テラーノベル
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ステージの光は、いつだって嘘をつかない。
眩しすぎるほど正直で、残酷だ。
でも――
いあんは、その光の下で笑うことができる。
「ありがとうー! また絶対会おうね!」
マイク越しの声は、完璧なアイドルのそれ。
まだグループではないけれど。
手を振る角度も、視線の落とし方も、全部身体が覚えてる。
だって、十歳からずっと、
“そのためだけ”に生きてきたから。
楽屋に戻った瞬間、笑顔を外す。
誰もいない鏡の前で、息を吐いた。
……ここは、もう新しい事務所。
あの場所じゃない。
なのに。
「いあんはさ、ほんと天性だよね」
メンバーの言葉に、胸の奥がちくりと痛む。
褒め言葉なのに。
天性――。
その一言で、全部なかったことにされる気がして。
努力も、我慢も、
夜中まで続いた自主練も。
「まだ早い」「今は違う」って言われ続けた四年間も。
全部。
あの事務所では、
いあんは“秘密兵器”だった。
出さない。
でも、手放さない。
炎上は絶対にダメ。
失敗の可能性がある子は、表に出さない。
だから、いあんは“完璧になるまで”待たされた。
……違う。
待たされたんじゃない。
捨てられたんだ。
デビュー目前まで行ったオーディション。
最終で、外された。
理由は簡単だった。
「今は、既存メンバーを優先する」
いあんは優秀すぎた。
目立ちすぎた。
だから、邪魔だった。
その日、事務所を出るとき、
誰も見送ってくれなかった。
マネージャーは目を逸らして、
プロデューサーは忙しそうに電話をしていた。
――ああ、って思った。
いあん、
もう“使えない道具”なんだ。
新しい事務所に拾われたとき、
正直、驚いた。
「うちは、練習生の心を切り捨てない」
社長はそう言って、
真正面から、いあんを見た。
それが、怖かった。
だって、
“信じた場所”ほど、
裏切るとき、深く刺さるから。
でも。
レッスン室で歌った瞬間、
空気が変わった。
誰かが、息を呑んだ。
……知ってる。
この感覚。
いあんは、歌うために生まれてきた。
それだけは、誰にも否定させない。
旧事務所の名前が、
業界でまた聞こえてくる。
新曲、ランキング上位。
メディア独占。
……ふふ。
大丈夫。
焦らなくていい。
復讐って、
一気にやるものじゃない。
いあんは、
アイドルとして、上に行く。
同じステージに立って、
同じ光を浴びて。
そのとき、
向こうが気づくんだ。
――捨てたのは、
とびきり輝く“本物”だったって。
鏡の前で、もう一度笑う。
表情は、完璧。
心の奥は、冷たい。
大丈夫。
この闇は、
歌に変えればいい。
いあんは、
捨てられた秘密兵器。
そして――
これから、業界を壊す側のアイドル。
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