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第66話、読み終えました……。「箱はもうない」「でも、名前なら残ってる」っていう一文からもう、ぞわってしました。ロッカーの傷とノートの写真が一致した瞬間、心臓がドキドキしました。そしてお互いが「事故の前日、あの店で誰かを待ってた」って気づくところ……。別々だった記憶が同じ場所で重なる瞬間、すごく切なくて、でも二人が同じ方向を見て病院へ向かうラストが本当に良かったです。続きが気になります……!
第六十六話 残された名前
「……今、何か思い出した?」
彼女が聞いた。
彼は紙を握ったまま、しばらく答えられなかった。
「名前が……」
「名前?」
「うん。頭の中に浮かんだ」
「誰の?」
「分からない」
それが一番悔しかった。
確かに聞こえた。
確かに、知っている名前だった。
なのに、思い出そうとすると、
その名前だけがすり抜けていく。
彼女は紙を見る。
「ここに書いてある名前じゃないの?」
「……違う」
「じゃあ、何?」
「それが分からない」
二人はロッカーの前で顔を見合わせた。
紙には、
『箱はもうない。』
『でも、名前なら残ってる。』
と書かれている。
その下には、誰かの名前が一つ。
けれど、その名前を見ても彼の記憶は戻らなかった。
「これ、誰なんだろう」
彼女が呟く。
彼は紙をもう一度確認した。
名前の横には、小さな丸と一本の線。
あの封筒にもあった印だった。
「……やっぱり、同じだ」
「じゃあ、この名前を書いた人も……」
「箱のことを知ってる」
彼女が頷く。
そのとき、彼はふと気づいた。
「待って」
「どうしたの?」
「このロッカー」
彼は扉の内側を見る。
そこには、小さな傷がいくつか残っていた。
そのうちの一つに、
文字のようなものが刻まれている。
「これ……」
二人で近づいて見る。
よく見ると、数字とアルファベットが混ざっていた。
彼女がスマートフォンのライトを当てる。
「何かの番号?」
「たぶん」
彼は写真を撮った。
すると、彼女が突然黙った。
「……どうした?」
「この数字」
「うん」
「見覚えがある」
「どこで?」
彼女は自分のスマートフォンを操作する。
古いメモ。
写真。
保存されていたデータ。
何度も画面をスクロールしていく。
そして、一枚の写真を開いた。
「これ」
そこには、昔のノートが写っていた。
端に書かれていた数字が、
ロッカーの内側に刻まれていたものと一致している。
「なんで私のノートに……」
彼女は困惑した。
「このノート、いつの?」
「分からない。私が昔保存してた写真だから」
「じゃあ、事故より前?」
「……たぶん」
二人は顔を見合わせた。
彼女自身も、事故前の記憶が
完全に残っているわけではない。
それでも、写真として記録が残っていた。
「これ、調べてみよう」
「うん」
二人は数字を検索した。
すると、それはある施設の
電話番号の一部だと分かった。
「施設?」
「昔の……相談窓口みたい」
彼は画面を見つめる。
事故のあとに行った病院とは違う。
事故より前に、この番号に関わる何かがあった。
「私、ここに電話したのかな」
彼女が言う。
「分からない」
「でも、どうしてこの番号を残してたんだろう」
答えは出なかった。
帰り道。
彼女はずっと黙っていた。
駅を出て少し歩いたところで、突然立ち止まる。
「……ねえ」
「ん?」
「私、思い出したかもしれない」
彼が振り返る。
「何を?」
彼女は自分の青いリボンに触れた。
「事故の前の日」
「……うん」
「私、誰かを待ってた」
彼は何も言わずに聞いた。
「場所は……あの店」
「え?」
「窓際の席で、誰かを待ってた」
彼女は目を閉じる。
「その人に、何かを渡すために」
彼の中でも、あの店の光景が蘇る。
小さな箱。
向かいに座る誰か。
そして――
「……俺も」
「え?」
「俺も、誰かに何かを渡そうとしてた」
二人は立ち尽くした。
これまで別々だった記憶が、
初めて同じ場所で重なった。
店。
窓際の席。
小さな箱。
そして、事故の前日。
「じゃあ……」
彼女が小さく言う。
「私たち、あの日……」
そこまで言ったところで、
彼のスマートフォンが震えた。
また、知らない番号からだった。
今度はメッセージが一件。
『思い出したなら、次は病院へ行って。』
彼は画面を見つめた。
その瞬間。
昨日までぼんやりしていた記憶が、
ほんの少しだけ形になった。
白い壁。
病室の椅子。
そして、自分の前に立っていた誰か。
その人が言った。
「このことは、まだ誰にも言わないで」
彼は顔を上げた。
「……病院に行こう」
彼女も頷いた。
今度は、二人とも同じ方向を見ていた。