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「なにこれ普通過ぎるよ!」
思わず突っ込んじゃった。
普通の家に普通の表札。そこに小さく「桜花武神流」とだけ書いてある。
道場の看板って、でっかい木の板に立派な文字で書いてあるんじゃないの!?
「道場って、もっと立派なものを想像してたよ……」
「私もそうだよ。でも表札に「桜花武神流」って書いてあるから間違いないと思う」
「だよね。とりあえず、チャイム押してみる?」
「うん」
ピン、ポーン……
ちょっと緊張してきた。
ムキムキのおじさんが出てきてもいいように気をしっかり持とう。
……さあ来い! ムキムキでもオラオラでもドンとこいだよ!
「どなたかな」
「ほえ?」
出て来たのは見るからに死にそうなおじいちゃん。
長い白髪に長い白髭のおじいちゃん。
白い着物とハカマを着てるせいで死に装束みたいだ。
目を閉じてるけど開ける元気もないとか? 起きてて大丈夫なの?
「私達、シズカさんとユリカさんに紹介されてきました。私はザナーシャといいます」
わたしが呆然とおじいちゃんを見てると、さっちゃんが小声で「挨拶」と言ってくる。
……挨拶して大丈夫? この人、ホントにここの人なの? 迷い込んだんじゃなくて?
あ、でも、格好が色違いのシズカさんと思えばギリギリ関係者に見えなくもないかな? シズカさんのおじいちゃんとか?
……うん、きっとそうだね。
でも、こんな死にそうなおじいちゃんが来客に対応なんて、この道場って人がいないのかな……。
わたしが挨拶にためらってると、再度さっちゃんが小声で「挨拶」と言ってくる。
「えっと、アウレーリアです。シズカさん達の紹介で来ました」
「……」
返事がないんだけど……。無言の沈黙がつらい。
耳が遠くて聞こえなかったのかな?
「……」
「あの、シズカさん達の紹介で来たんですけど……聞こえてますか?」
「アリアちゃん、失礼だよ」
「だって……」
無言だよ、どうしたらいいの? もう一回チャイムを押して、違う人に来てもらう?
「ついてきなさい」
「あ、はい」
……よかった、一応聞こえてたみたい。耳は遠いみたいだけど足取りはしっかりしてる。
通されたのは普通のリビングだ。そう、「普通」のリビングだ。
うちと似たような広さに似たような家具。
道場とか剣術とかは無縁の普通のリビングだ。
……ここって普通の家なんじゃないの? おじいちゃん以外誰もいないし。
道場って、強い人がいっぱいいて元気よく修行してるんじゃないの?
「そこにかけなさい」
「「はい」」
おじいちゃんが座った向かい側の席に座ると横からお茶が出された。
え!? 誰!?
ビックリして横を見るとおばあちゃんがいた。
おじいちゃんと同じ格好で、この人も死にそうに見る。
気配がなさすぎて全く気が付かなかったよ………ここって幽霊屋敷?
「粗茶ですが、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
普通のおばあちゃんだ。よかった、幽霊じゃなくて……。
でも、これってどういう状況なんだろう。わたし達って道場に見学に来たんだよね? 老夫婦? の家にお茶を飲みに来たんじゃないよね?
「話はシズカ達から聞いている。すまんが、今日はシズカ達はいない」
「は、はい」
……普通に喋れるんだ。
でもなんか、ゾワゾワした喋り方だ。シズカさんとは違った怖さがある。
怖いものを見た後の夜のトイレとか、そういった感じの怖さ。
……ホントに幽霊じゃないよね……。
「……」
「……」
なにこの沈黙! どうしたらいいの!?
助けてさっちゃん! さっちゃんの手を握り目で訴える。
「……すいません、今日は見学に来たのですが、道場でどの様なことをやっているのか、見せてもらってもよろしいでしょうか?」
さすがさっちゃんだよ! すごい頼りになる! 大好き!
「……」
「……」
……ダメだ! このおじいちゃんに話は通じないよ!
おばあちゃんは! おばあちゃんはどこ!? おばあちゃんの方が話が通じる気がする!
「ヤガミ師範代、時間になりました。お願いします」
「!?」
おばあちゃんを探してたら反対から男の人の声が聞こえた。
またビックリさせられたよ! ここの人達って、気配を消して人を脅かすのが趣味なの!?
「うむ、では行こうか。二人とも、ついてきなさい」
「はい……」
とにかく時間が動いてよかったよ……。
あのままの無言空間だったら逃げ出してた。
とにかくついて行こう。きっとこことは違う、イメージ通りの道場風景が待ってるに違いない。もう無言空間は遠慮したい。熱苦しい人がいっぱいいた方が安心できる。
ついて行くとリビングを抜けて2階に上がった。
「……」
期待してた想像と違ったけど想像はしてたよ。
……無言。
部屋は広いし20人くらいいるんだけど、みんな正座して目を閉じてる。
そして無言。
なにこれ? 無言ブームなの、この道場?
「二人はそこの椅子にすわってなさい」
「はい」
指定されたのは道場の隅の椅子。完全にお客さん用だね。
……それにしても広いなー、何メートルあるんだろ? 2階部分は全部つながってるのかな? これぞ道場! って感じでイメージ通りだ。
雰囲気をのぞけば。
おじいちゃんは人の間を抜けて道場の奥に座った。
「今日は入門予定者が見学をする」
……なんだろ。見られてはいないんだけど視線をビンビン感じる。
空気が張り詰めた感じ。こういうのは苦手だなー……。
「二人一組、はじめなさい」
……え? わたしたち、挨拶とかしなくていいの? いきなり始めちゃうの?
あ、二人一組になって向かい合って木刀を構えていてすごく道場っぽい。
ここから「やー」とか「うりゃー」とか始まるんだよね。
みんなで目を閉じて……ん? 目を閉じて?
「……」
「……」
また無言だよ! 構えて微動だにしないよ!
ここって無言合戦の道場!? シズカさん達みたいにかかしを切ったりしないの!?
「さっちゃん、イメージと全然違うね……」
「そうだね。でも、殺気は凄いから何か意味があるんだと思うよ」
「さっき? なにそれ?」
「殺す気配のこと。相手を殺す時に出るオーラみたいなものだよ」
「ふーん……」
……そんなもの、わたしは全然感じない。単なる無言合戦にしか見えない。
「……」
「……」
……いつまで無言なんだろ? もう30分は経ったよね?
さっちゃんは真剣に見てるけど、わたしは退屈でしょうがない。
だって無言で動かないんだよ、退屈に決まってる。
「……さっちゃん、帰ろうか?」
「アリアちゃんには退屈だよね、これ」
「うん」
さっちゃんは真剣に見てるけど、わたしにはさっぱりだ。
木刀をもって構えてはいるけど無言で動かないんだもん。何がしたいのかわかんない。これなら町内1週マラソンとかした方がよっぽど修行っぽい。
「二人には退屈だったかな」
「!?」
いつの間にかおじいちゃんが隣に座ってた。
またビックリさせられたよ! なんなの!? やっぱり脅かすのが趣味なの!?