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出水目線
数日が経ったある日。
学校からの帰り道、彼のもとに一通の封筒が届いた。
送り主は、ナマエ。
「……嘘、だろ」
震える指で封を切る。
中には、小さな便箋が丁寧に折りたたまれていた。
それだけで、彼の心は張り裂けそうだった。
出水先輩へ
この手紙を読むころには、もう私はいないかもしれません。
私ね、本当はずっと、ずっと前から先輩のことが好きでした。
でも、どうせ私の気持ちなんて伝わらないって、諦めてばっかりで。
出水先輩は誰にでも優しいし、私だけ特別じゃないって、勝手に思ってた。
もっとちゃんと話せばよかった。
もっとちゃんと、先輩の本当を知ろうとすればよかった。
でも
私は、先輩が、だいすきでした。
先輩に出会えて、よかったです。
ナマエ
「……バカ」
手紙を抱きしめながら、堪えていた涙が、溢れ出した。どうしようもなく胸が痛くて、息が詰まる。
「何で、今なんだよ……」
ただ一言「好き」って言えばよかった。
それだけで救えた未来が、あったのかもしれないのに。
そんなときだった。
ふと、背後に気配を感じた。風もないのに、空気がふわりと揺れて――
「……!」
温かい何かに、そっと背中から抱きしめられるような感覚。聞こえるはずのない、あの声がふっと耳に届いた。
『出水先輩の、根性なし!早く『好き』って言ってくれればよかったのに』
まるで、あの日のナマエがそこにいるみたいに。
頬を涙が伝っていくのも構わず、彼は静かに笑った。
「……お前もだろーが」
返しても、もう声は聞こえなかった。
でも、風に溶けた気配は、きっと彼のすぐそばにいた。
ずっと伝えられなかった気持ちは、ようやく届いた。
――たとえ、もう姿が見えなくても。
出水の胸の中には、ずっと、あの時のままのナマエが生き続けていた。
そして今日も、彼は空を見上げて、「お前、ちゃんと見てろよ」なんて笑って呟く。
ナマエの残した言葉を、心の真ん中に抱えたまま。
──終わり。