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「湊、おはよう!」
翌日の朝。
病室のドアが勢いよく開き、悠真が顔をのぞかせた。
「……朝から元気だね。」
「だって今日は約束の日だから!」
約束。
その言葉に胸が少しだけ温かくなる。
「ちゃんと看護師さんに許可もらった!」
得意げに笑う悠真を見て、思わず笑みがこぼれた。
「……ふふ。」
「あ、また笑った。」
「うるさい。」
そう言うと、悠真は満足そうに笑った。
ゆっくりと病室を出て、エレベーターに乗る。
屋上へ続く扉が開くと、やわらかな風が頬をなでた。
「わぁ……。」
思わず声が漏れる。
青く澄んだ空。
遠くまで続く街並み。
病室の窓から見る景色とは、まるで違っていた。
「きれいでしょ?」
「……うん。」
ベンチに腰を下ろす。
風が髪を揺らし、どこからか鳥の鳴き声が聞こえた。
「俺さ。」
悠真が空を見上げながら言う。
「将来、写真を撮る仕事がしたいんだ。」
「写真?」
「うん。景色とか、人の笑顔とか。そういう『今しかない瞬間』を残したい。」
そう言ってスマホを取り出す。
カシャ。
「……撮った?」
「うん。」
「勝手に?」
「だって今、湊がすごくいい顔してたから。」
「消して。」
「やだ。」
「なんで。」
「もったいないもん。」
思わず顔をしかめると、悠真は声を上げて笑った。
その笑い声につられて、俺も少しだけ笑ってしまう。
こんなふうに笑ったのは、いつぶりだろう。
「湊は?」
「え?」
「将来やりたいこと。」
その質問に、言葉が詰まった。
将来。
俺には、もうないものだと思っていた。
「……考えたことない。」
嘘だった。
本当はあった。
高校へ行って。
友達とバカなことで笑って。
大人になって。
誰かと恋をして。
そんな普通の未来。
でも、それは全部諦めた。
「そっか。」
悠真はそれ以上聞かなかった。
代わりに、空へ向かって大きく伸びをする。
「じゃあさ。」
「?」
「これから作ればいいよ。」
「……え?」
「将来じゃなくてもいい。来週でも、明日でも。楽しみを一個ずつ。」
あまりにも自然に言うから、返事ができなかった。
「まずは。」
悠真は小指を差し出した。
「また一緒に屋上に来ること。」
「……子どもみたい。」
「中学生だからね。」
そう言って笑う。
俺も小さく笑った。
「……一回だけ。」
「本当?」
「うん。」
恐る恐る、小指を重ねる。
指切りなんて、何年ぶりだろう。
「約束。」
その二文字が、胸の奥で優しく響いた。
だけど、そのとき。
「……っ。」
突然、胸に鋭い痛みが走る。
息が詰まり、視界が揺れる。
「湊!?」
悠真の焦った声が遠く聞こえた。
苦しい。
息ができない。
胸を押さえ、その場にしゃがみ込む。
「誰か!先生!」
悠真の叫び声が、静かな屋上に響き渡った。
――幸せな時間は、どうしてこんなにも短いんだろう。
その日、俺は改めて思い知ることになる。
自分の命が、本当に限られているのだと。
コメント
12件
おわぁーすごーい
うわあああ〜〜〜〜!!😭💔 第5話、めちゃくちゃエモすぎる…!!「今しかない瞬間」って写真に残そうとする悠真の感性、最高にロマンチックじゃない?しかも湊の「将来やりたいこと」に「これから作ればいい」って寄り添う悠真…優しすぎて泣ける…でも最後の屋上で発作!?「幸せな時間は短い」って地の文で来るのずるいよぉ…😭💦 次どうなるの!?湊ちゃん無事でいて!!はやく続き見たい…🌸