コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
風「平野…今見たやんな?今の岸くんやったやんな?そんで、隣におったん彼女やったやんなぁ〜!? 」
平野の肩を両手で掴み、ガクガクと揺らす。
平野「い、いや、わかんないぞ?もしかしたら…ほら!妹パターンとか!」
風「岸くんの妹、こーんなちっちゃかったやん!(幼稚園生くらいの背丈を示す)平野も見たやん!あれはどう見ても彼女やん! (>_<)」
平野「あー…それはその…」
風「よっしゃ!尾行すんで!」
平野「えぇーっ尾行!?」
平野「あの制服ってさ、中学生じゃないか?」
風「えぇっ!?岸くん、ちょっとロリコンやん…щ(゚д゚щ)」
電柱から電柱に走り渡り、人影に身を隠しながら、岸くんと彼女を尾行する。
2人の会話は聞き取れないが、かなり楽しそうに笑い合っている。
風「だからさっきからくっつきすぎなんよなぁ…!岸くんもあんなデレデレした顔、学校では全然見せへんのにぃ~!キィ~っ!!」
平野「……あ、あのさ、こっちもくっつきすぎじゃね?」
!!!( ゚д゚)ハッ!!!!
あまりにも必死になりすぎて、平野の腕に両手で、というか全身で?しがみついていた!!!( ゚д゚)
風「ごごごごめん!!!!」
慌ててぱっと両手を離す。
それこそ彼女でもない限り、おかしな距離感やったわ~。
すると、彼女が背伸びをして、岸くんに何か耳打ちをする。岸くんがちょっと屈んで、彼女の方に傾く。
風「(((;°Д°;))))ギャーッ何すんのも~っ!!」
キスでもするのかと思ったやん!((*ÖㅁÖ≡
あの傾いてあげる感じとかも、彼女のことめっちゃ可愛いと思ってる感じがヒシヒシと伝わってきて妬けるし!
ギュウ~ッ。
平野「うぁ~っお前、握力、握力!痛ぇよ!」
!!!( ゚д゚)ハッ!!!!
またしても無意識に平野の手を掴んでしまっていた。
風「ご、ごめんごめん」
次の瞬間、突然岸くんと彼女がダーッと走り出した。
えっ、なになに!?
風「平野、追いかけんで!」
とっさに平野の手を掴んで走り出す。平野は「えぇっ!?」とまた戸惑いの声をあげながら、ついてくる。
やばい、見失う!
岸くんたちの姿が見えなくなった角を慌てて曲がると、そこには仁王立ちした岸くんと彼女が立っていた。
風・平野「わあっ!」
岸「お前ら何やってんだぁ!?俺たちのことをつけてただろう?」
彼女「私が気付いたんだよーん!」(だからさっき耳打ちしてた)
風「あ、あの、それは…」
平野「岸くんが彼女っぽい子と歩いてたから、尾行しようって俺が」
私が戸惑っていたことに気づいたのか、平野がさっと前に出てそう言ってたくれた。
平野「で?岸くん、その子彼女なの?」
平野がズバリと聞く。
岸「彼女ぉ~!?」
岸くんと彼女は顔を見合わせた後、プハハハハ!と2人同時に吹き出した。
岸「これ、俺の妹!杏奈っての」
杏奈「優太が彼氏とかないからー!私にだって選ぶ権利あるしー」
岸「おぉいっ!」
妹…?え?本当に妹パターンだったん?
