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ゆうき あきや
1,642
厚揚げ衣
20
なんたろ
1
いちご@ホロオタ×ぴちりす
295
「よし……。特急料金マシマシで頼んだだけあって、最高の出来栄えだ」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は、PCモニターに映し出された新しいLive2Dモデルを見つめながら、ニチャアッと下品な笑みを浮かべていた。
画面の中でフワフワと揺れているのは、白猫をモチーフにした、あざとさ全開の美少女キャラクター。
大きな瞳、フリルたっぷりの衣装、そして頭にはピンと立った真っ白な猫耳。
誰が見ても「可愛い!」と叫びたくなるような、王道中の王道のデザインである。
「モデリング費用とイラスト代、合わせて五十万。……痛い出費だが、これも大事な【外注費】だ! 利益を圧縮するための尊い犠牲(経費)なんだよ!」
事の発端は数日前。
来年の税金が一千万を超えるという絶望の未来を回避するため、俺は配信で『アシスタント兼マスコットキャラクター』の募集をかけた。
予想通り、X(旧Twitter)のDMには、数百件もの応募が殺到した。
『和尚の税金対策、手伝います!』
『私をガッツリ経費にしてください!』
『簿記2級持ってます! 声もアニメ声って言われます!』
最初はウキウキで音声サンプルを聞き始めた俺だったが、すぐに頭を抱えることになった。
「どいつもこいつもうるせえんだよ……っ!」
キャピキャピした過剰なアニメ声。
「にゃんにゃん!」と媚びを売るような作られたトーン。
ただでさえ税金のことで自律神経が狂っている四十歳の耳には、そんな若さあふれる高音は、黒板を引っ掻く音と同レベルのストレスだったのだ。
「ダメだ、こんな声のやつと一緒に仕事したら、経理の計算ミスった時にキレてパソコン壊しちまう……」
絶望しかけた俺の耳に、ある一つの音声ファイルが留まった。
『――はじめまして。この度はアシスタント募集の件でご連絡いたしました』
「……おっ?」
その声は、他の応募者とは全く異なっていた。
低めで、少しハスキーで、一切の感情の起伏を感じさせない、異常なほど落ち着き払ったトーン。
まるで、深夜のFMラジオで流れてくるような、耳にスッと馴染む心地よい大人の声。
「……あれ? なんかこの声、どこかで聞いたことがあるような……」
一瞬、背筋をスッと冷たいものが撫でたような気がしたが、俺は首を振ってその違和感を打ち消した。
『エクセルを用いたマクロ構築、スプレッドシートでの経費の自動集計、ならびに会計ソフトへの仕訳入力補助が可能です』
淡々と、しかし完璧な滑舌で自身のスキルを語るその声に、俺の脳内のインボイス電卓が激しく反応した。
「こ、これだ……! 媚びない、うるさくない、しかも実務能力がガチ! 俺が求めていた『最強の経費(アシスタント)』はこいつだ!!」
俺は即座に彼女に採用通知を出し、名前を【結愛(ゆあ)】と名付けた。
そして、彼女の落ち着いた声に、あえて『あざとい猫耳美少女』のガワ(アバター)を被せるという、ギャップ萌えを狙ったプロデュースを仕掛けることにしたのである。
五十万円の自腹を切って発注した『結愛』のモデルは、瞬く間に完成した。
「よし! 準備は整った! 今夜、お前を世界にお披露目してやるからな、結愛!」
俺は三万円のゲーミングチェアに深く腰掛け、配信ソフトの開始ボタンをターンッ! と押し込んだ。
タイトルは『【重大発表】俺の税金対策の救世主! 新人猫VTuber『結愛』デビュー!』。
配信が始まると同時に、待機していた数万人のリスナーがチャット欄に雪崩れ込んできた。
『うおおおお!』
『本当に経費(アシスタント)雇ったのかww』
『税金から逃げるための女』
『名前は結愛ちゃん!? 可愛い名前じゃねえか!!』
「おうお前ら! 待たせたな!」
俺はモニターの超絶イケメンアバター(ルシフェル)を大きく動かしながら、マイクに向かって声を張り上げた。
