テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第179話:開戦!『男の娘×ハゲ和尚』
時刻は19時59分。
帯広のボロアパート、四畳半。
限界を迎えた三万円のゲーミングチェアに深く腰掛けた俺の心臓は、早鐘のように打ち鳴らされていた。
『ルシフェル様、心拍数が異常値です。本番中にショック死されても労災は下りませんので、深呼吸を』
ディスコードの向こうから、冷徹な経理担当・結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが飛んでくる。
「無理言うな! 相手は同接数万を常時叩き出すバケモノだぞ! 俺みたいな陰キャおっさんが隣に並んだら、画面の圧で消し飛ぶわ!」
『泣き言はそこまでに。……10秒前。5、4、3……配信、乗りました』
画面が切り替わる。
俺のPCモニターに、現在YouTubeで生放送中のコラボ配信画面が映し出された。
『にゃんにゃん! みんなのアイドル、男の娘VTuberの猫川まるきだにゃん! 今日もいっぱいいじめてね♡』
鼓膜が溶けそうなほど甘く、そしてあざとい、プロフェッショナルなアニメ声。
ピンク色を基調としたポップな背景の左半分に、猫耳とメイド服を纏った超絶美少女(※男)のアバターが、キラキラとしたエフェクトと共に元気よく動く。
同接(同時接続者数)カウンターは、配信開始からわずか数十秒で【3万人】を突破。
すさまじい速度で流れるコメント欄は、まさにトップランナーの証だった。
『さてさて! 今日のゲストは、最近業界を(別の意味で)お騒がせしている超絶ヤバい社長さんをお呼びしてるにゃん! ルシフェル社長、どーぞ!』
「あ、えと……ど、どうも。株式会社インフィニティ・ワンの……ルシフェル、です」
俺は、カビ臭い四畳半の空間で、裏返りそうになる声を必死に押し殺し、極度に緊張した声で挨拶した。
と、同時に。
配信画面の右半分、漆黒の背景と共に、俺のアバターが『ドンッ』という重低音SEと共に召喚された。
身長二メートル。
筋骨隆々の肉体に、袈裟を纏った厳つい【ハゲ和尚】。
先日250万円の純利益を全ツッパして実装した『Ver2.0』の超絶クオリティにより、頭頂部のテカリや、無駄にリアルな筋肉の陰影、そして袈裟の物理演算が、ぬるぬると異常な滑らかさで動いている。
画面左:キラキラピンク空間でウインクする、きゃるんとした猫耳メイドの男の娘。
画面右:地獄の底から這い上がってきたような、超絶リアルな3D筋肉ハゲ和尚(表情ガチガチ)。
「…………」
「…………」
数秒の、完全な沈黙。
そして、弾け飛んだ。
『草』
『wwwwwwwwwwww』
『画面の圧wwwwww』
『待って、絵面がカオスすぎるwwww』
『美女(男)と野獣(ハゲ)』
『ルシフェル社長、なんで和尚なのwww』
『画風が違いすぎて脳がバグるwwww』
『SuperChat: $50.00 (WTF is this screen!? LOL)』
『高画質の無駄遣いwwww筋肉のテカリやめろwww』
数万人のリスナーによる、凄まじい「大爆笑」の弾幕。
画面の右端を、滝のような勢いで『草』の文字とスーパーチャットが埋め尽くしていく。
『あははははっ! ちょっとルシフェルさん、なにそのアバター!? 私と並ぶと完全に異世界転生してきたラスボスじゃないですか!』
猫川まるきが、腹を抱えるようなモーションで大爆笑している。
「い、いや……これは、その……威厳を保つために、先日250万かけてアップデートしたばかりで……」
『えっ、これに250万!? 嘘でしょ!? どこにお金かけてるんですか! 頭のテカリですか!?』
『頭のテカリに250万wwww』
『経費の使い道バカすぎるwww』
『スーパーボトム社長、最高かよww』
リスナーのイジりが、怒涛の勢いで加速する。
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で完全にパニックに陥っていた。
相手は、昨日の事前ミーティングで俺を震え上がらせた、あの「天才クリエイター・鰹節うめお先生」なのだ。
だが、いざ配信が始まってみると、そこにあの冷徹な経営者の姿はない。
リスナーの反応を瞬時に読み取り、絶妙なパスを出し、俺の緊張やぎこちなさすらもすべて「笑い」へと昇華していく、完璧なMC(回し)の技術。
(す、すげえ……。これが、トップ層のエンタメ力……!)
俺は、四畳半の暗闇の中で、ただただ圧倒されていた。
俺が言葉を詰まらせても、まるきがすべて面白おかしく拾ってくれる。
異様すぎる『男の娘×ハゲ和尚』という画面構成すらも、彼女(彼?)のトークスキルにかかれば、最高のバラエティ番組へと変貌してしまうのだ。
『いやー、でもルシフェルさん。最近すっごい話題ですよね! 海外のリスナーからスパチャ数百万飛んだり、IRSと戦ったり。さぞかし儲かってるんでしょうねぇ〜?』
まるきが、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、核心を突く質問を投げかけてきた。
ビクッ、と俺の肩が跳ねる。
来た。ついに、この対談のメインディッシュ。
俺のリアルな懐事情(ド底辺)を丸裸にするターンだ。
「あ、いや……売上自体は、確かに上がってはいるんですが……その……」
『え〜? そんなに謙遜しちゃって! ぶっちゃけ、今どんなタワマンに住んでるんですか? お給料、月数百万くらいもらってるんでしょ?』
画面越しの猫耳メイドが、小悪魔のような目で俺の急所を的確に抉ってくる。
俺は、自分の足元にある特売の袋麺の空き袋と、壁のシミを見つめながら、震える声で真実を口にするしかなかった。
「……月給、10万円、です。……家は、帯広の四畳半のボロアパートです……」
この後、さらにとんでもない爆笑の渦が巻き起こることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
コメント
1件
うわっ、この絵面、脳がバグる……! キラキラ猫耳メイドの隣で2mの超リアル筋肉ハゲ和尚がガチガチに緊張してるの、もう完全にカオス漫才じゃないですか(笑)。しかも月給10万円で帯広四畳半って……250万円のテカリ頭アプデ、笑いしか出てこないけど、妙に応援したくなる這個ギャップ。猫川まるきのMC捌きも鮮やかで、トップ層のエンタメ力をまざまざと見せつけられる回でした。