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『自信を付ければいいのよ』『何だって上達する為には練習が必要。自信を取り戻せば、トラウマも克服出来るかもね』



「自信……練習かぁ……」


この前紅花に言われた言葉を、何度も頭で反芻する。


「練習って言ったって、その練習を嫌がるんだもん。どうしようもないじゃない」


颯懍ソンリェンはあの日以降、断固として遊郭へ行く事を拒んだ。

知り合いのいない、別の街ならいいじゃないかと聞いてみたけど駄目。


だいたい、その日に会った女とする事だけするなんて信じられん! とか言っちゃって、颯懍は結構硬派だ。


「やっぱり紅花さんから、自分で按摩マッサージをして、気持ちよくなる方法でも聞いた方が良かったかな」


でも紅花には私が女だって知られている。あんまり深く聞き込みをすると、颯懍の為だとバレてしまうかもしれない。



「さっきから一人で、何をブツブツ言ってるんだ?」


洗濯済みの颯懍の服を箪笥にしまっていたら、部屋へと本人が入ってきた。


使用人は基本的に、颯懍の部屋へは入ってこない。何故なら術の施された謎の道具やら何やらが沢山あって、不用意に触ると危険だから。

という訳でこの部屋の掃除などは、兄弟子の天宇に代わって私がしている。


「呪術なんてかけてませんから、大丈夫ですよ」


「お主の半端な術になどかかるわけなかろう」


「むぅっ! どうせ下手くそですよ」


神通力の使い方が上手くない事くらいは自覚している。でも面と向かってハッキリ言われると腹が立つ。


「……とは言え明明。お主は仙に最も必要なものを既に持っているがな」


「最も必要なもの、ですか?」


「自分で気付いていないのならそのまま知らない方が良い。ほら、さっさと片付けろ」


何よそれ。人が気になる様な言い方をしておいて酷い。


服をしまい終わって、今度は寝具を整える。

初めて颯懍の部屋に入った時は、絹糸で出来た寝具なんてこの世に存在するんだと度肝を抜かれた。ツルツル、サラサラの触り心地に、思わず頬ずりしたくなる。


硬派な颯懍の事だから、結婚したらきっと、凄くお嫁さんを大事にするんだろうな。

そう思うとちょっと羨ましい。

なんてったって自分は、ただの偽婚約者に過ぎない。


いつかこの寝台で、妻となった仙女と……。



って、何考えてんの!!


自分のとんでもない妄想にびっくりして、頬を引っぱたいた。


「何してるんだ?!」


「い、いえ。ほら、虫がほっぺたに止まったような気がして。あはは……」


「虫も女も、1匹でも入らないように結界を張ってるんだ。そんな訳ないだろ」


颯懍は夜這いをされてからと言うもの、自分の部屋に結界を張ったそうだ。もちろん私が出入り出来ないのは困るので、私は術には感知されない。


信頼されてるんだ!


とか思ってたけど、それってよくよく考えてみれば、若干残念な人では?


つまるところ私、女として見られてないって事で。



「師匠って女性が苦手なんですよね?」


「はあ? 何だ急に」


「私、女なのに何で大丈夫なのかと思って」


結構悲しい質問だ。答えによっては立ち直れないかもしれない。


「女と言っても女仙限定だ。そう言う対象として見られなければ問題ない。だから渋々ではあったものの、お主の事を弟子にした」


「あー、そう言う事ですか」


言われてみれば颯懍は、私に限らず俗世の女性は大丈夫だ。時折助けてくれた御礼にと、酒などをご馳走様してくれる人がいるけれど、そう言う時には女性が近くにいても平気そうにしている。

それはいくら颯懍が美男子でも、俗世の女性が仙人である颯懍とどうこう、なんて少し妄想してみても、本気では考えないからだ。



蛇に睨まれた蛙


と前に言っていたけど、颯懍を狙う蛇になりようもない女性なら平気ってことか。


確かに私は日頃から、かっこいいだの何だのとは言っていても、師匠と弟子と言う立場からの発言に過ぎない。


それなら私は颯懍に嫌煙されない、貴重な道士って事だ。


なんだか頭に、良い考えが浮かんできた!



「師匠、それなら私を練習に使ってください」


「練習? 何で術の練習に、俺がお主を使うんだ。普通逆だろう」


「違いますよ。房中術の練習にです」


がったーーんっ! と見事に颯懍は、座っていた椅子から転げ落ちた。あんまりにも綺麗に落ちたので、寸劇か何かのひと場面のようだった。


「なななななにを言ってるんだ、さっきから! 前々から思っていたが、お主の思考回路はどうなっているんだ? 寝言は寝て言え」


「師匠。私、真剣に言っているんです。師匠だっていつも言っているでは無いですか。下手なら兎に角練習だって。本番に備えてきちんと練習をしておけば、師匠のアソコだって応えてくれますよ!」


「そうは言ってもだな……」


「だーい丈夫です!! ご心配には及びません。なぜなら私、そういう経験一切ないので上手いとか下手とか分かりません。師匠が下手だって分かってる分、ちゃんと心の準備もできますから安心して下さい」


何を隠そう、私は生娘だ。

エッチどころかキスのひとつも、ましてや弟以外の男性と手を繋いだ事さえない。

床の上で何をするのか、何となくしか知らないけど、動物のならいくらでも見た事ある。みんなしているんだから、私にだって相手くらいは出来るはず。


「はあぁ、その訳の分からん理由と自信はなんなんだ……。しかも軽く失礼な事言っておるし。断る。絶対やらない」


「……やっぱり、そうですよね。私じゃ全然そそられないですもんね。あーあ、こんな事ならもっと紅花さんみたいな艶やかで、色気溢れる女に産まれておけば良かった」



こんなガキっぽい女、相手にしたいわけないか。


ただの練習台にもならないなんて、余程精気を創り出せるようにならないと、私と結婚してくれる仙人は現れないかもしれない。


しょんぼりと肩を落とす私に颯懍は、言い聞かせるように話し始めた。


「そう言う事を言ってるのでは無い。好きでもない奴となんかして自分を安売りするな。初めてなら尚更だ」


「好きですよ、師匠の事」


「その好きとは違うやつだ。そう言う相手と出会ったら、その内分かる」


「それなら師匠、これならどうですか? 私がその殿方と出会えた時用に、私の練習相手になってください」


「そう来るか」


「だって師匠が昔に御相手した仙女の方って、初めての人ですよね? 好きな人とそう言うことになった時慌てないように、練習って必要だと思いません?」


血が出たと言っていたのなら、処女だったってことだ。そのくらいの知識は私にだってある。

きっとその女性は初めてのことで気が動転してしまって、颯懍を罵ったんじゃないだろうか。



しばらくの沈黙。



目を瞑って考えていた颯懍が、遂に口を開いた。


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