平野「俺、当たってたじゃん!」
平野が、「褒めて褒めて」と自分の顔を指差す。
風「だって名前、優太って呼んでる…」
岸「そうなんだよ、こいつ生意気でさぁ。お兄様と呼べ!」
杏奈「やぁ~だよ!自分だって、お兄のこと大貴って呼んでんじゃん!」
岸「あ、そっか」
妹に言いくるめられて大人しくなる。
杏奈「ねぇー、優太の友達にこんなイケメンがいるの知らなかった!うちに遊びに来てもらおうよー!夕飯食べてってもらおー!」
杏奈ちゃんが平野を見て、キャピキャピと岸くんの背中を叩く。
岸「俺はいいけど、招待してもたいしたもん出せねーぞ?寮の夕飯の方がよっぽど豪華だと思うけど…」
風「行きたいっ!岸くんち、行きたいやんな!?平野!?」
平野「お?おう、行く行く!」
杏奈「やった〜!じゃあ早く行こっ!」
杏奈ちゃんが今度は平野の腕を組んでグイグイと引っ張るように歩き出した。
岸「なんだよあいつ、紫耀にデレデレしちゃって」
私は岸くんと並んで歩き出す。
岸「あいつ、普段は男の話なんて全然しないのに、やっぱり紫耀レベルのイケメンにはさすがにキャピキャピするんだな」
さっきからずっとブツブツ言っている。
風「岸くん、ヤキモチィ~?」
岸「はっ!?ちげーし!!」
かっわいいなぁ~。ヤキモチ妬いてるぅ。妹のことめっちゃ可愛がってるんやなぁ。
岸くんの醸し出すお兄ちゃん感(時にお父さん感、というかみんなはおじいちゃんって言ってるけど笑)、実際にこうやっていいお兄ちゃんやってるから溢れ出てるもんやったんやなぁ。
「おぉ~優太~!おかえり~!あれっ?お客さん?」
岸くんちはお世辞にも綺麗とは言えない古びたアパートで、その狭い玄関で出迎えてくれたのは岸くんとはまたちょっと違ったタイプの顔の薄顔イケメンだった。
岸「これ、俺の兄貴。大貴っていうの。こっちは俺のクラスメート。平野紫耀と舞川風ちゃん」
平野・風「はじめまして、お邪魔しまーす!」
大貴「どうぞどうぞ、お客さん大歓迎だよ~!大したもんじゃないけど、夕飯食べてって~!」
岸「作るの俺だけどな!」
岸くんは腰から巻くタイプのエプロンをキュっと結んで、台所に立った。
そう、キッチンじゃなくて、台所っていったほうがぴったりな台所。
岸「杏奈、お前も女なんだから、ちょっとは手伝えよな。そんなんじゃ、お嫁に行けないぞ?」
杏奈「お嫁になんか行かないからいいよーだ!ずっと優太に作ってもらうから!」
台所に立つのは岸くんだけでさっきから杏奈ちゃんと大貴さんは私と平野と一緒に、ずっとちゃぶ台を囲んでいる。
大貴さんはいかにも人の良さそうな屈託ない笑顔で、お茶を入れてくれたりチャカチャカと世話を焼いてくれている。さすが岸くんのお兄さん、腰が低くて”人の良さ”がにじみ出ている。杏奈ちゃんはちょっと生意気な今時の中学生って感じ。
岸「うーい、できたぞ~!」
杏奈「わぁ~い!」
ちゃぶ台の上に置かれたのはチャーハン一品だけ。
夕飯にチャーハン?結構軽めだなぁ。うちの家では夕飯でチャーハン出てきたことないかも。
岸「ごめんね、こんなものしかなくて!お客さんが来ると分かってたら、他に材料を買っといたんだけど。うち、俺が帰って来る土日の夕飯はチャーハンって決まっててさ。杏奈のリクエストなんだよね」
杏奈「だって優太の顔見ると、なぜか食べたくなるんだよねー」
岸「俺、結構他にも色々料理できるんだけどさ、なかなか披露させてくれなくて」
杏奈「いいのいいの、これがいいの!」
風「うん、私もチャーハン大好きやよ!」
夕飯の後はみんなでトランプとUNOをやって過ごした。
こんな風にみんなでワイワイ楽しい時間を過ごすのっていいな。
私は一人っ子やから、アメリカで家に引きこもってからはほとんどそんな時間を過ごしたことがなかった。
小さい頃は海ちゃんやなっちゃんと姉弟みたいに育てられて本当楽しかったなぁって、アメリカでも何度も思い出してた。
やっぱ兄弟っていいなぁ。
風「そういえば、お母さん遅いね?お仕事?」
一瞬、空気が凍るような、そんな緊張感が走った。
岸「うち、母親いないんだよね」
え……?
風「ご、ごめん、なんか変なこと聞いちゃって…」
杏奈「今かわいそうとか思ったでしょう?でも、全然平気だよ!そもそも私、お母さんの記憶とかないし。ずっとお兄と優太がいてくれたから、寂しくなかったし!」
杏奈ちゃんのはつらつとした答えに、その場の空気が救われた。
岸「じゃあ、ちょっとそこまで送ってくるから」
杏奈「紫耀くん、また来てねー」
大貴「風ちゃんもまた、遊びにおいで~」
杏奈ちゃんと大貴さんがヒラヒラと手を振って見送ってくれた。
風「なんかごめんね。今日は突然プライベートにずかずか踏み込んじゃって」
岸「いや、別に全然いいけど?」
風「私、岸くんちの家庭の事情とか全然知らなくて…」
平野「寮でずっと一緒に暮らしてるけど、お互いの家庭の事情とか知らないよな。みんなそんなに自分のこと話さないの、普通じゃねーの?」
風「でも、みんなが、岸くんはプライベートが謎とかミステリアスとか色々言ってたから。あんまりそういうの知られたくなかったのかなーって…」
本当はもっと知りたい。岸くんのこと全部知りたい。
どうしてお母さんいないんだろう?離婚?まさか死んじゃったとか?