「俺の今年の売上が爆増したせいで、来年の税金が一千万を超えそうだって話はしたよな!? だから俺は、合法的に利益を削るために、最強のアシスタントを雇ったんだよ!」
『クズの極みwww』
『脱税和尚』
「脱税じゃねえ! 節税だバカヤロウ! ……というわけで、さっそく紹介しよう! 俺の確定申告の命綱であり、癒やしのマスコット! 出てこい、結愛!」
俺が合図を出すと、画面の右端から、フワリと白いシルエットが舞い降りてきた。
『…………』
ルシフェルの隣に並んで表示されたのは、白猫をモチーフにしたフリフリの衣装を着た、猫耳の美少女アバター。
その大きくて潤んだ瞳がパチパチと瞬きをし、猫耳がピコピコと愛らしく動く。
『おおおおおっ!!』
『可愛い!!!!』
『ガチの美少女じゃねえか!!』
『和尚の隣にはもったいない!!』
『これ五十万!? 良い買い物したな!!』
『スパチャ:10,000円(結愛ちゃんデビューおめでとう!)』
チャット欄の盛り上がりは、一瞬で最高潮に達した。
「ふはははっ! 見たかお前ら! 俺のプロデュース力と、五十万の経費(ガワ)の威力を! さあ結愛、みんなに可愛く挨拶してやれ! にゃーん、とかな!」
俺がニヤニヤしながら振ると、ディスコードの通話越しに、結愛の音声が繋がった。
数万人のリスナーが、可愛い猫耳美少女から発せられる、甘いアニメ声を期待して息を呑む。
そして。
真っ白な猫耳VTuber『結愛』の口が、ゆっくりと動いた。
『――大変お待たせいたしました。ルシフェル様の経理担当として着任いたしました、結愛と申します』
「…………」
『…………』
『えっ?』
スタジオ(四畳半)と、チャット欄に、奇妙な静寂が訪れた。
画面の中にいるのは、あざとさ100%の可愛い猫耳美少女。
しかし、スピーカーから流れてきたのは。
一切の感情を排し、ミリ単位のブレもない、完璧なまでに冷徹で事務的な『落ち着き払った大人の女性の声』だったのだ。
俺の背筋に、DMの音声を聞いた時以上の、恐ろしいほどの『既視感』が走る。
「あ、あれ……? 結愛? ちょっと緊張してるか? もっとこう、猫っぽく、キャピッとした感じで……」
俺が冷や汗をかきながらフォローを入れようとした、その時。
『ルシフェル様。大変恐れ入りますが、業務委託契約書に「猫の鳴き真似」および「キャラクター演技」の条項は含まれておりませんでした。よって、これより先は通常のトーンで業務(配信)を進行させていただきます。ご了承いただけますでしょうか』
「…………は?」
息を呑むような、完璧な敬語。
そして、反論を一切許さない、氷のように冷たく、しかし圧倒的に丁寧な言葉の壁。
『ファッ!?』
『声低っ!!www』
『可愛いガワから出ていい声じゃないwww』
『事務員すぎるwwww』
『なんか、怒られてる気分になってきた……』
チャット欄のリスナーたちが、予想外すぎる【可愛くない中身】に混乱し、そして同時に、謎の興奮を覚え始めていた。
俺の背中に、冷たい汗がツーッと流れ落ちる。
なんだ、この圧倒的な『制圧感』は。
可愛い猫のガワを被った、この結愛という女の正体は、一体何者なんだ……?
港区の三十万人コラボを終え、インボイスの地獄から逃れるために雇った新たな仲間。
しかし彼女は、俺の想像をはるかに超える、とんでもない『爆弾(スペシャリスト)』だったのである。
コメント
1件
わああ、第79話読んだよ〜〜!!😭💕💕 タイトルからして絶対面白いやつだったけど、まさかここまでとは…! 猫耳美少女のガワなのに「結愛と申します」って完全に事務員の声で登場するの、ギャップエグすぎて草wwww 「キャラクター演技の条項は含まれておりませんでした」のくだり、マジで和尚の顔が真っ青になるのが想像できるし、チャット欄の「怒られてる気分になってきた」にめっちゃ共感したよ…! 結愛、絶対ただ者じゃないよね…? 和尚の背筋凍らせた過去の既視感、気になりすぎる!! 次の話も絶対追いかけるからね、ゆうきさん!!🔥🔥