_嘘拡 side
息をするように毒性の煙を摂取する。息をするようにライターをつける。息をするように”嫌”だとか”嫌い”だとか負の感情に向き合う。息をするように過去から目を背ける。
だってオレにはこれしか出来ないから。過去の自分に縋っていたって、嫌いな誰かを呪うとしたってどうにもならないから。
“過去に縋れないなら未来に縋りなさい。
未来も縋れないならば自分に縋りなさい。”
オレの親族の誰かの言葉だった。その言葉を聞いたとき、幼いながらにもこの家族が嫌になった。
オレはきみたちに頼っちゃだめなのにきみたちはオレに頼るのか。いいや、頼るなんて言い方が間違っているか。もう最早きみたちがしていたのは、”縋る”。それなのだ。反吐が出る。
だからオレは殺したんだ。この手で、この影で、この穴で。殺した所でどうもならないのは分かっているし、殺しただけでオレの世界が変わるわけでもないのに。お陰様で今はとっても楽しい生活を送れている。守るべき対象も出来たし、仲間にも恵まれているし、交友関係もそこまで終わっている訳では無いだろう。なのにどうして今でも思い出すのか。
…、やめだ、考えるのはやめにしよう。こんなに考えたって意味がない。あの人たちなんてどうでも良いんだから。
『行こう?ラチア』
ラ「はい!」
殺伐とした暗い暗い路地の奥、彼…、いや、彼女の細く白い指に手を絡ませる。するとラチアは少し驚いたようにしながらも嬉しそうに微笑む。嗚呼、なんて愛おしいのだろうか。こんなにも美しい人間が存在するのに、オレの親族はなんて醜くて愚かで腐りきっているのだろう。幾ら殺したとは言え、同じ血が流れているのだからオレだって腐っている。オレの色でラチアが汚く濡れて染まってしまわないだろうか?能力が暴走してしまって、ラチアが紅くなってしまわないだろうか?壊れてしまわないだろうか?
こんな事考えたってキリがないのに。
「「”嘘拡”、”シスター”もし一緒に居るなら行って欲しい任務がある」」
「「居ますけど、なんですか?」」
「「表7番。緑髪だけ捕まえて、他全員殺せ」」
「「はい」」
無線の無機質で、淡白な任務連絡。仕方ないけど行くしかないか。
ラ「表7番ってこの間、第1部隊が行ってた所ですよね?」
『うん、そうだね』
『治安悪いのかな』
と話しながら、殺風景な路地を抜ける。少し開けた場所に出ても、枯れた大木や何年も整備されていないコンクリート道が広がるだけ。目の前には古びた宿屋、好き放題に伸びたつる、ただ適当に咲き誇る野花。錆びた鉄の匂いが嫌と言う程充満している。
良いね、きみたちは。何にも縛られずに生きていて。
ラ「って聞いてます?」
『ん?んー、ごめん、聞いてなかった』
ラ「…もう!」
む、と頬を膨らませながらも再度説明してくれる。話が一段落付くか付かないかの境目でうん、と相槌を打つ。
ラ「…、っていうことなんですけど」
『その通りだね、それで行こう』
『……、ついたよ』
表7番道路に付くと、緑髪の幼い子を囲むようにしている大人共が居た。ラチアを危ない目に合わせないためにも、オレが一歩前に出る。
『その緑髪の女の子、オレたちのなんですけど返してくれますか?』
_「ヤダね」
ふるふると怯えている緑髪の子。
可哀想に。
『えとー……、和解とか出来ません?』
_「無理だな」
ならば武力行使しかないか。
『陰罪、賤劣、…黒穴、”霧立の夕暮れ”』
オレの指先から黒い穴が生成される。
_「舐めてんじゃね、ぇ_」
その穴に吸い込まれるようにして大人が消え去っていく。勿論、女の子に害はないように。
でもこの子、身も心もボロボロだ。
『…、ラチア、治癒かけてあげて?』
ラ「はぁい!」
ラチアは元気に返事をすると、緑髪の女の子に治癒をかけてあげた。途端に周囲が緑色に光り、女の子の体の傷が癒えて行く。しゃがんで、目線を合わせる。
『さて、今君には2つの選択肢がある』
ラ「シスターたちと一緒に来るか、今すぐ逃げるかです」
『どうする?』
_「私は……」
これからの先のお話はそうだな、オレが語るべきじゃない。
コメント
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… 、 ははっ ( 圧倒的 定時 越え ( 謝罪 ) )