❤️side
家に帰り、スマホを見ると、翔太からメッセージが入っていた。
💙『今日、行かれなくなった。悪い』
ドラマの撮影が長引いているらしい。
久々に会えるのを楽しみにしていたのでかなり落ち込んだ。
俺たちはすれ違いばかりで、本当に最近会えてないのだった。グループ仕事以外では、ほぼひと月近くの空白期間が経とうとしていた。
❤️『いいよ。次に会えるのを楽しみにしてる』
💙『ごめんな』
それでも我慢して聞き分けのいいメッセージを送り返した後、シャワーを浴びていたら、阿部から電話がかかってきた。 音には気づいたけど、出られず、着信からかけ直す。
❤️「どうした?」
💚「あ、ごめん。忙しかった?」
❤️「いや、シャワー浴びてただけだよ」
💚「そっか…」
電話口で阿部が黙る。
何かあったのだろうか。
阿部は何か悩みを抱えているのかもしれない。仕事のことだろうか。
💚「あのね、今から……会えない?」
❤️「いいけど」
結果的に、その夜、翔太が空けた穴を、阿部が埋めてくれることになった。 一人でいるのもうら寂しい気分だったので簡単なつまみや、酒を用意して阿部を待つ。翔太のために仕込んでおいた料理も完成させておく。
…ちょっと作りすぎたかもしれない。
💚「お邪魔します」
もう夜だというのに、昼間の太陽のような笑顔で阿部が現れた。そして、手土産に翔太が好きそうなお菓子をいくつも持ってきた。もちろん、俺も大好きだ。
💚「ここに来るのも久しぶり」
❤️「来たことあったっけ?」
何気ない一言に阿部の頬が不満げに膨らむ。
💚「あるよ。忘れちゃった?」
うなじのあたりを触る阿部に、どきっとした。
❤️「あれ?阿部、髪、切った?」
💚「え?わかる?」
❤️「色もちょっと変わった…ような?」
阿部が照れている。唇をキュッと結んで、何とも言えない可愛らしい顔をした。
いけない、阿部に鼻の下を伸ばしていることを知られたら翔太に怒られてしまうだろう。
翔太は、口には出さないが、意外と嫉妬深いところがあるのだ。
💚「気づいてくれて嬉しい!」
阿部が屈託なく笑うので、最近、寂しさが胸に積もっていた俺には刺激が強く、どうしても胸が高鳴った。阿部のあざとさは、人を魅了する力がある。その気はないとわかっているのに、どうしても可愛らしく感じてしまうのだ。
無計算の翔太とはそこが違っていた。
❤️「阿部ってそういうところあるよね…」
俺が一人呟くと、不思議そうに阿部は首を傾げる。
そう、そういうところ。俺の言葉、たぶん聞こえているくせに。
思わずため息が出た。
💚「うわー、ご馳走だね」
❤️「なんか、無心に鍋振ってたら作りすぎてしまった」
料理をしている時は、作業に集中しているから、ある種ハイになって、よく量を作りすぎてしまう。たくさん食べる方だからなるべく自分で処理をするけど、この前、鍋いっぱいのブイヤベースを仕込んだときにはさすがに食べきれないのでメンバーにも分けて食べてもらった。
一番食べてくれるのはラウール、続いて、この阿部。若いラウールはともかく、その細い身体にどれだけ食べるんだ、と阿部については不思議だったが、小分けに冷凍して少しずつ食べてくれているらしい。それなら納得だ。自分では料理できないから助かると言っていた。
一方で恋人の翔太は、あまり俺の料理をもらいたがらない。家で温め直すのが面倒なんだそうだ。言い訳のようにお前と食べる方がいい、と言われている。まあ、それならそれでいい。
💚「舘さんの料理、美味しいからたくさん食べれるの嬉しい」
❤️「……ありがとう」
阿部はまた、陽だまりのような笑顔を浮かべて俺を誘惑してきた。 誘惑、という自覚はきっとないだろうから天然の可愛らしさなんだろうけど、それにつけても恐ろしいやつ。阿部の愛想の良さは、俺たち、近しいメンバーにとっても変わらず脅威だ。
翔太はこんなふうに俺を手放しに褒めたりしない。俺は頭のどこかで2人を比較してしまうことを止めることが出来ないでいた。
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