るい感じになってるね」
「バズり対策かな?」
こはるの変化に気付いたクラスメイト。
その声は、少し離れていても――
こはるの耳には、ちゃんと届いていた。
その変化は自分自身も自覚しているため、そりゃそうだよね、と思わず笑ってしまう。
すると……
「うさぎのおねえちゃん!」
小さな声。
振り返ると、小さな女の子が立っていた。
「どうかしましたか?」
しゃがんで目線を合わせる。
「ありがとう!ジュースおいしかったです!」
ぎゅっと手を握られる。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
優しく微笑む。
その様子を少し離れたところから見ている雪斗も思わず微笑んでしまった。
「雪斗くーん」
後ろから陽向の声が聞こえた。
「こはるちゃんに見惚れてナイデ、奥のテーブルのオーダーに行ってきてクダサーイ」
茶化すように言う陽向。
「っ……!わかったよ………」
そう言って奥のテーブルへ行く雪斗。
雪斗とすれ違い、空いたグラスを持ってきた渚が陽向の近くに来る。
「今、『見惚れてないで』の部分」
「あぁ……否定しなかったぞあいつ……」
「まぁ、そういうことなんじゃない?」
ひょこっと後ろから紅葉が笑いながら現れた。
⸻
文化祭も終盤に近づき、行列も少し落ち着いてきた教室。
「こはる」
ふいに、渚が呼ぶ。
「どうしました?」
「さっきさ……ちょっと思い出しちゃって」
「?」
苦笑いの渚。
「修学旅行の班決めの時さ……」
「私と陽向が喧嘩してて……”全然楽しくない!”って言ってたじゃん?」
「……あ……」
自分の言葉を思い出したこはる。
「あの時のこはるの気持ち、今になってわかったよ。正直私も……さっきまで全然楽しくなかった……」
申し訳なさそうな表情になるこはる。
「えっと……その……すみま――」
「でも今――」
こはるの言葉を遮り、ぐっと親指を立てる。
「めっちゃ楽しいよ!」
その言葉にこはるも、つられて笑った。
「ラストスパートいっくよー!」
クラス全体が一つになっていく。
誰かが足りないところを補って、
誰かが声をかけて、
笑いながら、
忙しささえ楽しむように。
――文化祭は、大成功だった。
⸻
後夜祭。
「何食べる!?」
「とりあえず全部回ろ!」
夜の校内。
いつもとは違う光。
笑い声。
屋台の灯り。
非日常の続き。
「こはる!」
「はい?」
「せっかくだし、みんなで写真撮ろー!」
「え、あ……はい」
並んで、
笑って、
シャッターが切られる。
「ほら雪斗!陽向!2人もおいで!写真撮るよ!」
「え?まじ?俺着替えていいっすか?」
「ダメに決まってるだろ」
「なんなら陽向がメインまであるよ」
そんなやりとりの中で――
こはるは、笑っていた。
心から。
それを見ていた紅葉――
バシッ
「いっ!?」
雪斗の頭に衝撃が走る。
「なにすんだよ!」
「別に、ちょっとムカついただけ」
紅葉がそっぽを向く。
少しだけ笑っていた。
「ケーキ忘れないでよ」
「……はいはい」
雪斗も苦笑する。
その様子を見て、
こはるはまた、笑った。
⸻
帰り道。
「楽しかったねー!」
「来年も楽しみすぎる」
他愛のない会話。
夜の空気は少し冷たい。
「……」
こはるも、
歩きながら笑っていた。
ちゃんと、心から。
チリーン……
小さく、鈴の音が鳴る。
こはるは少し歩くペースを落とした。
月に照らされるみんなを見て……
この日を、
きっと、忘れないと――思った。
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