いつから兄弟3人で寄り添って生きてきたの?本当に寂しいと思ったことはなかったの?
でも、そんなこと、聞いちゃいけないよね。
岸「確かに今まで誰にも話してなかったけど、別に隠してた訳じゃないよ?全然全然!」
それなら聞きたい。ぜんぶ聞きたい。
岸くんをじーっと見る。
岸「そんな子犬みたいな目でじっと見られても困るんだけど…じゃあ、話しちゃいますか!お前らになら全然いいよ。初公開、岸劇場!舞川ちゃんだって、過去の辛い話、俺たちに話してくれたんだしな!」
岸くんは土手にしゃがみこんでポンポンと芝生を叩く。ここに座れと促しているらしい。
岸優太。
小学校3年生。
ある日、母親が俺を呼んだ。
「優太に料理の作り方を教えてあげる。大貴はちょっと不器用だからね、優太はとっても手先が器用だからきっとできるようになるわ」
母親に褒められたことも嬉しかったし、いつもパートで忙しそうな母親と2人の時間を持てるということがなによりうれしくて、料理なんて全然興味がなかったけど、一生懸命母親の言うことを聞いた。
「1つでいいから、得意料理を作りなさい」と言って、最初はチャーハンの作り方を教えてくれた。
「これなら簡単で、ちゃんと野菜も取れるからね」って。
毎日ほんの少しずつの時間だったけど、「上手になってきたね」と褒められることが嬉しくて、一生懸命練習した。
ある日、
「もう完璧ね。これで大丈夫ね。これでもう優太に任せられるわね」と母親が言った。
合格点をもらったみたいな気がして、すごく得意げな気持ちになった。
だから次の日、家に帰って台所に「優太へ」と書かれたメモ用紙が上に置いてあるエプロンを見つけた時、母親がご褒美にプレゼントを買ってくれたんだと思った。
嬉しくてすぐにそのエプロンをつけてみた。腰から巻くタイプのエプロンで、ちょっと大人になった気分になった。
嬉しくて、母親がパートから帰ってくる前に、1人でチャーハンを作り始めた。
帰ってきたらびっくりさせようさせてあげよう。喜んでくれるかな?
ワクワクしながらフライパンを振った。
だけどその日に限って、母親は帰りが遅かった。大貴や杏奈が帰ってきて、「今日お母さん遅いね」なんて言って、まるでお預け状態でテーブルの上に並べたチャーハンのお皿を見つめ3人で行儀よく並んでいた。
「お腹すいたよー。早く食べたいよー」とまだ年長さんだった杏奈が泣き出して、仕方なく3人で食べることにした。
もう夜9時を回っていた。
その頃には本当は、わかっていた。
あぁ、母親はもう戻ってこないんだ。
自分がいなくなったときに子供たちが食べるのに困らないように、俺に料理を教えてくれていたんだ。
昨日合格点をくれて「もう大丈夫ね。これで優太に任せられるわね」と安心した母親は、家を出ていったんだ。
多分、大貴も気づいていたと思う。2人ともまだ”そんなはずがない”と信じたくて、言葉には出さなかったけど。
完璧にできたと思っていたチャーハンは、なんだかやけに塩気が強かった。
気づいたら、それは自分の涙の味だと気づいた。
幼い妹だけが、何も知らずに「優太お兄ちゃんどうしたの?お母さんが遅いから寂しいの?大丈夫だよ。私が一緒に遊んで待っててあげるからね」と言って頭をよしよしと撫でてくれた。
ごめん、俺がチャーハンを上手に作れるようにならなければ、母ちゃんは出て行かなかったかもしれない。
ごめん、ごめん。
心の中で何度も謝っていた。
エプロンをギュっと握りしめた。
母ちゃん、今日が何の日か忘れちゃったのかな?
それともこれが最後のプレゼントのつもりだったのかな?
