Secret Lovers

Side桃

「北斗」

「京本」

言ってから、どちらも驚く。北斗は途端に耳を赤くさせてうつむいた。

俺はその手をつかみ、無言で引っ張って行く。

「え、ちょっと」

そばの建物の陰まで連れていくと、そのまま壁にそっと押しつけた。いわゆる壁ドンの体勢で。

未だに状況が飲み込めていない北斗の顔が、至近距離にある。こんなに近いのは初めてだ。

彼の鼻筋は高く、すっと通っている。やはり肌も綺麗だ。

辺りをさっと見回して人がいないのを確認すると、口を開く。

「今からキスしていい？」

北斗は目を見開いた。口を動かしたが声はない。

俺は右手を壁から離す。「バカげたこと言ってると思ったら、行って。もうこのことは忘れて」

視線を彷徨わせて、明らかに困惑している。

「じゃあカウントダウン。10、9、8、7…」

北斗の目先が空いた左側に向く。きっと迷っているのだろう。しかし俺は続ける。

「6、5、4…」

北斗はゆっくりとこちらに顔を戻す。

「3、2、1……」

彼が目を閉じた。

「0」

壁で身体を支えたまま、顔を近づけていく。

お酒のせいなのか恥ずかしいのか、ほんのり赤みがさしたその顔にほとんど当たりそうな距離で、

「北斗、好きだよ」と言って唇を重ねた。

彼は抵抗もなくじっとしている。

体感は数秒といったところか、北斗が肩を小さくたたいた。それを合図に口を離す。

触れていたところが、ジンジンと熱い。

すると唐突に自分の中にも恥ずかしさが湧いてきて、目をそらす。物陰とはいえ路上なのだ。大の大人がすることではない。

「……ごめん、急にこんなことして。忘れていいから」

背を向けようとする俺を、北斗が呼んだ。

「京本っ」

腕を身体に回される。まさに抱かれているようでびっくりする。

「俺も好き。ずっと前からな」

魅力的な低音でそんなことを言われ、心拍数が跳ね上がる。

「もう今までの関係には戻れないかもしれない。でも俺はこれでいい。…気まずさ、なくなるし」

心のどこかでつっかえていたものが、ほろほろと崩れていく感覚があった。

「……大我かきょもか、どっちがいい？」

口をついて出たのは、そんな言葉。

ずっと聞きたかった。やっと北斗の口から聞ける、という喜びが溢れた。

どっちにしようかな、なんて言って回した腕はそのままで考える。

この大音量で鳴り響いている鼓動が彼に聞こえていたらどうしよう、と思った。

「大我」

どうしようもない嬉しさで、目も合わせられない。

「…北斗」

「ちゃんとこっち見て」

視線だけをやると、あごに指をあてられ強引に向き直される。

「北斗」

いくらなんでもキザすぎないか。

「……きょもでも一回お願いしていい？」

北斗は柔らかく笑い、「きょも」

もう北斗に呼ばれるならどっちでもいいと思った。

「……そうだ、そもそも何で今日来てくれたの？」

ああ、と思い出したように口を開く。

「京…大我と一緒にご飯行きたかった。スケジュール空いてたから」

そうなんだ、と笑う。

「また今度は二人だけで行こうな」

北斗のその言葉に、鼓動は一向に落ち着かない。「もちろん」

「……っていうか、マジでビビったわ。急に壁ドンされると思ったら『キスしていい？』とか言うから。京本ワールド全開だな」

北斗は呆れたように笑う。「…ごめん」

口では謝りながらも、目の前に大好きな北斗の笑顔があって、幸せと喜びが溢れた。

このことをメンバーに伝えたところ、自称強火きょもほく担という樹がものすごく喜んでいたのはまた後の話。

終わり