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「ノエルを返せと言ったのは、貴様か」
アイゼン様の冷ややかな問いに、父は震えながら答えた。
『あ、あれは我が家の娘で…!親の面倒を見るのは…当然の義務ではありませんか』
「……貴様の言葉は、一つ一つが俺の神経を逆撫でするな」
アイゼン様はゆっくりと馬から降りると
一歩一歩、蛇に睨まれた蛙のように動けない彼らを追い詰めた。
「彼女を『出来損ない』と呼び、家族扱いもせずに虐げていた。……貴様らが彼女から奪った時間と尊厳、その罪は万死に値する。その事実は、俺がこの手で清算してやる」
アイゼン様の手のひらから放たれた極寒の魔力が、屋敷の重厚な門を粉々に打ち砕いた。
彼は慈悲を乞う彼らの声を、汚物を見るような一瞥だけで一顧だにせず
淡々とバロン家がこれまで犯してきた脱税や汚職
そして私への非人道的な虐待の証拠を突きつけた。
「全財産を没収し、爵位を剥奪する。貴様らには、ノエルが味わった孤独と、それを遥かに上回る絶望を一生かけて味わってもらう」
『なっ!? そっ、そんなことをされたら我々はどうしたら……っ!! どうか、お助けを!』
「……俺はノエルのように優しくはない。帝国の最果てにある炭鉱で、一生這いつくばって罪を贖え。二度と、彼女の視界にその汚らわしい姿を現すな」
かつて私が閉じ込められていた、あの暗く冷たい屋敷は、皇帝の怒りによって文字通り灰に還った。
彼らが私を繋ぎ止めようとした傲慢な願いは
皇帝の愛という絶対的な暴力によって、塵一つ残さず粉砕されたのだ。
「行こう、ノエル」
アイゼン様は、恐怖で廃人のようになった彼らを見捨て、宮殿へと戻るべく私に優しく手を差し伸べてくれた。
「は、はい……!」
◆◇◆◇
深夜
宮殿に戻ってきたアイゼン様は、昼間の冷徹さが嘘のように
静かな、けれどどこか名残惜しそうな足取りで私の寝室へと入ってきた。
「……ノエル。あの場所も、あの血筋も……もうお前を縛るものは何一つない。お前はもう、本当に自由だ」
彼は私の前に跪くと、私の腰に腕を回した。
いつもは堂々としている彼が、今はまるで許しを請う子供のように、私の腹部へ顔を埋めていた。
「……怖いか。俺が、あんなふうに冷酷に人を切り捨てる、血も涙もない男だと知って」
「……いいえ」
私は彼の美しい銀髪に優しく触れ、指を絡ませた。
「私を守るために怒ってくださったんですよね。それぐらい分かります。アイゼン様は、とっても優しくて、温かい人ですから」
「…そうか」
「わざわざ私のために、あんなに……本当に、ありがとうございます」
私が彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返すと
アイゼン様は深く、満足げな溜息を吐き出した。
私の体温を確かめるように、彼の手の力が強まる。
「お前は俺の光だ。…誰にも渡さないし、お前を傷つけるものは俺がすべてこの手で守ってやる」
私に向けられる、あまりに重く、そして深すぎる独占欲。
けれど、かつて誰からも必要とされず
消えてしまいたいと願っていた私にとって
この逃れられない愛の檻こそが、何よりも甘美で、世界で一番安全な安らぎの場所だった。
私は窓の外に広がる帝国の夜景を眺めながら
もう二度とあの寒い路地裏へ戻ることはないのだと、彼の熱い胸の中で確信していた。
#王子