その日は俺の誕生日だった。
岸「それからは俺がお母さん代わりだよね。
大貴はあんな感じで優しいけど、ぼーっとしてて頼りないし、不器用で家事はできないし。
俺が学校終わって杏奈の保育園のお迎え行って、いっつもここの土手道、手繋いで夕焼け見ながら歩いてさ、”今日何が食べたい?”って聞くと必ずあいつ”チャーハン!”って。
まだチャーハンくらいしかろくに料理ができなかった俺にとっては助かったけど。
でも、チャーハンを食べるたびにさ、あの涙の味を思い出して、胸がギュッて痛くなるんだ。
だけど、まだ小学校3年生だった俺にはそれしか作れないし、お腹を空かせた杏奈に何か食べさせなきゃいけないし。
毎日毎日チャーハン作った。
小さい頃、そればっかり食べてたから、好物だって刷り込まれてるんだろうな。今でも俺が帰ると必ず”チャーハン作って!”って(笑)
だけど今でも嬉しそうにチャーハンねだる顔見ると、土手道の帰り道で”チャーハン作って!”って嬉しそうに言ってたまだ小さかった杏奈を思い出してさ、こいつの言うことなら何でも聞いてあげたいって思うんだよね。
あの時、杏奈の笑顔だけは絶対に俺が守るって思ったんだ。
杏奈が笑っていてくれさえすれば、全部が満たされてるように思えたんだ」
岸「大貴は、中学校を卒業してすぐに就職した。うち、お金がけっこうきつかったらしくて。
あとで聞いた話によると、親父は親戚の借金の保証人になって、代わりに大きな借金を背負わされることになったらしい。
その親戚はかなりの厄介者で、親戚の中でもみんな関わり合いになりたくないと思っていたような人で。
うちだってかなり遠い親戚にあたるのに、親父の人の良さに付け込まれて、保証人を頼まれて断れなかったらしい。
母親がパートを忙しく掛け持ちするようになる前、よく父親と母親が喧嘩をしていたことが、大貴のぼんやりとした記憶の中に残ってて。たぶん母親は当初から保証人になることを強く反対していたけど、親父が母の反対を押し切って保証人になっちゃって、結局は苦労することになって。
そのことで母親は家計を助けるためにパートを掛け持ちし働いたけど、結局は借金に疲れ果てて家を出ていったんだと思う。
でも、途中からは俺と大貴の推測。
はっきりとしたことを聞いてしまったら、親父を責めることになっちゃうから。保証人になって借金背負ったのは本当だし。
だからどうして母親が家を出ていったのか、本当の理由を知りたいけど、それを探ることはやめようって、俺と大貴の中で決まったことなんだ。
そんなことよりも、俺達がすべきことは、杏奈を守ること。杏奈に寂しい思いをさせないことだって」
切ない。お母さんいなくて、小学生の時から甘えられる人もいなくて、ずっと頑張ってきたその頃の小さな岸くんを今、すっごく抱きしめてあげたい。
岸「えっ!えぇっ!なんで、舞川ちゃんが泣く!?岸劇場、そんなに感動的だった!?」
気づいたらボロボロと涙が流れていた。
岸「わわわ…ごめん、なんかごめん!俺ちょっと波乱万丈すぎた?ってそれ、俺のせいじゃないんだけどなぁ~。いや、でも、マジでごめん!泣かないで~(。´・ω・)ノ゙」
岸くんが頭をよしよししてくれる。
なんで私泣いてんだ、バカ。
辛いのは岸くんの方なのに。
こうやって周りが泣いたりするから、いつも岸くんは”自分は強くなきゃいけない”って我慢しちゃう。
平野「おーいー、岸くーん!何泣かせてんだよ~」
岸「ま~じでごめんって!」
こうやって全然悪くないのに、すぐにあたふたするところも好き。
この大きくて綺麗な手でよしよしされると、とてつもなくキュンとくる。
この包み込むようなあったかい声が好き。
サラサラの髪が好き。
キラキラのお目目も好き。
ニッと顔いっぱいに引き上げて笑う口も好き。
弟なのにお兄さんに頼られちゃってるしっかり者のところが好き。
お母さんがいなくなった理由を作ったかもしれないお父さんを思いやれる優しすぎるくらいに優しいところが好き。
妹を守り抜こうとしている、優しくて頼れるお兄ちゃんなところが好き。
全部全部が好き。
どうしようもないくらいに、この人が好きだ…。