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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
前世の全ての因縁であったバロア王国のネズミたちを完璧に一蹴し、皇宮の大謁見の間を後にした私は、今、世界で一番大好きな場所にいた。
そこは、ガルディニア皇宮の奥深くに位置する、私のためだけに作られた『白銀と深紅の薔薇の私庭』。
初夏のうららかな陽光が降り注ぎ、心地良い微風が咲き誇る薔薇の甘い香りを優しく運んでくる。これまでの激しい死闘や、世界を滅ぼそうとしたおぞましい闇の気配など、まるで遠い夢だったかのように、ここにはただただ穏やかで平和な時間が流れていた。
「お待たせいたしました、ローゼマリー様、アルベルト様。本日の主役であるお祝いの特製スイーツと、最高級のダージリンティーでございますわ」
いつものおっとりとした完璧な笑顔を浮かべた専属侍女のリンが、銀のトレイを恭しく掲げて現れた。
テーブルの上に手際よく並べられていくのは、リンが朝から付きっきりで焼き上げたという、私の大好物である『氷雪薔薇のレアチーズタルト』。繊細な飴細工の薔薇が添えられたその美しさは、まるで芸術品のようだ。
「まあ、なんて素敵なのかしら。ありがとう、リン。あなたの入れてくれるお茶と、このお菓子が、ずっと恋しかったわ」
私が顔を綻ばせると、リンは嬉しそうにその美しい紫の瞳を細め、メイド服の裾を上品につまんで一礼した。
「そう言って頂けると、メイドとしてこれ以上の誉れはございませんわ。魔王の迷宮で影を奪われたときは、もう二度とローゼマリー様にお茶を淹れられないのではないかと生きた心地がいたしませんでしたが……。こうして再びお側に仕えることができて、私は世界一幸せな侍女ですわ」
「ふふ、あの時のリンの光の魔法、本当に凄まじくお見事だったわよ? 頼もしい私の可愛いリン」
私が彼女の細い手を優しく握ると、リンは少し頬を赤らめながら、「すべてはローゼマリー様への忠誠心の賜物ですわ」と恥ずかしそうに微笑んだ。
◇
「おや、ローゼマリー。僕の存在を忘れて、可愛い侍女とばかりお喋りをするなんて、兄としては少し嫉妬してしまうな」
対面に腰掛けていたアルベルトお兄様が、美しい銀髪をさらりと揺らしながら、悪戯っぽく微笑んでこちらを覗き込んできた。
お兄様はいつもの大掛かりな公爵の礼服ではなく、仕立ての良い白い高貴なシャツを纏っている。驚くほどに整ったその美貌と相まって、陽光を浴びる姿はまるで神話の美神のようだ。
「まあ、お兄様ったら。嫉妬だなんて、相変わらず過保護が行き過ぎていますわ」
私がクスリと笑うと、お兄様は愛おしそうに目を細め、手元にあるタルトを小さくフォークで切り分けた。そして、それを私の口元へと優しく差し出してきたのだ。
「さあ、ローゼマリー。魔王や魔女との戦い、そしてあの愚かな王国との戦後処理……、本当によく頑張ったね。世界を救った僕の偉大で、世界一可愛い妹へ、兄からの極上のご褒美だよ。――はい、あーん」
「も、もう……お兄様、リンも見ている前で、子供扱いが過ぎますわ……」
至近距離で見つめてくるお兄様の切れ長の瞳、そして完璧すぎるその甘い微笑みに、私は少しだけ頬を上気させた。前世のバロア王国では、誰かを頼ることも、こうして誰かに甘やかされることも絶対に許されなかった。だからこそ、お兄様のこの真っ直ぐな愛情が、たまらなく嬉しくて胸の奥がじんわりと温かくなる。
「ふふ、ローゼマリー様、ご遠慮なさらずに。アルベルト様は、迷宮で離れ離れになった際、早くあなた様にお菓子を『あーん』して差し上げたいと、それはもう恐ろしい魔力で壁をぶち抜いておられましたから」
リンが楽しげにクスクスと笑いながらお茶を注ぎ足す。
「リン、余計なことを言わなくていいんだよ。……さあ、ローゼマリー。お兄様のこの愛が詰まったタルト、受け取ってくれるかい?」
お兄様のどこまでも優しい視線に降参し、私は小さくコクリと頷くと、差し出されたタルトをそっと口に含んだ。
「――っ、とっても美味しいですわ、お兄様、リン!」
口いっぱいに広がる濃厚なチーズのコクと、ほのかな薔薇の香りの絶妙なハーモニー。
私が満面の笑みを浮かべると、アルベルトお兄様は「最高の瞬間だね」と満足そうに胸を撫で下ろし、私の口元についた僅かなクリームを、その綺麗な指先でそっと優しく拭ってくれた。
◇
「ローゼマリー。世界は救われ、僕たちを脅かすゴミはすべて消え去った。これからはね、誰も君を傷つけない。誰も君を無能と罵らない。君はただ、この美しい庭園で、僕とリンにこれでもかと甘やかされながら、大好きな紅茶を飲んで、ただただ幸せに笑っていればいいんだよ」
お兄様が私の両手をテーブル越しにそっと包み込み、深く、誓うようなトーンで語りかけてくる。
「ええ……。本当に、ガルディニア帝国に生まれ変わって、お兄様とリンに出会えて、私は本当の『幸福』を知ることができましたわ」
私は二人の温かい手を交互に見つめ、心からの、最高に幸せな微笑みを浮かべた。
かつて悪役令嬢として全てを裏切られ、泥水をすすって死んだシャルロットの魂は、今、最強の皇女ローゼマリーとして、この上ない愛と平和の中で完全に救われたのだ。
咲き誇る薔薇の香りに包まれながら、私たちはいつまでも、尽きることのない穏やかなお茶会の時間を、幸せそうに楽しむのだった。
コメント
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ああ、やっと訪れた静けさと甘やかしの時間ですね! 魔王迷宮での激闘や謁見の間での決着を経て、このお茶会シーンは本当に沁みました。ローゼマリーが前世で奪われていた「誰かに甘やかされる」という小さな幸せを、お兄様とリンから存分に受け取っているのが尊い……。アルベルト様の「あーん」は照れるけど、それを受け入れられるようになった彼女の成長にじんときました。氷雪薔薇のタルト、食べてみたいです。
ねむ
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