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翌朝。
目を覚ますと、窓の外には青い空が広がっていた。
昨日のことが夢だったらよかったのに。
そう思いながらベッドから起き上がる。
「今日は検査があります。」
看護師さんが笑顔で声をかけてくる。
「……はい。」
短く返事をして、心電図や採血を受ける。
もう何度も繰り返してきた検査。
慣れているはずなのに、今日はいつもより長く感じた。
病室へ戻ると、ドアがコンコンと鳴る。
「失礼しまーす。」
聞き覚えのある声。
「……悠真。」
「やっぱりいた!」
当たり前なのに、なぜか嬉しそうに笑う。
手には紙パックのりんごジュースが二本。
「一本、いる?」
「……いや、大丈夫。」
「そっか。」
断っても、悠真は嫌な顔をしなかった。
代わりに自分のジュースを一口飲んで、
「病院って暇だね。」
と笑う。
「まあ……そうだね。」
「あ、今返事した。」
「……したけど。」
「昨日より話してくれた。」
その言葉に、少しだけ照れてしまう。
「別に。」
「ふふ。」
笑われる。
その笑顔が、不思議と嫌じゃなかった。
「湊ってさ。」
「なに?」
「笑ったほうが絶対かっこいいよ。」
「……は?」
思わず変な声が出る。
「本当。」
真っすぐな目で言われるから、冗談には聞こえない。
「そんなこと、初めて言われた。」
「じゃあ俺が一番最初。」
嬉しそうに笑う悠真。
変なやつ。
でも、その”変なやつ”が隣にいるだけで、病室の空気が少し明るくなる。
「ねえ。」
「ん?」
「明日、一緒に屋上行かない?」
屋上。
入院してから一度も行ったことがない場所だった。
「景色、すごくきれいなんだって。」
「……俺、あんまり歩けない。」
「じゃあゆっくり行こう。」
その一言に、胸が熱くなる。
普通なら、
「無理しないで。」
そう言われることが多い。
でも悠真は違う。
“できない”じゃなくて、
“どうしたら一緒にできるか”
を考えてくれる。
その優しさが、少し怖かった。
「……考えとく。」
「よし!」
まるで約束ができたみたいに笑う悠真。
「じゃあ明日、また来る。」
「……うん。」
自然と返事をしていた。
病室を出ていく背中を見送りながら、小さく息を吐く。
――誰とも深く関わらない。
そう決めたのは俺なのに。
気づけば、明日を楽しみにしている自分がいた。
窓の外では、夕日がゆっくり沈んでいく。
あと半年。
その事実は変わらない。
それでも。
「……明日くらいなら。」
ぽつりとこぼれた言葉は、誰にも聞こえなかった。
だけどその小さな約束が、二人の距離を大きく縮める最初の一歩になることを、俺はまだ知らない。
コメント
3件
おー
読み終わりました。第4話、すごく良かったです。 湊が「明日くらいなら」と小さく呟くシーン、胸にきました。あと半年という時間制限があるからこそ、悠真の「どうしたら一緒にできるか」を考えてくれる優しさが特別に響くんですよね。変なやつだけど、隣にいるだけで空気が変わるって描写、とても自然で好きです。 二人の距離が縮まる最初の一歩、これからどうなるのか楽しみです。